12 旅への思い
「なんかもう、疲れた…」
「右に、同じく…」
阿鼻叫喚のような状態になっているギルド内を通り、依頼完了と異変についての報告をするため、受付でギルド長との面会を予約した俺たちは、俺が部屋を借りている宿にいた。
メリアも一応年頃の女子なので、部屋は別にしようかと思ったが、部屋が丁度埋まってしまっていたので、仕方なく同室にしてもらった。
…仕方なく、だからね?
「ところでケイン」
「ん?なんだ?」
「明日、どう報告するつもりなの…?」
「あー…」
ベッドに顔を埋めながら、メリアの問いについて考えた。
今回のブルトン洞窟の異変。その原因は紛れもなくメリアである。
普通であれば、嘘偽り無く報告をするべきである。
だが、メリアの事まで報告してしまうと、メリアは討伐対象になってしまう。
それでは、俺が「メリアの居場所を守る」という約束を破る事になる。
「勿論、メリアの事は話さなきゃいけない。でも、ある程度…主に過去と今の状態については伏せて話そうと思う」
「…良いの?」
「あぁ。バレた時に信用を失うリスクより、メリアとの約束の方が大事だ。それに…」
「それに?」
「拠点を持たず、気ままに旅をする冒険者になるのもアリかなって思ってる」
俺はずっと、この都市で冒険者をやって来た。理由を付けるなら、居心地が良かったんだと思う。
でも、メリアと出会って、この都市から出るのも良いと思い始めていた。
もしかしたら、メリアみたいに運命的な出会いがあるかも…なんてな。
「今の俺はこの都市しか知らない。でも、他の場所も見てみたくなったんだ。勿論、メリアと一緒に」
「旅、かぁ…良いんじゃない?私は賛成だよ。楽しそうだし」
「そうか…なら、明日その事についても話すとしようか」
「…良いの?そんなにすぐ決めちゃったりして。まだ、信用を失った訳じゃないのに…」
「良いんだ。俺は冒険者、旅をするのが本来の姿…そう思うんだ」
「なら、私はそれに付いていく」
俺達は、即断即決で旅に出ることを決めた。
どのみち、Bランク冒険者となった俺は、もう少しの間はこの都市に居座ることになるだろう。
だが、元々自由な生き方をするのが冒険者。
自分の意思で動かなきゃ、何も始まらない。
だからこそ、明日が重要なんだ――
「…というのが、今回のブルトン洞窟の調査結果です」
「ふーん、なるほどねぇ…普通じゃないモンスターに楽園、かぁー」
翌日、ギルド長との面会時間を迎えた俺達は、ギルド長室で異変について話し合った。
メリアについても、昨日の服屋の時に使った言い訳をもう少し具体的に、今回の異変に直結しているような感じを出さないように話した。
少しあやふやにしておけば、詳しく話せない感じが出せるだろうし。
ちなみにちゃんと男装している。
「まぁ、とりあえずはその強化モンスターと楽園の関係性を中心に、調査班を組んでもらうことにするよ。それと、もとに戻ったとはいえまた出るかもしれないし、少し出入りは制限した方が良いかな」
「えぇ、その方が良いと想います」
「じゃあそうするとして…ケインはどうする?調査班に加わる?それとも、これまで通り依頼を受けるのかい?」
…言うしか、無いよな。覚悟は、もう出来てる。
「…いいえ、旅に出ようと思います」
「…唐突だね」
「勿論、すぐに出ていく訳では無いです。でも、早いうちにこの都市を出て、世界を見ていこうと思います」
「そうか…」
俺の、俺達の思いを告げた途端、ギルド長が何かを考え出した。
俺達は何事かと思ったが、声には出さないでいた。
暫くして、ギルド長が唐突に顔を上げたかと思うと、
「よし、ケインの止まっている宿に案内してくれ。今すぐ」
「は、はい?」
なんか、嫌な予感がするんだけど。
まぁでも、断る事も出来ないので俺達は出来るだけ早足で宿に向かった。
ギルド長も変装して、少し距離を置いて付いてきている。
さっきまでイケメンだったが、今はそこらに居そうな平凡な感じの男子になっている。
…俺達は目の前で見たから分かるけど、そうじゃなかったら絶対にギルド長だとは思わないよ…なにあの変装レベル。
宿に着くと同時に、それまで距離を置いていたギルド長が隣に来た。
…あ、イケメンの方で行くんですね。
まぁ、その方が良いか。
「…なるほど、ここか。丁度いいな…」
「ん?何か言いました?」
「いや、何でも無いよ。それより、早く部屋に案内してくれ」
「いらっしゃい。あれ、ケインかい?出掛けてったんじゃ…って、その隣の人は誰だい?」
「すみませんご婦人。事情は後で話しますので、今は通して貰ってもよろしいですか?」
「は、はぁ…」
そんなこんなで、俺達は借りている部屋に戻ってきた。
ギルド長が最後に入り、戸を閉めた途端、ギルド長からとんでもないことを言われた。
「よし、ケイン、そしてメリア。今日一日、私が呼びに来るまでこの部屋から出てくるな」




