103 闇黒波斬
これまでスキルの成長具合を「熟練度」と表現していましたが、今話より「レベル」に変更致します。
理由としましては、熟練度では表現が難しく、分かりづらいという点があげられます。
また、レベルと表現はしますが、明確にレベルを表示する訳ではなく、あくまで目安として扱う、と考えていただければと思います。
修正等はおいおいしていきますのでよろしくお願いします。
それでは本編、どうぞ。
事態の鎮圧を待っている間、俺達はギルドの裏にある練習場に来ていた。
そこでは数人の冒険者が、魔力でできた的に向かって攻撃したり、他の冒険者と模擬戦をしたりしていた。
俺達は他の冒険者の迷惑にならないよう、端の方へと寄った…のだが、何故かバジルを含め、数人がついてきた。
「…一応聞くが、なんでついてきた?」
「そりゃあケインが何かしようってんだ!見ないと損だろ!」
「…俺は見せ物じゃないんだが」
全員が興味津々で見つめてくる。その様子にため息をつきながらも、自分のやるべき事を始める。
俺は手招きでナヴィを呼ぶ。ナヴィも、それに答えるようにこちらに歩いてくる。
「それで?私で何を試したいの?」
「あぁ、闇を天華に纏わせてくれ。正確には波斬に、だけどな」
「闇を?それは良いけど…一体どうして?」
「それは私から説明させていただきます」
ユアが一歩前にでる。
事の発端は一日前、ユアと魔術付与が持つ能力の一つ、簡易付与について話していた時だった。
簡易付与は武器やスキルに、一時的に別の特性をつけることができる能力である。例えば剣に火属性を付与すれば燃える剣になる、といった感じだ。
一時的な強化とはいえ、ケインはその能力をとても評価していた。
武器やスキルに別の特性を追加することができるため、攻撃の幅がとても広がる事になるからだ。
ただ、二つほど問題があった。
一つは、魔術付与自体のレベルが低い、ということ。
いくら強力なスキルでもレベルが低いと、流石にやれる事に限りが産まれる。今のレベルでできるのは、切れ味を向上させる〝鋭利化〟、一発の威力を高める〝増幅〟。
それらに加えて、風属性の付与ができるようだ。
ユアが自身の短剣に風属性を付与したところ、波斬と似たような技を使えるようになった。気配を消し、背後から忍び寄らずとも攻撃してくるという、なんとも恐ろしい存在になったものだ。
そして二つ目がその属性に関するものだ。
確かに風属性を付与できるのだけでも十分に強いのだが、逆に言えば風属性しか付与できない。少し前に言った火属性の付与も、今のユアではできないのだ。
俺としてはこれだけでも十分だと思っているが、ユアは少し不満なようだ。なんとなく、もっと役に立ちたい感が滲み出ている。
とりあえず、スキルを使い続けてレベルを上げていく事にしたのだが、その付与を見た俺が、ふと似たようなスキルを見たことがあるのを思い出した。
それこそが、ナヴィとイブの持つ闇のスキルだ。
ナヴィは影の槍の制御の為に使っており、イブに関しては炎と組み合わせて煉獄というスキルを産み出している。
つまり、スキルに別の特性を付与しているのと同義なのだ。
「…というわけです」
「えっと…要するに、私の闇をケインの波斬に付与できるかを調べたい…ってことかしら?」
「そういうことだ」
「んーまぁ、やるだけやってみるわ」
「メリア、悪いが的の後ろに待機してくれるか?もしもの時に備えて防壁をしてくれると助かる」
「ん…分かっ、た」
ナヴィが俺の横に立ち、俺はナヴィに天華を横向きで向ける。ナヴィは天華にそっと触れる。
メリアも、的から少し離れた位置につく。
「いくわよ…〝闇〟!」
ナヴィの手に闇が産まれる。その闇は、天華の刀身を侵食していき、その刃を黒く染める。
黒く染まった所で手を離してもらい、その状態のまま、遠くの的に狙いを定める。魔力を流し、刃にまとわりついた闇と混ぜ合わせる。
やがて、刀身が黒く輝きを放ち始める。
「〝波斬〟!」
俺は的に向かって波斬を放つ。
その波斬は黒く、禍々しいオーラを放ちながら的目掛けて飛んでいき、見事的に命中した。
だが、それだけでは終わらなかった。魔力でできた的が、バキィィという音を立てて崩れたのだ。しかも、黒い波斬は消えるどころか、変わらぬ速度で待機していたメリアに向かっていく。
「っ、〝防壁〟!」
メリアが慌てて防壁を貼る。なんとか展開が間に合ったのもつかの間、防壁とぶつかった瞬間、メリアにとてつもない衝撃が襲いかかってきた。防壁越しに伝わってくる衝撃を必死に堪えるメリア。
数秒の葛藤の末、波斬が小規模の爆発を起こして消えた。
その衝撃で、メリアが少し吹き飛ばされた。俺達は慌ててメリアに駆け寄る。
「メリア!大丈夫か!?」
「…ん、だいじょ、うぶ」
「よかったぁ…」
「…それにしても、さっきの波斬、とんでもない威力になったわね…」
「あぁ。メリアが押し返される程の威力になるとは思わなかった」
的を粉々にし、メリアの防壁をも押し返す程の威力。
だが、これは俺の力だけで構成されている訳ではない。恐らくではあるが、ナヴィの魔力と俺の魔力が混ざった事で、こんな威力になったのだろう。今後、一人で同じことをやったとしても、こんな威力にはならないと思う。
「まぁ、色々考えても仕方がない。今は新しい技に名前をつけないとな…」
スキルの名前、というのは、スキルを使う上で大事な要素と言える。
前に作り上げた火炎波斬は、名前を決めた時点で、俺の新しいスキルとして定着した。
地図製作もそうだ。初めてそのスキルの名を呼んだ時、そのスキルの能力を瞬時に理解した。
つまり、名前にはスキルの安定化と、スキルの内容を瞬時に把握する力があるのだ。
スキルが安定していなければ、スキルが暴走する可能性がある。スキルの内容があやふやでは、スキルを使う事すらできない。
そういう意味でも、この技に名前はつけておいた方がいい。
「フッフッフ、それなら我に任せるといい…!」
「リザイア?何かいい案でもあるのか?」
「それは禍々しき漆黒の波斬…全てを屠る無慈悲なる一撃…〝漆黒を劈く影葬りの刃〟と名付けよう!」
「あ、長いから却下」
「んなっ!?」
ただでさえ一人では使えないスキルなのに、そんな長い名前では戦闘中のスキも大きくなる。
だが、却下こそしたものの、イメージとしては悪くない。
なので、リザイアの案を元に、短縮しつつ分かりやすい名前に…
「…よし、この技の名は〝闇黒波斬〟だ」
「まぁ、いいんじゃない?」
「むぅ…我の案の方がカッコいいのだが…」
「一応、リザイアの案を参考に、言いやすくしてみたんだけどな」
「…ま、まぁ、それなら良いだろう。…そっかー…長いのかー…」
最後の方は小声で聞こえなかったが、なんだか少し落ち込んでいるようにも見えた。後で何かプレゼントでもしておこう。
とにかく、今は新しいスキルを得られた事を素直に喜ぼう。
これでまた一歩強くなれた。けれど、一人で得た時とは、少し違う嬉しさを感じていた。
*
「……」
ウィンは、目の前で起きた出来事から目が離せなかった。ケインがナヴィの力を借りて放った一撃が、全てを圧倒したのだ。その光景を、ウィンはじっと見つめていた。
そんなウィンの様子をを見ていたバジルは、ウィンがケインに憧れたのだと思った。
だが、ウィンは違った。
(あんな強力な一撃を、たった一人で…?)
(力さえあれば、オレにだってできるハズだ)
(力があれば、全てを手に入れられる)
(あの女達だって、あいつの力に寄ってきただけだろう)
(オレは最強だ。最強になる男だ)
(そのためには、力が…)
ウィンは、冒険者として大切なことを学んでいなかった。
それゆえ、ケインは力を持っているからこそ、あんなふうに良い顔をしているのだと思ってしまった。
力があれば、全てを手に入れられる。
力があれば、全てをひれ伏させられる。
その間違った思考を正すことを、バジルはすることができなかった。
それはやがて、一人の存在によって大きな闇へと変貌することになろうとは、この時はまだ、誰も予測していなかった。




