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104 平穏と不穏

「はぁぁ…やっと普通に歩ける…」

「長かったですわ…」



 闇黒波斬(ダークスラッシュ)を完成させてしばらくした頃、ギルド長が声を飛ばしてくれたお陰で、都市の人々の興奮は治まった。

 ただ、すぐに出ていってしまうと治めた意味がないということで、暫くギルド内でアイテムの換金や、他の冒険者との会話で時間を潰すことにした。


 そんな事もあり、今は夕暮れ時。本来なら急いで宿を探さなければならないのだが、ギルド長が気を聞かせてくれたらしく、ギルド経由で宿を取ってくれていた。

 しかも、俺がよく泊まっていた宿を。

 見知った道を歩き、やがて、一つの宿の前で立ち止まった。


 宿の名はボルネット。旅に出る前にも泊まっていた宿だ。冒険者より商人がよく泊まる宿であり、俺はここでは珍しい客であった。

 ギルドまでの距離は中途半端で値もそこそこ張るが、かわりに風呂などの設備が充実している。


 そんな宿の扉を、半年ぶりに開く。扉を開けた先には小さなカウンターがあり、そこに一人の少女が座っていた。

 俺が入ってきたのを察知したのか、小さくて可愛らしい猫耳がピクッと動く。



「いらっしゃいませー!って、ケインさん!お久しぶりです!」

「あぁ、久しぶり」



 少女の名はモミジ。この宿の宿主の一人娘で、人族と獣人のハーフだ。

 今年で十歳とは思えないほどしっかりしており、人柄も良いため、この宿に泊まる人々の癒しになっている。

 ちなみに、恋愛対象として見ている変態(ロリコン)も数人居る。その事を知った時、かなりドン引きしていた記憶がある。

 まぁ、モミジより年下であるイブを仲間にした俺が言っても、説得力が無いのだが。



「今パパを呼んでくるね!」

「あぁ、気をつけてな」

「はーい!」



 にへらとした笑いを浮かべたモミジが、しっぽを揺らしながら奥へと走っていく。

 少しすると、二つの足音がこちらの方へ向かってきた。一つはモミジ。もう一つは、モミジの父親のものだ。



「よぉケイン!元気そうだな!」

「そっちこそ、相変わらず料理三昧か?」

「あったりめぇよ!」



 モミジの父親であり、ここの宿主ボルク。

 冒険者として活動していたが、足の怪我を理由に引退し、この宿を始めたらしい。

 昔はその名を知らぬ者は居ないと言われるほどの冒険者だったらしいのだが、宿を開いた今では、ただの料理バカになっている。

 だが、彼の作る料理はどれも絶品。普通に店を構えても繁盛するくらいの腕を持っている。



「色々聞きたいことはあるが、先に部屋に案内するぜ。こっちだ」

「分かった。皆、いくぞ」

「うん」「分かったわ」「分かりました」



 ボルクの先導の下、案内されたのは二階にある三部屋。そのうち一つは、俺が泊まっていた部屋だ。

 話し合いの結果、俺は一人、メリアとイブとリザイア、ナヴィとウィルとユアで部屋分けする事になった。

 男女が分かれており、至極全うな部屋分けではあるのだが、イブとリザイアが変な様子だったので、メリアに注意するよう伝えた。


 各々部屋に荷物を置いたりして、一階にある食堂へ向かう。

 食堂にはすでに先客がおり、幾人かが集まって食事をしていた。

 俺達も席につくと、一人の女性がやって来る。



「久しぶりね、ケイン君」

「久しぶりで…だな。アーネット」

「あれ?敬語やめたの?」

「ギルド長から「いつまで目上相手に敬語を使うんだ?」と指摘されたからな…」

「あー、今だったら確かに珍しいもんね。少し前だったら、敬語を使うのなんて普通だったのに」

「…お陰で、今の会話でも違和感しか感じないんだけどな…」

「まぁ三年間ずっとそうだったもんね。これから慣れてかないと」



 この女性はアーネット。ボルクの奥さんだ。

 猫の獣人で、ボルクと同じパーティーに居た冒険者らしい。

 少しほんわかとした印象だが、かなりしっかりした性格の持ち主。宿の清掃を一人でしていたり、何かと働き者なのだ。



「それで、貴女達がケイン君のお仲間さんね。皆可愛くていいじゃない!」

「それほどでも~」

「かっ、かわっ…」

「ふふっ、ケイン君も隅に置けないわねぇ~」

「…望んで女の子だけ仲間にしてる訳じゃ無いけどな…」

「…なに?ケインは私たちじゃ不満なの?」

「そんな事はないぞ。むしろ、お前達で良かったと思ってる」

「「「………」」」

「…なんで黙る?」

「ふふっ、お邪魔虫は退散しようかしら。お料理持ってくるから待っててねー」

「え?あ、あぁ」



 その後、料理が運ばれてきても、よく分からない微妙に気不味い空気が流れていた。

 周りから「チッ」だの「見せつけやがって…」だの聞こえてくるのだが、俺は気にしていなかった。

 そんな事を言われるよりも、先程から、メリア達がなぜか視線を合わしてくれない方が辛かった。



 *



 その後、なんとか元の調子に戻ったメリア達と話し合った結果、俺達は都市に五日ほど滞在することにした。

 まだ買い取って貰えていない素材やアイテムを売るのも目的ではあるが、一番の目的は俺の冒険者としての活動…つまり、依頼を受ける事だ。


 この都市を拠点にしている冒険者の中で、Cランクの冒険者が、俺を除いても四人居る。彼らは俺より長いキャリアを持つ、いわば先輩のような存在だ。

 だが、俺とは違い、彼らは自身の実力にあった依頼しか受けていない。

 元々、Cランク以上の依頼は頻繁に来ないとは言え、彼らはDランクの依頼を多く受けていた。

 確かにランクの高い依頼は報酬が良いが、その分危険度も高くなる。彼らにとっては、報酬を目当てにしていない分、わざわざ危険を冒さなくてもいいのだ。

 それに、高ランクの依頼は俺が真っ先に取っていた、というのもある。なので、そもそも取れなかった、とも言える。


 そんなわけで、バジルと会話している最中にギルドを見渡した所、高ランクの依頼が僅かながらあった。中には、Bランク相当の依頼まである。

 そういった依頼はCランク以上の冒険者が率先して受けそうではあるが、ここはそうは行かない。

 なので、この五日間で俺がなんとか減らせれば、と思ったのだ。


 幸い、今の俺にはメリア達が居る。昔のように、一人で無茶をしてまで挑むような真似はしない。

 大切な仲間と共に、俺は次々と依頼をこなしていくのだった。



 *



「…ふむ、やはり彼が居ると、依頼が残らなくて済むな」



 ケインが帰って来てから、三日が経った。

 彼の話では、あと二日は滞在してくれる事になっている。

 彼と、彼の仲間達のお陰で、少し溜まっていた高ランクの依頼も大分片付いた。

 これなら、後は他の冒険者達だけでもすぐに片付きそうである。



「これで暫くは、わざわざ彼女達に任せなくて済むが…問題は…」



 ユリスティナは、手に持っている依頼書を見た。

 それは、とある領主からの依頼であった。

 難易度としてはそこまで高い訳ではない。そのため、他の者に受けてもらう事も考えていたのだが、今この都市にはケインが居る。

 それならば、この依頼はケインに受けてもらう…いや、()()()()()()()()()()()()()()依頼だ。



「…ケイン、これも運命だ」



 ユリスティナは、静かに呟いた。この先に待ち構える、ケインの過去と未来を見据えて。

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