121 仲間達の実力
合図と同時、ナヴィは影の槍を発動。襲いかかってくるゴーレムが振りかぶった隙をついて、強力な突き攻撃を繰り出した。しかし、やはりというかゴーレムは固く、貫通するには至らなかった。
そこで、ナヴィは影の槍をゴーレムに突き刺したまま空気弾をゴーレムに撃ち込み始める。
ゴーレムも必死に抵抗するも、早々に腕を壊されてしまい、ほどなくして動きを停止した。
「うーん…予想より大分固かったわね…」
「いや、十分な速度だったぞ?」
ナヴィ結果、一分四十六秒
*
合図に合わせ、ウィルがゴーレム目掛けて水を放つ。ゴーレムは気にした様子もなく突っ込んで来るが、ウィルはひらりと回避する。そして、何度も水をぶつけていく。
何度も水を浴びせられ、段々と土でできた体が削られていき、ついには細々とした体になってしまった。
そこにウィルが水刃を放つ。放たれた水刃は、見事に四肢と頭を破壊した。
「私では、これが精一杯ですわね」
「というか、ウィルの水を耐えるゴーレムって何なんだ…」
「あれ、思っ、たより、固い…」
ウィル結果、一分十三秒
*
合図が出され、ゴーレムが動くより早く、ユアがゴーレムの背後を取り、首辺り目掛けて双剣を振るう。しかし刃は届かず、弾かれてしまう。
「…ならばっ」
ユアはゴーレムを足蹴に結界へ跳躍すると、再度ゴーレムへ攻撃。再びゴーレムを足蹴にして結界へと向かい、さらに攻撃。
これを何度も繰り返し、ついにゴーレムの首を落とすことに成功した。
「ゴーレムでなければ…」
「初撃で終わってましたわね…」
「…我、殺されてたのかも知れないのか…?」
ユア結果、二分四十秒
*
「はーっはっはっは!土塊ごときが、この闇の覇者たる我に触れられるとでも!?」
開始早々、ゴーレムの周りをヒュンヒュンと飛び回り、時折煽るような言葉を放つ。そのあまりの言われように、ゴーレムに感情は無いはずなのに、なぜか怒り狂ったように見えてしまう。
だが、それはリザイアの策(なお口調は素)であった。
飛び回ることで敵の狙いを定めにくくし、時間を稼ぐ。時間を稼げば、それだけヴァルドレイクの火力は増していく。その時間、僅か二十秒。
「充填20」
その合図と共に、ヴァルドレイクの引き金が引かれる。一瞬の出来事にゴーレムが反応できるわけもなく、そのまま粉々に砕け散った。
「ふっ、流石は我が最強の武器…ただの土塊なんぞ、敵ではない!」
「まぁ貯めてる間は攻撃できないんだけどな」
「しかもむぼうびだしねー」
「それを言うなー!」
リザイア結果、二十五秒
*
「おいおいマジか…あのゴーレムをこんなに早く倒せるとは…」
「一番遅かったのはユアか。まぁ、相性が悪かっただけだ。落ち込むことじゃない」
「落ち込んではいません。ですが、より強くならなければいけませんね」
「急ぐ必要は無いからな?自分のペースで強くなればいい」
「ありがとうございます」
ゴーレムを倒すのに最も時間がかかったユアの様子を伺ってみたが、特段落ち込んでいるわけでは無いことに安堵した。
元々ユアの戦闘スタイルは、対生物に特化したもの。無機物の塊であるゴーレムとは、とても相性が悪いのだ。それでも、三分以内に倒せているところを見るに、普通のゴーレムであれば、もっと早く処理できていた気がする。
と、少し反省会のようなことをしている間に、ベルフェンドが五つのカードと用紙を六枚持ってこちらにやって来た。
「さて、あとはこの書類にサインして、カードに魔力を登録すれば終了だ」
「それで、さっきの検査でランクが変わったりするのか?」
「いいや、そこは規程通りFランクからスタートしてもらう。さっきの検査は、あくまでもどの程度のダンジョンまでなら攻略できるかを調べるためだからな」
「それで、私達の結果は?」
「あのゴーレムを瞬殺してるんだ。どのダンジョンでも問題ないだろうよ」
ベルフェンド曰く、メリア達のタイムはとても早い―特にリザイアは最速らしい。三年前に一人、一分という記録を出した者がいたらしく、それを大幅に越えてくるとは思っていなかったようだ。
ベルフェンドはメリア達にカードと用紙、ペンを渡す。
「魔力の登録は、カードに直接魔力を込めればいいぜ。それより、お前さんたちはパーティーを組むって言ってたよな?誰がリーダーになるんだ…って、聞くまでも無いか」
「あぁ、俺がリーダーだな」
「んじゃ、この用紙にお前さんの名前とランク、メンバー全員の名前に、パーティー名を書いてくれ。…ちなみに聞くが、お前さんのランクは?」
「俺はBだ」
「Bランクだと!?」
俺がサラッとランクを言うと、食い入るように目を見開いたまま近づいてきた。唾は飛んでこなかったが、かわりに肩をとてつもない力で握られる。めちゃくちゃ痛い…ってヤバイヤバイヤバイ!
「本当か!?本当にBランクなのかっ!?」
「本当だ!本当だからっ!その手を離っ…!?」
「ケイン!?」
「ぬおっ!?」
肩から、鳴ってはいけない音が鳴りかけた。メリアが叫んだことで、ベルフェンドが慌てて手を離す。
「すぐ、治す…!〝回復〟」
「…ありがとうな、メリア」
「…ん」
「すまない、興奮して力を入れすぎてしまったようだ…」
「…そういう反応をするのは仕方ないさ。一応、これが証拠だ」
「お前さんのギルドカードか。…確かに、Bランクの冒険者のようだな」
落ち着いたベルフェンドにギルドカードを見せ、Bランクであると証明した。
Bランク冒険者がどれだけ珍しいのかは、その到達数がものを言う。そのため、どこにいようとこういった反応をされるのは間違いない。ただ、流石に肩が壊れるようなのは勘弁して欲しいと思った。
「さて、一応説明しておくが、パーティーを組んだ場合、パーティー内で最も高いランクの者に合わせたランクの依頼を受けられるようになる。それに、依頼はパーティー単位で受けるか個人で受けるかは選べるが、パーティーで受けるには受付の際、必ずリーダーが受けなければならない。これだけは覚えておけ」
「あぁ、わかった」
「なぁ、一つ聞きたいんだが…そこのゴーストもだが、もしかしてそこにいるチビッ子もダンジョンに連れていく気か?」
「ちびっこ!?」
「?勿論だが?」
「いや…いくらお前さんがBランクだとしても、ゴーストはともかくチビッ子まで連れていくのはな…」
「あの!イブはちびっこじゃな…」
「なら、さっきの検査を受けさせてみるか?」
「…お前さん、正気か?」
「レイラとイブなら、あれくらい余裕だぞ?なんなら俺もやろうか?」
「大きく出たな…どうなっても知らないぞ?」
「問題ない。だろ?」
「もっちろん!」「はなしをきけー!」
その後、メリア達の登録が終わったのに合わせ、俺とレイラ、イブがゴーレムと対峙した。
俺は天華で切り刻み、レイラは念力でゴーレムを結界に叩きつけまくり、イブに至ってはチビッ子呼ばわりされたのがそうとう頭に来ていたのか、制御を無視してほぼ最大火力でゴーレムを焼き付くしていた。
あまりの光景に、ベルフェンドの口があんぐりと開いたまま固まったのは、無理もないことだった。
「イブ、流石にやりすぎだ」
「…ごめんなさい」
今更感がすごいですが、ウィルの一人称は私です。




