105 因縁からの招待状
「…ギルド長が俺を?」
「はい。なんでも、頼みたい事がある、と」
「頼み…指名依頼か?」
「内容は知らされていませんが、恐らくは」
俺達が都市に来てから四日がたった。
俺達は溜まっていた高ランクの依頼を次々とこなしていた。そのせいあって、十分どころか過剰なくらいの路銀を稼ぐことができた。ギルド側も、危険な依頼が減った事に安堵している。
今日もCランクの依頼を二つ達成し、ギルドへ帰還したのだが、どうやらギルド長が俺達を呼んでいるらしい。
このタイミングで呼ぶ、ということは、ほぼ間違いなく俺を指名したいという事だろう。
メリア達は、俺に任せる、という感じだ。
「分かった。話を聞こう」
「では連絡を通しておきますので。それとも、案内が必要ですか?」
「いや、何度も呼ばれてるからな。必要ない」
「分かりました」
流石に何度も足を運べば、どこにあるかは記憶する。それが分かっているのか、今回は案内無しで向かってくれと言われた。
俺達は階段を登り、ギルド長室へ向かう。
ギルド長の頼みとは、一体何なのだろうか。
そんな考えの中、俺達は部屋の前にやって来た。
扉をノックすると、中から声が帰ってくる。
「ケインか?入ってきてくれ」
「あぁ、お邪魔する」
中にはすでに席についていたギルド長―ユリスティナが居た。その目が、俺を心配している見えたのは気のせいだろうか。
俺は対面に座る。メリア達は邪魔にならないよう、今回は座らないようだ。
「さて、ケイン。君なら察しがついているとは思うが、君に頼みたい依頼がある」
「それは?」
「まぁ、見てもらった方が早い」
ユリスティナが一枚の紙を差し出す。俺はそれを受け取り、内容を読んでいく。
だが、全てを読む事はしなかった。
書いてある文字が汚かった訳ではない。内容が意味不明だった訳でもない。
最後に書かれていた、この依頼を出した人物。
その名前を、見てしまったからである。
俺は思わずその依頼用紙をテーブルに叩きつけ、ユリスティナを睨み付ける。その行動に、メリア達が驚きを露にする。
一方ユリスティナは、そうなることが分かっていたかのように平然としている。
「…おい、分かってるのか?」
「あぁ、分かっている。分かっているからこそ、君に頼みたい」
「…どうしてだ?この程度の依頼なら、他の奴らでも問題ないハズだ」
「それは私も理解している」
「ならどうしてっ!」
「ケ、ケイン!落ち着きなさい!」
「いつもの貴方らしく無いですわよ!?」
前に乗り出そうとする俺を、真後ろに居たナヴィとウィルが押さえてくる。
立つことが叶わず、俺は再びユリスティナを睨み付け、無意識に歯ぎしりをしていた。
それすらもユリスティナは分かっていたようで、落ち着いた口調で話しかけてくる。
「…ケイン、君には感謝しているんだ。ユアの過去を受け入れてくれたこと。仲間として、ユアを迎え入れてくれたこと」
「師匠…」
「他の子達の事も聞いたよ。忘れられない過去がある子も、複雑な事情を持った子も居る。けれど、そんな彼女達を救ったのは、紛れもなく君だ」
「………」
「…本当は、もう気がついて居るんだろう?私が、この依頼を君に頼みたい理由が」
実のところ、最初に見せられた時から薄々気がついていた。
この依頼は…いや、この地域からの依頼は、俺が意図して受けてこなかった依頼だからだ。
その事とその理由は、一部のギルド職員しか知らない。その内の一人は勿論、ギルド長だ。
「ケイン、過去と向き合うんだ。今の君は一人じゃない。君が救って、君を信頼している仲間がいる」
「………」
その言葉を聞いて、俺の体から力が抜けていくのを感じる。
…本当なら、この依頼は受けたくない。受けようとも思わない。
だが、今の俺にはメリア達がいる。
メリア達がいるから、俺は安心できる。メリア達がいたから、今の俺がある。
今この一瞬、忘れていたその事を改めて実感させられた俺は、断る気など失せていた。
「…一つだけ、条件がある。これが飲めないなら、俺はこの依頼を受けない」
「条件?内容にもよるけど、一体何を要求するんだい?」
「それは――――」
「…なるほど……良いだろう。その条件、飲もうじゃないか」
「……あぁ、頼む」
俺は、テーブルに叩き付けたままの依頼を改めて見た。
くしゃくしゃになったその依頼書には、こう書かれていた。
―――――
森の調査及びモンスターの討伐
先日から、近くの森で領民がモンスターに襲われる被害があった。
生還者によれば、Cランク相当のモンスターが何体もいたらしい。
そこで、森に入って調査する、またはモンスターを討伐してくれる冒険者を募集する。
迅速な協力を頼む。
エジルタ連合国 イルベスターク領次期領主
グレン・イルベスターク
これにて十章完結
次回十一章、ケインの過去とは…




