122 不抜の旅人
「はぐっ…むぐっ…」
「ほんと、美味しそうに食べるよねー」
「だな…よし、取れたぞ」
「くぅ!」
あれから数時間後、俺達は別れて町を散策していた。一応ナヴィとユアに、消費した食材などの補充を頼んでいるが、基本は自由にしていいと言っておいた。
今俺の側にいるのはメリアとレイラ、それとコダマだ。コダマはここ数日間のうちに少し成長しており、見た目こそあまり変化していないものの、魔力の質は飛躍的に向上していた。
また、これまで魔法鞄に籠りっきりだったことが多かったコダマだが、最近はこうして外に出て、メリア達とふれあっている時間が多くなった。
「あーあ、私も冒険者になれたら良かったのになぁー」
「ん?いきなりどうしたんだ?」
「だってだって!せっかくパーティー組んだのに、仲間外れみたいなんだもん!」
「だが、レイラはれっきとした俺達の仲間だぞ?」
「そうだけどさー…でもやっぱり、みんなと一緒がよかったなぁ…」
レイラの言うとおり、俺とメリア、ナヴィ、ウィル、ユア、リザイアは、正式に冒険者パーティーとして活動することになった。
パーティー名は『不抜の旅人』。命名したのはナヴィだ。曰く「何者にも屈せず、自らの信念の元、自由気ままに旅をする者達」という意味を込めているらしい。
ちなみにリザイアも案を出していたのだが、長いうえに分かりにくかったので満場一致で却下となった。やたらカッコいい響きだった記憶はあるが、覚えられてない時点で、名前としては駄目だろう。
「まぁ、元人間とはいえ、モンスターが冒険者になるなんて、ギルドとしては考えにくいし、認めにくいんだろうなぁ…(メリア、メドゥーサだけど)」
「だよねー…あーあ、こういうときだけは今の私を憎んじゃうなぁ…(メリア、メドゥーサだけど)」
「…んぐ?」
呑気に串焼きを頬張るメリアに、俺とレイラの視線が突き刺さる。が、特に気にした様子もなく、再び串焼きにかじりついた。
そんな訳で、もう少しぶらぶらと探索した後、買い物を済ませたナヴィ達と合流。少し高めの宿を取り、その日を終えた。
次の日、俺達は朝早くにギルドへと向かった。流石はダンジョンがたくさんある町。ダンジョンにまつわる依頼が無数に貼られていた。
その中に、一際目立つ依頼が一つ。俺はその依頼書を手に取った。俺が取った依頼書が気になったのか、レイラとウィルが覗き込んできた。
「えっと…『結晶蝶の捕獲』?ランクは…B!?」
「蝶ってことは虫ですわよね?どうしてそんな高ランクの依頼になっているんですの?」
「結晶蝶はダンジョンや鉱山なんかに咲く、カーベルレンゲという花の蜜を餌にしている蝶だ。その鱗粉は、薬の材料としても使われている」
「でもそれだけなら、こんなランクにはならないはずですわ。他に理由があるんですのね?」
「あぁ、問題は餌にしている花の方だ。この花、町から少し離れたダンジョンに咲いてるらしいんだが、そのダンジョンの最低条件が、Cランクであることなんだよ」
「…つまり、かなり強力なモンスターがたくさんいるってこと?」
「そういうことだ。それに、自生している場所もよくわかっていない」
「それなら、このランクになるのも納得ですわね…それで、この依頼を受けるんですの?」
「そうだな…俺は受けたいと思っている」
「なら、受ければいいと思いますわ。私達のリーダーは貴方なんですから、貴方のやりたいようにやればいいですわ」
ウィルの後押しもあり、俺はこの依頼を受けることにした。一応、メリア達にも確認したが、ウィルと同じ反応だった。
不抜の旅人最初の依頼は、「結晶蝶の捕獲」に決まった。
*
それから一時間後、特になにかが起きることもなく、無事にダンジョンへとたどり着いた。
予めギルドで聞いた情報によれば、このダンジョンは五十八階層まであるらしく、三十階層からちらほらと、カーベルレンゲが目撃されているようだ。
そんな訳で、俺達が目指すのは三十階層。見つからなければ、さらに下層へ向かうことになる。
「皆、準備はいいか?今回の目的は結晶蝶の捕獲。目標は三十階層だ…行くぞ!」
「「「「「おー!」」」」」「はい」「うむ!」




