13 宴、そして旅立ち
「…ねぇ、ケイン」
「…なんだ?メリア」
「…暇。」
「…だな」
俺達は、特に何もない部屋で二人寂しく寝転んでいた。
と言うのも、朝方ギルド長に「部屋に連れていけ」と言われ、連れていったら今度は「呼び出すまで待機しろ」と言われた。
しかも、言うだけ言ってすぐに部屋を出ていった上に、宿主と結託したらしく、全く外に出られない状況になってしまった。
お陰さまで、現在この部屋に拘束されてから10時間以上たとうとしている。
最初は俺もメリアも、対してやることが無いため休息を取る意味もかねて眠っていたのだが、流石に長いこと寝ていられなかった。
数時間前に殆ど同じくらいの時間に目が覚め、そこからは完全に暇をもて余していた。
窓から空を見ると、すでに日も暮れようとしている。
そんな事を思っていると、
「待たせたな。かなり時間が掛かってしまった」
元凶、ギルド長がやって来た。
「それで、ギルド長」
「ん?なんだい?」
「なんで俺達を隔離するような真似を取ったのですか?」
「理由なら、すぐに分かるよ」
ギルド長に連れてこられた先は、年中多くの人で賑わう大広間…のハズなのだが、全く人がおらず、しかも光が灯っていない。
どうしたのだ?と、俺が戸惑っている隙に、ギルド長がいつの間にか建っていたステージのような場所に立っていた。
「皆の者、聞こえているか!この都市は、ここ数年で大きく成長した!それは、たった一人の冒険者が、右も左も分からぬ新米や、道に迷う我々に正しき道を示していてくれたからだ!
そのお陰で、これまでにないほどの利益を、我々は得ることが出来た!
そして、我々を導いてくれた冒険者が、世界を巡る旅へと向かおうとしている!
さぁ、我々の手でその冒険者…ケイン・アズワードに、祝福とエールを送ろうではないか!」
『『おおおおおおおおおおおおおお!!!!』』
ギルド長がそう宣言すると同時、眩しいくらいに光が灯り、至るところから人々が歓声を上げていた。
俺もメリアも、いきなりの出来事に頭の整理が追い付いていないでいると、舞台から降りてきたギルド長が来た。
「悪かったね、部屋に拘束させてしまって。
ケイン、君はこの都市を発展させてくれた。その感謝を伝えるため…そして君の、君達の門出を祝すために、動かせてもらったよ」
これは、この都市に住む人々が、同じギルドの仲間たちが、俺達のために開催してくれた祭。
そう、ギルド長から知らされた。
俺は、どう言い表せば良いのか分からなかった。
嬉しさと驚きが入り交じり、声に出せなかった。
それでも、言わなきゃいけない言葉がある。
「俺の…俺達のために、ありがとう…!」
未だ止まぬ歓声の中、俺は言葉を紡いだ。
そして、宴の幕は切って落とされた――
「さて、そろそろか」
「はい。今日までお世話になりました」
「こちらこそ、ここまで発展させてくれたこと、この都市を代表して例を言う。ありがとう」
宴により騒ぎ散らした翌朝、俺とメリアは都市の出入り口に居た。
ギルド長が用意したのは宴の席だけではなかったらしく、旅に必要な器具や寝袋といった必需品。それに…
「にしても、良かったのですか?魔法袋…それも、こんな大容量のものを二つもなんて…」
「良いと言っただろう?それは、お前達に必要なものだからな」
俺は腰につけた鞄に手を伸ばした。
魔法袋は、その名の通り魔法による容量の拡張が施された袋で、重さを気にせず、決められた容量までどんなものでも入れることが出来るという優れものだ。
さらに、袋に入れてある間は時間が止まったかのように新鮮な状態を保てるというから驚きだ。
それが、メリアの分も合わせて二つ。
流石にやり過ぎかと思われたが、「むしろこれくらいじゃ足りない」とまで言われていたらしい。
ちなみにメリアはたいそう気に入ったらしく、服の時のようにくるくると回ったり、ポーズをとったりしている。
「さて、別れが長引くと離れがたくなる」
「そう、ですね。じゃあ、行くか」
「うん。短、かった、けど、昨日、楽し、かった、よ」
「あぁ、それは良かった」
「俺も楽しかった。それじゃあ」
俺とメリアは、その場を後にした。
「おーい!ケインー!」
都市から少し離れた時、そんな声がしたので振り替えると、出入り口に沢山の人が集まっていた。
「また来いよー!」
「元気でなー!」
「応援してるぞ!」
俺達の門出を祝う声が、止むことなく聞こえる。
俺も、手を振りながら叫んだ。
「あぁ、また来るからなー!」
そうして俺達は、あてなき旅に出た。
メリアと一緒なら、何処にでも行ける…そんな気がする。
(…ケイン。メリアの面倒、ちゃんと見るんだぞ)
追記 一部情報と台詞を変更をしました




