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114 迅速なる解決を

 翌日の早朝、俺達は話にあった森の近くにいた。モンスターに襲われたのは早朝だったと聞いているので、同じ条件にした方が早く見つかると踏んだからだ。

 ただし、この場にいるのは俺達だけではない。



「どうも、グレン様より案内を任されました、ウルバと申します」

「…別に頼んでいないんだが」

「グレン様の善意です。皆様をサポートするよう頼まれていますので」



 これは嘘である。グレンが俺のために兵士をつけるなど、まずあり得ない。

 恐らく、この兵士をつけた目的は監視。それも俺ではなく、メリア達のだろう。

 詳細について決めていた時、グレンはメリア達を物色するような目で見ていた。しかもそのあと、自分に嫁げなどとほざいていた。

 恐らくはメリア達を手にするために、情報を得るための駒としてつけたのだろう。


 だが、この兵士は囮だ。本命は別にいる。

 ここから少し進んだ先に、茂みに潜んでいるやつらがいる。

 本人達は見つかっていないつもりなのだろうが、生憎こちらには、気配を関知できるメリアとユアがいる。隠れるだけ無意味なのだ。

 そして、彼らの目的は妨害。依頼を失敗させ、俺に恥と責任感を植えさせ、その上でメリア達を奪おうと考えているのだろう。


 だが、どちらも予想していた通りである。

 まずは、真正面からその企みを壊してしまおう。



「メリア、この辺りで最も大きな反応がする方はどっちだ?」

「うーんと…こっち」

「よし、ユアとレイラで先行してくれ。ユアはモンスターの確認、レイラはメリアの指示をユアに伝える役だ」

「「了解」しました」

「残った俺達はメリアを軸に、周囲の警戒と向かってくるモンスターの殲滅だ。行くぞ!」

「「うん!」」「「えぇ!」」「うむ!」

「えっ、あのっ!?」



 俺の指示の元、全員が一斉に動き出す。監視を任された兵士を置き去りにする勢いで、一切の躊躇いもなく森の中に入っていく。

 その行動が予想外だったのか、兵士も隠れていたやつらも、慌てて追いかけてきていた。


 監視や妨害が入る事は予想できていた。グレンの性格から、欲しいものは相手を陥れて手に入れようとする、と知っていたから。

 ならば、その妨害ができない程に素早く終わらせてしまえばいい。監視も同様に、十分な情報を与えなければ問題ない。

 そうすれば、()()()()()()()()()()()


 迅速かつ確実に、俺達は着々と目標に近づいていく。途中、まだ幼いイブがペースを落しかけたが、すぐさまナヴィが拾い上げて足を休ませてくれた。

 途中、三体ほどモンスターが襲ってきたが、全てリザイアが撃ち落とした。

 邪魔を入れられる隙がなく、向こうが焦っているのが感じ取れる。



「…いた、あそこ!」「目標確認。あちらです」

「あれはオーガ…珍しいな」

「珍しいんですの?」

「詳しくは後だ。さっさと終わらせるぞ!」



 オーガを視界に捉えたユアが、気配遮断のスキルを発動。俺達全員の気配が一瞬にして消える。何も知らない兵士達は困惑するが、構う必要はない。

 そのままオーガに近づくと、気配遮断を解除し、一斉に襲いかかる。



「「はぁっ!」」

「グオッ!?」



 まず、右腕を俺が天華で切り落とし、左腕をナヴィが影の槍(シャドウランス)で貫き、両膝をユアが双剣で切りつける。

 手足の自由を一瞬で奪われ、オーガは膝から崩れ落ちようとする。

 だが、猛攻はまだ続く。



「ウィル!」

「〝水刃〟!」

「グォ…オ!?」



 素早く俺達がオーガから離れると、今度はウィルの水刃が無造作に放たれる。

 放たれた水刃は、オーガを傷つけるだけでなく、喉や目に突き刺さり、視界や声を奪う。



「今だレイラ!」

「はぁーいよっと!」



 さらに、レイラが念力(サイコキネシス)を発動。動けなくなったオーガを一瞬で空に弾き飛ばす。

 手足も動かず、目や喉も使い物にならなくなったオーガに、トドメの一撃をお見舞いする。



「イブ!思いっきりやれ!」

「うん!〝(フレイム)〟っ!」



 イブの放った(フレイム)がオーガを飲み込む。その威力は、常人とは思えないほどのものだ。流石のオーガも、イブの(フレイム)を耐えられるハズもなく、一瞬にして焼き殺される。

 炎が止み、再びその姿を見せた時には、すでに魔石とアイテムへと変化している途中だった。

 その魔石を俺が拾い上げ、残ったアイテムもメリア達が拾い、兵士達に向かって見せつける。



「討伐完了だ」

「…はっ!?あっ、えっ!?」



 あまりの出来事に、頭の整理が追い付いていない兵士。いきなり動きだしたかと思えば、的確な指示と行動を見せつけ、敵と対峙した数秒後には事が終わっていた。

 自分たちが苦戦した相手を、ものの数秒で片付けたのは兵士にとって信じられない事である。だが、容易くやってのけたのも事実なのだ。


 ちなみに、オーガは容易く倒せる相手ではない。そのランクはケインの予想通りCであり、並大抵の冒険者が相手するのは厳しい。

 オーガの特徴として特筆すべきは攻撃力。その威力は、拳一つでそこらの木程度なら、軽くへし折ってしまう。

 知性もそれなりにあり、冒険者にとって厄介な相手である。


 そんなオーガをケイン達が簡単に倒したのには、ちょっとしたカラクリがある。それが、消費度外視である。

 普通、冒険者はいつ敵が襲ってくるか分からない状況で進む。そのため、戦闘では体力や魔力の消費を抑え、次に備えるのが基本である。

 ただし、今回は兵士達に、力があることを見せつける必要があった。力を見せつければ、必ずグレンに報告すると踏んでいたからだ。


 そのため、ナヴィ達には後の事は考えずに、全魔力を使うつもりでスキルを使ってもらった。

 この辺りにはモンスターが殆どいないことを知っていたからこそ、使えた戦術とも言える。


 ただ、あまりにも刺激が強かったらしく、本来の仕事を忘れている兵士が面倒になったのか、ケインが思わず声をかけた。



「なぁ、アイツに報告しなくていいのか?」

「はぇ!?…あっ」

「元々それが目的なんだろ?だったら早く行った方がいいぞ」

「…そうですね。では、先に戻っています」

「あぁ」



 兵士が村の方へ戻っていく。その姿を見ながら、俺はある一方を見た。そこに人影はなく、すでに撤退したようだった。



「…さて、ここからが問題だ」

「…大丈、夫?」

「…正直分からない。だが、なるようにしかならないさ」



 そのまま恐れてくれるのが一番良いのだが、俺の予想なら、この後グレンは適当な理由をでっち上げて俺を陥れようとするだろう。

 そうなってしまえば、どうなるか分からない。

 少しの不安を胸に、俺達はゆっくりと村へ戻るのだった。




 *




 その頃、グレンは一人自室で悠々としていた。

 ケインが朝一で調査に向かうことは知っていたので、監視と情報を得るために兵士を一人ケインに差し向けた。その上で、自分の家来的な存在である者達に、ケインの妨害を頼んでいた。

 こうすれば、兵士に目が行って妨害に気づかれることは無いだろう、と考えたのだ。


 妨害を重ね、苛立ちや不穏を煽り、その様子を監視させ、それを指摘し、ケインを蹴落とす。その上で、あの少女達を手に入れることができる。

 グレンの頭には、作戦が成功し、ウハウハとした生活のビジョンのみが形成されていた。


 だからこそ、自分が失敗する事など一切考えていなかったのだ。



「し、失礼しますっ!」

「なっ、何事だ!?…って、貴様は…」



 突然部屋の扉が開かれ、グレンは思わず驚いてしまう。グレンは犯人を睨むが、その正体を見て、目を見開いてしまう。

 入ってきたのは、グレンが差し向けた兵士だったからである。



「どうした?戻ってくるには早すぎるぞ?」

「いえ、それが…」

「もしや、ケインが怖じ気づいて逃げたのか?クハハッ!そうだったら傑作ものだな!」

「いいえ違います…」

「あ?だったらなんだって言うんだ?」

「標的であるモンスターが、ケイン様たちによって討伐されました。それも、ほんの数分で…」

「なっ!?」



 グレンにとって、それは最悪の情報だった。

 妨害が上手くいかなくても、最低でも二時間はかかると思っていたのに、たった数分で片付けてしまったのだという。しかも、調査し戻ってきたのではなく討伐した。

 それは、こちらに妨害する暇を与えないよう、速攻で終わらせてきたに他ならない。


 グレンはギリッと歯軋りをする。ケインに全て見透かされているようで、苛立ちを抑えられない。



「…一体どうやってそんな早く終わらせた?」

「それは…」



 兵士から説明を受けたグレンは、その内容に絶句し、同時に不適な笑みを浮かべた。

 その目は先程と同じ、蹴落とすことしか考えていない目になっていた。



「クックック…そうかそうか、なるほどなぁ」

「あの、グレン様?」

「あぁ、もう下がっていいぞ。これからオレは、少し準備をしなければいけないからな」

「は、はぁ…では、失礼します」



 兵士が下がった後、グレンはすぐに行動を開始した。兵士が言うには、ケイン達が戻ってくるにはまだ時間がかかるらしい。

 その間に全ての準備を整え、ケインを盛大に迎え入れる。そして、女たちの前でケインを蹴落とし、自分が上であると見せしめる。

 そうすれば、女たちは自分に寄ってくるだろう。


 グレンの頭の中では再び、成功したビジョンのみが形成されていた。

 そのビジョンの為に、グレンは動き出す。


 その様子を、見られているとも知らずに。

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