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132 狂愛のアリス その3

「れ、レーゼ…?」

「まっ、ちょっくら休んでなっ!」



 手にしていた槍を地面に突き刺したレーゼが、そのままアリスの元へ向かう。アリスもなんとか体制を立て直すと、レーゼの拳を受け止めようと防御の姿勢を取る。しかし、



「うぐっ!?」

「無 駄 だぁ!」



 レーゼの拳はアリスの腕や装備を貫通し、そのまま胴を直接殴り飛ばす。息つく暇もなく、今度は反対から拳が振るわれ、今度もまた、レーゼの拳は胴を抉った。



「どうっ、して…ぐぅっ!」

「私はゴーストだぞ?これくらい造作もない!」

「かはっ!」



 今度は、強烈な蹴りが、アリスの横腹に突き刺さる。その蹴りは、偶然にもユアが傷つけた場所と重なり、アリスに更なる苦痛を与えた。

 しかし、レーゼはまだまだ止まらない。急所目掛けて的確に拳を振るい、逃げようとしても蹴りで体制を崩し、再び殴る。


 念力格闘は、魔力以上に精神力の消費が激しい。そのため、レイラでは使うことすら叶わないが、普段から表に出てこないレーゼは使いこなすことができていた。


 そもそも、いつレーゼという人格が生まれたのか分かっていない。本人も気づかないうちに生まれ、レイラはレーゼという人格があることすら知らない。否、誰も知らなかったのかもしれない。

 レーゼは、誰にも知られることなく、息を潜め続けていた。


 だが、レーゼは表に出てきた。「怒り」という感情が、なぜレーゼを呼び覚ますことになったのかは分からない。だが、一つ可能性を上げるとするならば、それは、ようやく手にした幸せを、どうあっても守りたいというレイラの願いだろう。



「げほっ…うぅえっ…」

「どうした?もうオシマイか?」

「…ふ、ふふふ………〝制限(リミット)

「っ待て!それ以上は」

解除(オフ)〟!」



 レーゼの攻撃を受け、地面に寝そべっていたアリス。しかし、それを口にしようとした。

 レーゼが慌てて止めようとするも間に合わず、アリスは再び制限解除(リミットオフ)を発動した。

 直後、ユアをも凌ぎかねないほどの急加速でアリスが飛び出す。通りすぎていく最中、レーゼが見たのは、壊れたようなアリスの笑みだった。



「不味い、このまっ…!?」



 すぐにアリスを追おうとするレーゼ。しかし、急激に視界が揺らぎ始める。それは、なんとも悪いタイミングで起きてしまった。



(活動、限界…!)



 念力格闘の代償、精神力を消費したことで、レーゼが顕現できる時間は、もう残されていなかった。

 だが、活動限界が来ようと、レーゼは止まる訳にはいかなかった。レイラは、制限解除(リミットオフ)が持つ最悪のデメリットを知らない。レーゼはまだ、伝えるべきことを、伝えるべき者に伝えられていないのだ。

 だから、レーゼは止まらなかった。彼女の為に、今できることをやり遂げるために。


 *



「うっ、うぐぅ…!」

「あハッ、アっ、あハハハはハハ!」

「メ、メリア…私達のことは良いから、早く逃げなさい…!」

「ダ、メッ…!そんな、ことっ、でき、るわけ、ない…!」

「アハハはハハは!シねッ!シネッ!死ネっ!」



 壊れたように槍を振るい続けるアリス。その進行を、メリアが防壁(バリア)安息(セーフティ)を重ね掛けすることで、なんとか防いでいた。

 レーゼが稼ぐと言った時間を使い、ユア達の治療をしていたメリア。しかし、突然向けられたおぞましい殺気に、思わず振り向くと、そこには狂いきった顔をしたアリスがこちらに向かって走ってきているのが見えた。

 狙いが自分達だと分かると、即座に防壁(バリア)を展開。それだけでは足りないと、追加で安息(セーフティ)も内側に張り付けた。


 結果、初撃を防ぐことには成功した。しかし、アリスは壊れたようにメリアの壁を攻撃し始めた。ただ強烈な一撃を、何度も何度も打ち込んでくる。

 メリアも、防壁(バリア)が破られる度に新たな防壁(バリア)を展開するが、全く修復が間に合わない。

 そこを、アリスが狙ってきた。なけなしの壁が、パリィッという音と共に崩れ去る。アリスはそのまま、メリア目掛けて槍を振るおうとする。しかし、メリアに届くことはなかった。



「や、めろっ、アリス…!」

「「レーゼ!?」」



 背後から突如現れたレーゼが、アリスを羽交い締めする形で取り押さえた。しかし、力が残ってないのか、アリスを完全に押さえ込めていない。

 それでもレーゼは、アリスに向かって呼び掛ける。それは、アリスに伝えなければいけないことだからだ。



制限解除(リミットオフ)の、使用を止めろ!死にたいのか!」

「「「っ!?」」」

「それは使い過ぎると、肉体と精神の両方を破壊する危険なスキルだ!このままでは、一生出歩けない体になるぞ…!」

「死んデるクセに…」

「っ!」

「偉ソうにしゃベルなァぁァァぁァぁぁ!!」

「「「きゃぁぁっ!」」」「ぐぬぅっ!」「なっ!?」「くっ!」「うぐぅっ!」



 アリスの放った魔力に、その場の全員が吹っ飛ばされる。レーゼも、レイラに戻りつつある影響か、食らうはずのない攻撃を食らってしまった。



「クソッ、流石に、限界か…!」



 レーゼの体から、闘志のような気配が消え、レイラの気配が戻ってくる。しかしそれは同時に、アリスを止める手段が完全に無くなってしまったということでもある。



「こレで、誰モ、ジャまでキない…!」

「っ!」

「ナっ!?」



 アリスが再び槍を振り上げようとする。そこに、メリアが飛び出してきた。メリアはアリスの両腕を掴むと、離さないよう、必死になって押さえ込んだ。



「オ前、なにヲ…!」

「こんな、ことして、ケインが、喜ぶと、思ってるの!?」

「ッ!」



 もがくアリスに、メリアが訴え掛ける。レーゼがアリスに向かって言った「死んでしまう」の一言。それは、メリアにとって一番嫌なことを思い出させてしまった。

 あの日、デュートライゼルで、ケインが無抵抗に暴行を受けたあの時、メリアはケインを失うことを恐れた。それが暴走を引き起こし、デュートライゼルは滅んだ。



「誰かを、殺して!自分も殺して!それで、ケインが本当に、貴方を愛して、くれると思ってるの…!?」

「うる、さイっ!」



 アリスは、ただ嫉妬しているだけかもしれない。だが、それで得るものはなんになるのだろうか。人を殺し、自らも殺してまで得たものに、本当の幸せはあるのだろうか。

 ケインは言った。どんなことがあろうと、必ず側にいてくれると。

 それは、崩れ掛けていたメリアの心を溶かした言葉。望まず人を殺し、思い出をなくしたメリアに向けられた、救いの言葉。

 今のアリスに、ケインがその言葉を投げ掛けるとは思えなかった。



「あナたに、わタシのナ二が分カる!たダいっショにいタだケのあなタに!」

「分かるよ!だって…私だって…」



 メリアの目が、アリスの瞳の奥を捕らえる。アリスも、メリア以外の全てを遮断していた。

 そして、メリアは叫ぶ。秘めたる思いを、アリスに向かって、全力で。



「私だって、ケインのことが好きだから!」

「「「「っ!?」」」」



 ナヴィが、ウィルが、ユアが、アリスが。メリアの告白に、思わず言葉を失い黙り混む。イブとリザイアは、「キター!」とでも言わんばかりに目を輝かせていた。



「ケインが好きなら、ケインが大切にしたいものを壊すなんてことはしないで!ケインの心を壊すようなことはしないで!」

「うっ、グっ…!」

「本当に大切に思ってるなら、ちゃんと思いをぶつけて!私は逃げないから!だから…!」

「黙レ…!ダまれダマれだマれぇェぇ!!」

「きゃぁっ!」



 アリスが暴れ、振り回すようにしてメリアを投げ捨てる。メリアは上手く受け身を取れず、そのまま地面に叩きつけられた。



「そンナに死ニたいなラ貴方カらっ…!」



 アリスが、槍を振り上げる。そして、振り下ろそうとした瞬間、横から銀の一閃が振るわれる。それはアリスの槍を確実に捕らえ、そのまま槍を遥か後方へと弾き飛ばした。

 そして、それを振るった人物が、メリアとアリスの間に入る。アリスに、もう一つの刃を向けたまま。



「もう、止めるんだアリス!」

「「…ケイン!」」

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