119 野営
お待たせしました、十二章開幕です。
「見たかケイン!我が華麗なる射撃!」
「凄いのは分かってる。ただ、早くしないと消えるぞ?」
「あ!待て消えるな待って消えないでっ!?」
「はぁ…ま、さっさとやりますか」
イルベスターク領を出てから一週間が経った。俺とリザイアは今、野営の為の食料集めをしている。
と言うのも、今向かっている町まではまだかなりの距離がある。都市からエジルタまで三週間ほどかかるのに対し、その町まではさらに数日を要するのだ。
エジルタに来たとき同様、馬車を使って向かうこともできたが、特に急ぐ必要も無いため、今回はゆっくりと向かうことにしていた。
話を戻すが、野営をするにしても適材適所というものが存在する。
例えば、肉体労働があまり得意ではないウィルとイブ。二人には寝床や食事場所を作って貰う。そして、その寝床などを持ち運んでいるナヴィ、重い物でも念力で軽々と動かせるレイラも、必然的にそちら側につくことになる。
では、残った俺、メリア、ユア、リザイアは何をするか。それは、野営で使う消費物の確保である。
主に集めるのは食料と薪。薪といっても枝で十分なのだが、ある程度の多きさは確保しておかなければいけない。
そして食料。こちらは俺とメリアの魔法鞄、それに、ナヴィの収納スキルの中にかなりの貯蓄があるのだが、常に消費し続ける訳にもいかない。そのため、ある程度モンスターや野性動物を狩ったり、採取をする必要があるのだ。
ただ、動物はまだしも、モンスターから肉を得るのは至難を極める。と言うのも、モンスターは時間が立てばその体が消えてしまうからである。
皮や爪、牙などはドロップアイテムとして落ちることはあっても、肉は落ちない。モンスターから肉を得るには、体が消えてしまう前に解体を済ませる必要があるのだ。
モンスターを解体できるのは今のところ俺とユアしかおらず、また魔法鞄を持つのが俺とメリアしかいないため、必然的に俺かユア、もしくは二人が狩り担当をし、メリアとリザイアが状況に合わせて動く、という形に収まった。
そして今日は俺とリザイアが狩りの番なのだが、リザイアと組む場合、気をつけなければならないことがいくつもある。
リザイアは雷というスキルと、ヴァルドレイクという武器を用いた遠距離での戦いを得意とする。また、空を飛んで空中から攻撃する、時間をかけるかわりに一撃を強くする、時には近づいて至近距離から雷を撃ち込むなど、臨機応変に戦うこともできる。
それだけ聞けば、向かうところ敵無しのように見えるが、実際には少し違う。
リザイアは格好いいと感じたり、気に入った言葉や台詞をよく口に出す癖がある。俺達は個性だと認識しているためなんとも思わないが、他人からすれば「なんだこいつ?」となってしまうような感じである。
さらに言えば、サキュバス故平気で恥ずかしい言葉も使うため、端から見れば、ただの頭のおかしい女である。
で、何が問題かと言うと、その発言をするのが問題なのである。用はなにか行動を起こし、一通り収まる度に、一言キメ台詞を言い放つ。
別にそれ自体は問題ないのだが、その台詞の最中にモンスターが消えてしまうことが多々あるのだ。
そのため、何度せっかくの食料を無駄にしたことか…
それから数時間後、肉や山菜を確保した俺達はメリア達と集合し、ナヴィ達の元へと戻ってきた。
ウィルのスキルで軽く汚れを落とした後、料理を作り始める。俺達の中で料理がまともにできるのは俺とナヴィ、ユア、リザイアである。
ユアは暗殺技術の一環として習っていたらしく、それまで料理を担当していた俺とナヴィと同等の美味しさを作ることができた。それだけなら俺達の負担が軽減できたと喜べたのだが、そこにリザイアという化け物が現れた。
最初、リザイアが料理をしたいと言ってきた時、不安でしかなかった。なにせ、普段の言動や行動から、料理をしている姿が想像できなかったからだ。
だが、実際に立たせてみると、その不安は一瞬で消え失せた。素早く野菜を切り刻み、下処理を完璧にこなし、分量も間違えない。
そうしてできあがった料理はというと…絶品以外の何者でもなかった。さすがに高級店のプロ級とまでは言えなくても、店を開けるレベルの味だった。当の本人は普通に作っただけ、と言っていたが。
そんなわけで、今日の料理担当はナヴィとリザイア。俺とメリア、ユアはそれぞれテント張りや火起こしを手伝い始める。
約三十分後、俺達の目の前には、旅の道中とは思えないほど豪華な料理が並んでいた。
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
日が沈みかけ、静かになる森の中、その声はやけに響いたような気がした。




