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109 ケイン・イルベスターク その1

「オギャアァァァァァァァ!!!」

「産まれました!元気な男の子です!」



 十八年前、イルベスターク家に新たな命がもたらされた。

 その子はケインと名付けられ、イルベスターク家の次男として育てられることになる。


 イルベスターク家はエジルタと呼ばれる連合国、その内の一つを納める辺境貴族の家である。

 そのため、育ても相当厳しいものになる…とはならず、実にのんびりとした育て方をしていた。


 というのも、イルベスターク家は確かに貴族ではあるが、国に仕えたり国の為に働いている訳ではないからだ。

 これは他の二つの領主にも言えることであり、各々が足りない部分を支えあって暮らしている。

 そのため、何にも縛られることなく、自由に育てることができるのだ。


 さて、そんなのびのびとした育て方をされているケインだが、少し寂しい思いをしていた。

 貴族故に勉強もするが、苦にならない程度でやっているので問題ない。

 だが、問題なのは自由な時間の方だ。

 二階の部屋に居たケインは、少し遠くを見た。

 そこには、年が同じくらいの男女三人と遊ぶ兄、グレンの姿があった。

 そう、ケインには友達と呼べる存在が居なかったのだ。

 当時のケインは三歳。体も心もまだまだ幼い。危険を考えて外に出せない親の気持ちも分かるが、ケインはそれ以上に寂しくもあったのだ。



 そんなケインの生活が一気に変わったのは、それから二年後のことだった。


 まず、妹が産まれた。

 ルベイユと名付けられ、ケインは初めて見た小さな命に感動していた。

 父親であるジェイドは仕事で忙しく、グレンは友達と遊んでいるため、一人寂しい思いをしていたケインは、母親のルミアと一緒にルベイユの面倒を見ていた。

 そのせいか、ルベイユはケインにものすごくなついていた。少なくとも、ルミアと同じくらいに。


 次の変化はそれから一ヶ月後。今度は、剣の稽古が始まった。

 というのも、友達のいないケインが、暇潰しにと良く見ていたのが、屋敷の兵士達の訓練である。

 特に、剣の訓練をジィっと見ていたのだが、その様子をジェイドが見つけ、いつまでも過保護に育てるのは良くない、と思ったらしく、勉強も一段落ついたのでどうだ、と誘われたのが始まりである。


 そして、剣の稽古を始めたことで、ケインの持つ才能が開花し始めた。

 もちろん、最初から上手くいった訳ではない。剣の持ち方も雑であれば、体勢も変なものであった。

 だが、それもすぐに直り、習いはじめてから一週間とたたないうちに、下手に剣を振れる人より扱いが上手くなっていた。


 それを見た兵士達が、ケインには剣の才能があるのでは?と思い始め、それから一ヶ月後、試しに模擬戦を行ってみることになった。

 結果は言うまでもなく兵士の勝ち。ただし、かなりギリギリで。


 模擬戦前、ケインは自分が勝てないことを悟っていた。なにせ相手は経験を積んだ兵士。剣を握ってまだ一ヶ月と少しの自分が、勝てるとは微塵も思っていなかった。

 だが、タダでやられようとは思っていなかった。自分はまだ子供。それなら、()()()()()()()()()()やり方で戦えばいい。


 そして、模擬戦でケインが取った行動は、攻撃であった。

 ただがむしゃらに剣を振るだけなら、誰だってできる。だが、ケインはそうではなかった。

 ケインが兵士に向かって突撃する。兵士も、真正面から受ける構えを取った。

 そして、ケインは剣を振るう直前、姿()()()()()()()。胴を狙う攻撃から、足を狙う攻撃に切り替えたのだ。

 それは兵士にとって想定外の行動であり、一瞬思考が止まる。だが、既のところでなんとか我を取り戻し、足に襲いかかってきている攻撃を回避する。


 しかし、ここで体型の差が響いてくる。

 無理な体勢から回避したことで、兵士は体のバランスを崩す。

 対するケインは、攻撃こそかわされたものの、その小さな体を利用してすぐに体勢を整えると、再び兵士めがけて攻撃をしかける。

 兵士もなんとか攻撃を受け止めるが、これまた無理な体勢を強いられる。

 ケインは、その隙を逃さない。更なる追撃をかけていく。


 しかし、そんな状況も長くは続かない。

 優勢とはいえケインはまだ子供。体力や力には限界がある。

 少しずつ攻撃に威力が乗らなくなり、兵士もその隙をついて体勢を整えていく。

 そして、完全に体勢を整えられた頃には、ケインの体力は限界に到達していた。

 こうなってしまえばケインに勝ち目はない。素直に負けを認めると、妙に清々しい気持ちになっていた。


 だが、それはケインだけ。

 対峙していた兵士含め、周りにいた兵士達はケインの持つ才能に驚き以上のなにかを感じていた。

 相手の行動を見てすぐさま攻撃を変化させ、相手が体勢を崩した瞬間に追撃し、立て直させないよう攻撃し続ける。

 まだ五歳だから勝てた、と言っても過言ではない程に、ケインが繰り出した攻撃は凄まじいものであった。


 そのことは、父親であるジェイドにすぐさま伝えられた。

 始め、ケインにいきなり対人戦をさせるとは何事か!と怒っていたジェイドだったが、模擬戦の内容を伝えられる度、みるみるその顔を驚きと困惑で歪ませていった。

 元々勉強の息抜きにやらせよう、と思って始めさせてみたことが、ケインという存在を、最も輝かせる場所になるとは思っていなかったからだ。


 だが、せっかく見つけた才能を殺す親ではない。

 普通の勉強はこれまで同様ではあるが、明らかに剣の訓練が長くなっていた。

 ケインの才能を見つけた以上、今後のことも考えて、早いうちに身に付けさせておきたいのだろう。

 その考えは間違っておらず、ケインは日に日にその才能を伸ばしていった。



 そして三年後、運命の時が来た。

 ケインはその瞬間、一人の少女と出会う。


 ―それは、ケインの始めての友達となる存在であり、同時に、これまでの人生を崩壊させる存在でもあった。

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