11 新しい日常
「おい…ケインが女連れてんぞ…」
「なんだ?ナンパでもしたのか…?」
「てか、めっちゃ可愛くね?」
「くそっ…俺が先に声をかけたかった…」
…久々のギルドなのに、視線が痛い…
まぁ、原因は分かっている。
「…冒険、者…いっ、ぱい…」
未だに恐怖心が残っているせいか、さっきから俺の服の裾を握りっぱなしの少女、メリアである。
あの後、洞窟から出た俺達は、2日程洞窟の様子を見てから町へと戻った。
不安定な存在とはいえ、Sランクモンスターであるメリアがダンジョンから出たことで、内部のモンスターも正常な状態に戻りつつある。
最下層である10階層には、メリアが居た場所…楽園のような場所は、メリアが離れた後でも変わらない美しさで残っていた。
見たところ、モンスター達はその場所には入れないようで、今後はそのまま休息する場所として使えるかもしれない。
町へと戻った俺達は、ギルドに向かうより先に服屋へと向かった。
メリアの格好、未だにコート羽織ってるだけだらな…
一応、鱗を見せないように手足に包帯を巻き付けてはいるが、このままだと色々危ないので、やはり服は着ていて欲しい。
というわけで、これまで一切関わる筈が無いと思っていた服屋…女性服を専門に扱う店へと足を踏み入れた。
…店員の冷たい視線が正直怖い。
だが、ここで逃げたらメリアに服を買ってやれないので、我慢しよう…
「すみませんがお客様。ここは女性服専門店ですよ。お店を間違えた、ということはありませんか?」
「いや、ここで合ってる。それに、用があるのは俺ではなく、彼女の方だ」
俺は後ろの方で、さっきから店内の服を見て目を輝かせていたメリアの方を向いた。
店員も、メリアを見て納得したが、同時にメリアが何も着ていないことを見抜き、俺が悪いやつだと完全に誤認している。
「…重ねて失礼を申し上げますが、なぜ彼女は服を着ていらっしゃらないので?」
「モンスターに襲われていたところを助けたんだ。服は会った時からすでに無いような状態に近かったぞ」
嘘は言ってない。
さすがにモンスターだとは言えないので適当に簿かしたが、犯罪者では無いことは理解して欲しい。
が、それでもその店員は俺に突っかかってきた。
そろそろメリアに服を着せてやりたいんだが…
そう思っていると、奥の方から別の店員が出てきて、
「いい加減にせんかぁぁぁぁぁ!!」
という叫びとともに放った拳で、一撃ダウンさせ、奥の方へと引きずっていった。
…大丈夫なのかこの店…
俺が呆気にとられていると、今度は別の店員がやって来た。
「申し訳ありません。あの子は少々疑り深い性格なもので…気分を害してしまい、申し訳ありませんでした」
「あぁ、気にしないでください。誤解されるような格好をさせていたこちら側にも非はあるので」
どうやら、この店員はまともなようだ。
ちなみに、さっきの拳を放った店員はまさかの副店員だった。
…やっぱ大丈夫なのかこの店…
「それで、どのような服をお求めでいらっしゃるのですか?」
「あぁ、彼女に合う服を頼めますか。出来るなら、マントとブーツを使った動きやすい格好が良いです」
「マントとブーツを使った動きやすい格好…ですか。中々難しい注文を致しますね」
その店員は難しそうな顔をしつつも、ちゃんと要望に合った服を選んでくれた。
途中から、あらかた服を見終えたらしいメリアと一緒になって服を選ぶと、服を持ってメリアが試着室に入っていった。
暫くして、メリアが試着室から出てきた。
「ど、どう…かな?」
正直、めちゃくちゃ可愛い。
女子って、服装だけでこんなに変わるんだなぁ…と思いながら、その場で全部購入した。
メリアもかなり気に入ったらしく、その場でくるくると回ったり、試着室にある鏡の前でちょっとにやにやしていた。
…というのが数分前のメリアだった訳だが、今は新しい服の事よりも恐怖心が勝ってしまっているようだ。
まぁ、仕方ない。
ここにいる冒険者の奴らの中には、結婚してない男どもがわんさか居るからな…
…メリアは確かに美少女だから気持ちは分からんでもないが、その狙った獲物を逃さないような目をこちらに向けるのを止めてい「ひぃっ…」ただけませんかね?
ほら、メリア怖がっ「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」て…
あーもーダメだコイツら。
[追記 5/25]一部文章を変更しました。




