128 恋する少女
「どうしたんだ?こんな夜中に」
「あはは…なんだか寝付けなくて。…それに、もう少しだけ話がしたくて。…だめ、かな?」
「別にいいぞ。さ、入ってくれ」
「ありがと、ケイン」
俺は、アリスを部屋に招いた。どうやら、俺のせいで眠れなくなったようだからな。
アリスが部屋に入ると、そこにはベットに座ってぼぅっとしているメリアがいた。
「…アリス?」
「あれ、メリア?どうしてここに?」
「どうしてって、俺と同じ部屋だからだが?」
「えぇ!?」
「…そん、なに、驚、く、こと?」
「そりゃそうよ!だって、男子と女子が一緒の部屋にいるのよ!?そしたら、あんなことやこんなことを…」
「待て待て待て!?どこでそんな知識を…って違う!なにも無い!なにもしてないから!」
「あん、なこと…こんな、こと…?」
「メリアは気にしなくていいから!」
どこで覚えたのか、アリスが変なことを言い出した。
いや、分かっている。これが普通の反応であることくらいは。俺が慣れすぎただけなのだ。
だって仕方ないじゃないか。いくら野外での活動が主とはいえ、人数分のテントを張るのは苦である。
だから、俺は一人用のテントを使い、メリア達は共同で使える大きいテントを…と思っていたのに、その案はメリアによって無かったことにされた。なぜなら、毎回のように俺のテントに潜り込んでくるからである。
メドゥーサであるメリアは、殆ど寝なくても生活するには問題ない。ただし、それはあくまでもメドゥーサとしてのもの。メリアという存在には、その理屈は当てはまらない。
どうにもメリアは、俺と一緒にいるのが一番安心できるようで、眠る際も必ずといって良いほど俺の側にいたがる。
それが何度も続くとなれば、流石に諦めがつく。多少変な目で見られるのは覚悟で、俺とメリアは一緒の部屋を取ることにしているのだ。
まぁ、そんな事情をアリスが知っている訳ないのだが。
「まぁ、ケインも男の子だもんね。しょうがないよね。うんうん」
「…なんかそれで納得されても、良い気分にはならないぞ…?」
「ふふっ。とりあえず、メリアも一緒にお話しましょう。その方が楽しそうだし」
それから、俺達はたわいもない会話をした。どんな人と出会って、どんな依頼をこなして、どんな生活をしてきたか。
ただの会話なのに、物凄く濃密で、楽しい時間だった。
「そういえば、メリアってどこから来たのかもわかっていないの?」
「あぁ。本人もどうしてそこにいたのか、わかっていなかったしな」
「ふぅーん…メリアは?住んでた場所に帰りたいとは思わないの?」
「思わ、ない。…だって、もう、ない、し」
「え?」
「滅んだんだよ。メリアの住んでた村は」
「あっ…ごめん…」
「気に、しない、で、いい」
これは、俺も知らないことだ。そもそも、メリアはどこから来たのか。どうやってあの洞窟までたどり着いたのか。それが一切分からない。
分かっているのは、メリアがその村を滅ぼしたという事実だけ。
俺としては、メリアのことをきちんと理解したい。どんな過去を持っていようと、俺の大切な仲間なのだから。
「いつっ…」
「ん?メリア、どうした?」
「…なん、か、あた、まが、クラクラ、する…」
「大丈夫か?横になった方が…」
「…まって…アリ、ス、それ、なに…?」
メリアが指差した先。そこにあったのは、お香のようなものだった。それは、先ほどまで無かったものだ。
「これ?どこの部屋にも置いてあるものだよ。眠れない人用に置いてあるやつだよ?」
「…嘘。部屋、見たけ、ど、そん、なの、無かっ、た…!」
「どういうこ…と…!?」
メリアの発言に違和感を覚え、アリスを問いただそうとした瞬間、頭が揺れるように傷んだ。それと同時に、立ち眩みを起こし、その場に片膝をついてしまう。
それを見たアリスの顔が、にたりと歪む。
「やっと効いたみたいだね」
「アリス、なにを…!?」
「これ、強力な睡眠薬なの。わたしは魔導具使ってるから平気だけど、普通の人なら数分でコロッといっちゃうくらいのね。でも、それじゃあすぐにバレちゃうから、なるべく弱めてたんだけど…バレちゃったし、もういいよね?」
「っ、させな…!」
「遅い」
「「なっ…!?」」
メリアがアリスに飛びかかろうとするより早く、アリスが謎の液体をお香にぶちまける。
その瞬間、お香から大量の煙が一瞬で発生し、部屋を飲み込んだ。
「うぐっ、こ…れは…!」
「なに、これ…!」
「ふふふ…」
一瞬の出来事で、俺とメリアは思わず大量に煙を吸ってしまった。煙を吸った瞬間、体の力が一気に抜け落ち、掻き立てるような眠気が襲ってきた。
指すらまともに動かせず、意識もどんどん奪われていく。
「ふふふ、ケインがいけないんだよ?わたしがいるというのに…」
「アリ、ス…」
そこで、俺の意識は途絶えた。
「やっと…やっと出会えたわたしのケイン。もう絶対に、離さないから…!」




