123 結晶蝶を探せ その1
ダンジョンに入ってから一時間と少し、俺達はようやく現れた変化に気を引き締めていた。
と言うのも、先程まで居た十階層までは、右へ左へ行かされたり、小さな横穴があったり、小型の低ランクモンスターが襲ってきたりしたものの、基本的に一本道だった。地図作成を使いながら進んでいるので間違いない。
だが、今目の前にあるのは分かれ道。つまり、ここからがダンジョンとしての本領発揮とも言える。まぁ、地図作成という手が使えるぶん、難易度は落ちるのだが。
「さて、どっちに進む?」
「じゃあ、右」
「右かしら?」
「右っ!」
「ひだ…右ですわ」
「…ウィル、合わせなくて良いから」
とはいえ、メリア達が指したのは右の道だ。俺達は右の道を進んでいく。
暫く進んでいくと、目の前に懐かしいモンスターが現れた。
「アシッドバイパー…あの日以来だな」
メリアと出会ったあの依頼で、俺が最初に目にした異変。その通常種が姿を現したのだ。
あの日出会ったアシッドバイパーは10メートルほどの長さを持っていた。だが、本来の長さは4メートルも無いくらいなのだ。
そこで、俺は一つ、ここらでハッキリとさせておきたいことを確認することにした。
「メリア。弱ってそうで、かつ少し大きい個体がどこにいるか分かるか?」
「んー…もう少し奥の方、かな?」
「分かった。ユア、その個体を見つけたら、殺さずに生け捕りにしてくれ。調べたいことがある」
「承知しました」
俺とメリア、ユアを先頭に、アシッドバイパーを駆逐していく。アシッドバイパーも対抗してくるが、結果は虚しいものだった。
と、少し進んだ先に、目的の個体を見つけることができた。それを視認した瞬間、ユアが一気に突っこみ、素早く口を縛り、こちらに連れ帰ってきた。
「これでよろしいですか?」
「あぁ。残ったアシッドバイパーは一匹残らず殲滅するぞ!」
それからアシッドバイパーが駆逐されるまで、時間はかからなかった。レイラ達に魔石などの回収を任せ、俺は改めてユアから捕らえたアシッドバイパーを受け取る。
「それで、その蛇をどうするのですか?」
「このまま暫く連れていく」
「…えっ?」
「ちょっと!?今聞き捨てならないことが聞こえたのですけど!?」
「つれてくって…だいじょうぶなの!?」
俺の発言に、思わず反応してしまうメリア達。ユアは生け捕りにしろと言われた時点で、薄々気づいていたようだが、やはり驚いている…よな?
「まぁ、驚くのも無理はない。だが、これは大事なことなんだ」
「大事なことって…一体…?」
「俺がメリアと会った場所。あそこには、本来Eランクのモンスターまでしかいなかった。だが、俺が来た時には、このアシッドバイパー含め、Dランクのモンスターが無数にいた。しかも、どれもが変異していた」
「……っ!」
「もしかして、そのアシッドバイパーを使って調べたいことって、メリアがいることによるダンジョンの変化と、モンスターの成長…ということかしら?」
「あぁ。メリアという存在が、今このダンジョンに現れている。それはつまり、このダンジョンの成長も早まる可能性がある、ということだ。…まぁ、あの時とは状況が違うぶん、変化は見えづらいと思っているけどな」
ダンジョンは、常に変化をしている訳ではない。中には全く変化しないダンジョンもあれば、毎日のように変化するダンジョンもある。
このダンジョンがどうなのかは分からないが、少なくとも近くに置いておくモンスターに関しては、変化はあるだろう。
それに加え、もし変化するダンジョンの場合、メリアの行動による成長速度も調べることができる。あの時のメリアは、あの場所からじっと動かずにいた。だが今は、こうして動き回っている。それによる変化速度も見られるハズだ。
「とにかく先を急ごう。このアシッドバイパーは、メリアの魔法鞄に入れておいてくれ」
「ん、分かった」
一番変化が起きやすいであろうメリアにアシッドバイパーを任せ、俺達は先へと進んだ。
ちなみに、選んだ通路は正解だったらしく、下の階へと続く道があった。ウィルが少し複雑な顔をしていたのは、全員気づかないふりをしていた。
その後、多少迷いながらも、俺達は前へと進んでいく。そうしてやって来た二十五階層。それは、唐突に姿を現した。
「なるほど、そりゃあCランクダンジョンに指定される訳だ」
「なによコイツ…!」
「きもちわるい…」
肥大化した腕と足。それなのに胴はやたらと細く長い。獣のような口を持ち、巨大な一つ目が俺達を見つめる。
今にも飛びかかって来そうなモンスターの名は…
Cランクモンスター〝メジュラナ〟
なぜこうなったのか、どうやって産まれたのか、その全てが謎に包まれたモンスターである。




