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116 考えの違い

 俺達が裏庭につくと、すでにそこには兵士と屋敷に仕える使用人達によって形成された、簡易的な決闘スペースらしき物が作られていた。

 少し遅れて、グレンもこちらにやって来たところで、グレンが説明を始める。



「さて、決闘だが…ここは一つ、これで決めようじゃあないか」

「…木刀?」

「あぁそうさ。スキルの使用は禁止、この木刀一本で相手をダウンさせるか、木刀が折られたら負け。これでどうだ?」

「問題ない」



 グレンは、俺に剣の才能があることは分かっているハズである。その上で、木刀を使った決闘を仕掛けてきた。

 それすなわち、この木刀を使った決闘で俺を打ち負かし、自分の方が才があると見せつけるのが目的なのだろう。



「ケイン、その…」

「心配するな、すぐに終わらせる。…だから、そっちは任せたぞ」

「…分かりました。主様(マスター)もお気をつけて」

「荷物は預かっておくね。私以外じゃあ魔法鞄(それ)重すぎて持てないし」

「あぁ、頼んだぞレイラ」



 俺の天華と創烈、魔法鞄をレイラに預け、俺はスペースの中央へ、メリア達は外側へと向かう。

 中央にはすでに、いくつかの木刀が用意されていた。



「さぁ、好きなのを取るといい」

「お前から選ばなくていいのか?」

「あぁ、構わないさ」

「…なら、こいつでいい」

「じゃあ、オレはこれだ」



 互いに手前の木刀を取り、所定の位置につく。

 審判に指名されたユミナさんが、一歩前に出る。その瞬間、ユミナさんと一瞬だけ目が合う。

 一秒にも満たないその目合わせで、俺は全てを察する。



「それでは…始めっ!」



 そして、決闘開始の合図が成される。

 負けられない戦いが、幕を開けた。



 *



(クックック…まんまと策にハマったなぁ!)



 決闘開始の合図が出される少し前、グレンは一人ほくそ笑んでいた。それもそのはず、グレンが持っているのは木刀だが、同時に剣でもあるのだ。

 と言うのも、ケインが手にした木刀含め、先程の木刀全てに、グレンの魔力に反応して、一部が鋭利な刃になるよう細工がされているのだ。

 これはジェイド含め、屋敷にいる者は誰一人として知らぬ事であり、知っているのはグレンとその取り巻きたちだけである。


 そして、開始の合図と同時に、グレンは一目散に駆け出した。狙うは、ケインの持つ木刀。

 グレンも、ケインには剣の才能があることは分かっていた。だからこそ、その才能をケインの目の前でへし折ってやろうと考えたのだ。

 グレンが木刀を振り下ろすと、ケインは木刀で防ごうとする。それを見たグレンはニヤリと笑い、そして、勢いよく木刀を振り下ろした。



「…なにっ!?」

「……」



 辺りにカァァン!という、木刀がぶつかり合う音が鳴り響く。グレンの一撃を、ケインが受け止めたからだ。

 だが、グレンの木刀は刃のようになっているハズであり、グレンの予想では、こんな音が鳴るとは思っていなかった。そのため、グレンは思わず、ケインとケインの持つ木刀に目をやった。

 ケインの木刀は折れておらず健在。しかも、ちょうど刃状態になっていない場所を受け止めていたのだ。



「このっ!」

「……!」



 グレンは一歩引くと、再びケインに向かって切りかかる。しかし、ケインは難なく受け止める。

 グレンは何度も何度も木刀を振るが、その全てを受け止められる。まるで、受け止めるべき場所が分かっているかのように。


 というのも、ケインには本当に受け止めるべき場所が見えているからである。それは、ケインが持つ魔力眼のスキルにあった。

 魔力眼のスキルは発動中、周囲の魔力を感知し、今後どう流れるのかを見ることのできるスキルである。

 だが、この魔力眼には、微弱な魔力であれば、魔力眼を発動していなくても視認できるようになる、という、副作用のような効果が存在しているのだ。


 グレンの木刀に作り出された刃は魔力で作られたもの。しかも、グレン自身がスキルの使用を禁止していた。つまり、他のスキルの可能性を考えなくていい。

 そのためケインは、グレンの木刀にかけられた魔力の反応を見て、反応が無い場所に木刀をあわせて防御することができているのだ。

 だが、僅かな隙間を狙って防御するのも素人ではまずできない芸当であるため、ケインのような才能が無ければ、まず不可能なことである。


 傍目から見れば、グレンが一方的に攻撃しているように見えるこの決闘。

 本人たちに視線を合わせると、ケインの心を折るために、姑息な手を使ってでも負かせたいグレン。

 過去との決着をつけるため、そして、仲間を守るため。グレンが使ってくる姑息な手を、全力をもって真正面から突破する覚悟を決めているケイン。

 見た目とは裏腹にグレンは攻めきれておらず、ケインは攻められていないのだ。



(ちっ!なんで折れねぇんだ!こうなったら…!)



 グレンが円の外にいた者―三人の、友人と言う名の配下を見る。グレンの視線を受け、彼らが動きだす。



(クックック…どれだけ策を練ろうが、これで貴様は終わりだケイン!)



 グレンは準備が整うまで、ひたすら攻撃を繰り返す。その全てを防がれるが、その表情は段々と笑みへと変わっていく。

 そして、合図が成された。

 その合図を受け、グレンがわざとらしくケインに弾かれ、そして…()()()()()()()()



「………は?」

「…どうかしたのか?もしかして、バレていないとでも思っていたのか?」

「…っ!貴様ァァァァ!」




 *




「…どうやらやるらしいぞ」

「てかバケモンじゃんアイツ。こっわー」

「ごちゃごちゃ言う前にさっさとやってしまおう。いつ反撃に出てくるか分からないからな」

「はいはい、わかってますよー」



 グレンの友人として、この場に居ることを許可されたゾンジ、ゲッデ、ビューガの三人は動きだした。

 三人に任されたのは、グレンが合図をしたら、ケインの足下から自分に向かってスキルを使え、というものだった。

 最初、彼らはなぜそんなことを、と思ったが、グレンがスキル禁止のことを伝えると、その意図を理解した。


 要は、ケインがスキルを使ったように見せかければいいのだ。

 前は周りに誰もいなかったため、ケインはアリスを襲ったという無実を証明できずに捨てられた。

 今回はその逆、多くの目撃者がいる状態でルール違反を偽装し、今度は冒険者としての信用すらも確実に落としてやろうとしているのだ。


 三人はさっそく、輪から少し離れた場所にやって来た。そして、三人分の魔力を集中させ、ケインの魔力を捕らえる。

 そして、捕らえた魔力を中心とし、その周りにスキルを仕込んでいく。

 仕込んでいるのは〝大地の槍(グランドランス)〟という、土を槍のように変化させ、地面から突き出すというスキルだ。

 ナヴィの影の槍(シャドウランス)とは違い、槍そのものを直接扱う訳ではない。それを知っていたグレンが、屋敷にあったスキルロールを、三人にこっそりと渡していたのだ。



「…よし、仕掛け終わったぞ」

「それで、どうするんだっけ?」

「この珠を割って、準備が終わったことをグレンに伝えます。そうしたら、すぐさまスキルを発動させて、グレンを吹っ飛ばすんですよ」

「うげぇ…グレンからの提案とはいえ、吹っ飛ばすのは抵抗あるなぁ」

「じゃあ、やめるのですか?」

「んなわけないじゃん!さぁ、やってしまおうぜ!」

「そうですか。では―――」

「「「えっ…ぐっ、モゴッ!?」」」



 三人の口に、一瞬で布のようなものが巻き付けられる。さらに、手足が突然動かなくなったかと思うと、三人を拘束するようにして、縄があり得ない速度で巻き付いてくる。

 三人が現状を理解できずにいると、その場に一つの影が現れる。

 普段の少し露出したような服から一転、目元以外が深い緑一色という、異質な姿をした影。

 その正体は、ケインに頼まれて、この場にいた全ての人を監視していたユアであった。



「愚かですね。私の主様(マスター)を、この程度でハメられると思っていたのですか?」

「モゴッ!モゴガゴッ!」

「本当なら殺してしまいたいですが、貴方たちを殺しては主様(マスター)に迷惑がかかります。なので、私は与えられた任務をこなすことにしましょう」

「ヴゴゴッ!」

「やめません」



 ユアは三人が使おうとしていたスキルロールを手に取ると、魔術付与を使い、書かれている概念そのものをグチャグチャにしていく。スキルロールを媒体として仕込んでいたスキルは、概念を書き換えられたことで不安定になり、そして霧散していった。

 次に、ユアは取り巻きの一人が持っていた珠を手にする。それは、使い捨ての念話用魔導具らしく、事前に録音した声をそのまま特定の者に伝えることのできる物のようだった。

 ユアはチラリと三人を見ると、目の前で思いっきり握り潰した。珠は粉々に砕け、そのまま光となって消えていく。



「…さて、私の任はこれで終わりです。主様(マスター)。ご武運を」



 ユアがケインのいる方角を見る。その後ろでは、ガックリと項垂れた三人の姿があった。




 *




「どうした?さっきまでの威勢が無いぞ?」

「うるさい!クソッ、あいつらはなにをやっているんだ…!」



 思い通りに行かないことに、段々と腹立たしくなっているグレン。対するケインは、変わらず落ち着いていた。


 グレンが決闘中に、何かしら妨害をしてくることを想定していたケインは、索敵能力が高く、隠密行動のできるユアに予め指示を出していた。

 それが、「不穏な動きをした輩を見つけ次第、他の誰にも気取られることなく無力化して欲しい」というものだ。

 メリア達であれば、この場にいる誰であろうと無力化するのは簡単である。しかし、堂々と無力化させてしまっては、逆にケインが不利になってしまう。

 だからこそ、目立たずに目標を無力化することのできる、元暗殺者のユアが適任だった。


 その予想は的中し、ユアが気取られることなく三人を無力化した。そのため、今こうしてグレンは焦りを隠せずにいた。



(クソッ!なぜだどうしてだ!どうしてこうも上手くいかない!あいつには才能がある…その奢りを、ここで粉々に砕くハズだったのに…!)



 グレンは、ケインが才能だけで偉そうにしているのだと思っている。だが、それは間違いである。

 確かにケインは、才能があったお陰で助かった場面も多かった。だが、本当の危険とは、才能だけで切り抜けられるものではない。

 事実、ケインは命に関わる程の怪我をしたこともあれば、仲間を失いかけたこともある。

 だからこそ、ケインは日々努力していた。自らの才能に奢ることなく、より高みを目指すために。いつかできるかもしれない、大切な存在を守る力になれるように…

 常に命の危険がある冒険者らしい、安直かもしれないその考えこそ、ケインがここまで強くなれた理由である。


 そんな考えを、優々と暮らしていたグレンは知るよしもない。いや、理解できるハズもない。

 理解できているのなら、不正行為(こんなこと)はしないハズなのだから。



(まぁいい…!どうせ負けても、オレの勝ちは揺るがないんだからな…!)

「うらぁぁぁぁぁ!!!」



 審判をしているユミナをチラリと見ると、ケインだけに分かるよう不敵な笑みを浮かべる。そして、ケインに向かって突撃していった。

 ケインは顔色一つ変えず、ただその動きをジッと見つめる。そして、グレンの攻撃が間近に迫った瞬間、ケインは一気に踏み込み、グレンの懐目掛けて一気に木刀を振るった。


 たかが木刀、されど木刀。

 強烈な勢いと共に振るわれた木刀は、それだけで凶器となる。


 グレンの無防備な腹部に、ケインの一撃が炸裂する。その衝撃で、グレンは木刀を手放し、そして吹き飛ばされた。

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