120 ティンゼル
「おぉ?森を抜けたかな?」
「そうみたいですわね。それに…」
「あぁ。あれが目的地、ティンゼルだ」
森を抜け、俺達はようやく目的地である町、ティンゼルを遠くに見ることができた。
ティンゼルはエジルタから見て、都市とは正反対の場所にある町だ。地図の情報によれば、ティンゼルには小規模のダンジョンが複数存在しており、そのダンジョンで採れる鉱物やアイテムを売買することで成り立っている町のようだ。
遠目では分からなかったが、いざ近づいて見ると、その規模はかなり大きいものであった。都市やデュートライゼルとまでは行かなくても、テドラやデッドラインよりは遥かに大きい。
そして、ティンゼルに入ろうとしたのだが、一つ問題が起きた。
「それでは、これを持っていってください。期限は半日ほどですので、早めにお作りください」
それが、身分を証明できる物の有無である。
この町では、身分証になる物を持っていなければ仮の身分証を渡される。ただし、その身分証の有効期限は半日。もしそれを過ぎれば、重い罰を課せられるというのだ。
俺はギルドカードを持っているので問題ないが、メリア達は持っていない。今手にしているのは仮の身分証なので、すぐに身分証になるものを作製しに行かねばならなくなったのだ。
ここで俺は、都市でメリア達のカードを作らなかった事を後悔した。
色々とありすぎて頭から抜けてしまっていたのもあるが、何度もあった作る機会を、完全に逃していたのが悔やまれる。
なにせ、メリア達はとにかく目立つ。仮の身分証を受けとる前、たまたま通りすがった冒険者が声を掛けてくるくらいに。まぁ、無視された挙げ句、ユアのスキルで吹き飛ばされるという悲惨な結果になったのだが。
そういう事もあり、この町に滞在する以上、カードを作るためにギルドに行かなければいけないのだが、目立つが故に問題を起こさないかがとても心配なのだ。
ただ、今後のためにカードは作っておいた方が都合が良いのは事実。ついでに、パーティーとして登録しておく事も考え、メリア達に相談したところ、満場一致で「問題なし」となった。
唯一、メリアが冒険者になるということに嫌悪感を抱いていたが、迷惑をかけるわけにもいかないといった感じで了承してくれた。後でなにか好きな物でも買ってあげよう。
ちなみに、レイラとイブ、コダマの身分証は必要ない、というより作れないので、なにか問題を起こした場合、俺達全員の責任になるらしい。大丈夫だとは思っているが、一応気を付けておこう。
ティンゼルの冒険者ギルドは町の中心部にあり、町のシンボルとして活用されているようだ。見たところ、職員の宿としての役割も担っているらしい。
そんなギルドに入ると、やはりというか予想通りというか、男達の視線がメリア達に向けられる。明らかに、メリア達を狙っている。
ただ、それは分かりきっていた事。中にいた冒険者の視線を受けて「ひぅ」となったメリアを除き、全員がそんな視線を無視してカウンターの方へと向かう。
「ようこそ冒険者ギルドへ!今回はどのようなご用件ですか?」
「あぁ、ギルドカードを作ってほしくてな。ついでに、パーティー登録もしておきたい」
「ギルドカードとパーティー申請ですね。簡単な実力検査をするので、準備が整うまで暫くお待ちください」
そう言い残し、受付にいた女性が奥の方へと向かう。
ギルドカードを作るということは冒険者になるということ。この町では、冒険者は必要不可欠な存在であり、簡単には死なれないよう、ある程度の実力を知る必要があるのだろう。
先も言ったとおり、この町には複数のダンジョンがある。実力以上のダンジョンに行かれては、すぐに命を落としかねない。適正な場所を示す為にも、この検査は必須なのだろう。
およそ五分後、女性が戻って来た。ついてくるよう指示されたので、素直についていく。
ちなみに、待っている間に問題が起きることはなかった。近寄ろうとした男は、全員メリアの防壁とレイラの念力に阻まれたからだ。声を掛けても無視され、近寄ろうにも動けない男達を見て、女性達はクスクスと笑っていたが。
連れてこられたのは小さな闘技場のような場所。そこには一人、まだ若そうな男性が立っていた。
「おっ、コイツらが報告にあった若者達だな?オレはベルフェンド。こう見えて、ここのギルド長をやっている」
「ん?実力を測るだけなのに、ギルド長が出てくるのか?」
「いや、普段は町にいる高ランク冒険者に頼んでいるんだが、今丁度出払っててな。かわりにオレが出てきたのさ。それで?カードを作るのはお前達全員か?」
「いや、俺は持っているから、作るのは仲間達の方だ。とはいえ作れないやつもいるから、作れるやつだけで頼む」
「OK分かった。それじゃあ始めよう」
ベルフェンドが指を鳴らすと、闘技場の真ん中に俺より少し大きいゴーレムが出現する。恐らく、スキルで作り上げたゴーレムだろう。
「内容は至ってシンプル。このゴーレムをどれだけ早く倒せるか、だ」
「たった、それだけ…?」
「おっと、甘く見て貰っちゃ困るぜ?こう見えてもオレのゴーレムは、他のゴーレムより固いからな」
自信満々に言うベルフェンド。だが実際、あのゴーレムは素人目からしても、普通のゴーレムとは違うとはっきり分かる。ベルフェンドのスキルレベルが高い証だ。
話し合いの結果、メリアから順に挑戦することになった。メリアが闘技場に立つと、闘技場を囲むようにして結界が張られる。これで、外にスキルや衝撃が来ないようにできるそうだ。
「さて、準備はいいか?」
「…ん!」
「それじゃあ、始め!」
ベルフェンドの合図と共に、ゴーレムがメリアに向かって動き出す。
メリアは戦闘経験も浅く、攻撃的なスキルも無いためゴーレムを壊せるか不安だったのだが、その心配は杞憂に終わった。
ゴーレムがメリアに向かって殴りかかる。その攻撃を、メリアは防壁を使って防御。それと同時にゴーレムの背後にも防壁を展開すると、二つの防壁を使って押し潰しにかかった。
だが、ギルド長のゴーレムは中々潰れない。そこで、さらに二枚追加。系四枚の防壁が、確実にゴーレムを潰していく。
時間にしておよそ二分。ついに抵抗できなくなったゴーレムは、防壁によって潰された。
ベルフェンドが「ほほぅ」と言いながら、結界を解除。メリアに潰されたゴーレムを、再び作り始めていた。
「あれ、メリアが考えたのか?」
「いいえ、私が教えました。守るだけじゃなく、助けられる存在になりたい、と言っていましたので」
「そうか…」
メリアの心情の変化に少し喜びを感じつつ、俺は検査をじっと見守る。
さぁ次は、ナヴィの番だ。




