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101 冒険都市サンジェルト

「む?おい、誰か来たぞ」

「…んー?おっ、かわいこちゃんいっぱいじゃねぇか!」

「おいおい…門番として仕事しろよ?」

「分かってらぁ!…って、男がいる!?」

「はぁ?…あ、本当だな。お前の言うかわいこちゃん達、男の周りに居るな」

「んじゃなんだ!?あのかわいこちゃん達は皆あの男の物ってか!?クッソー!一人くらいくれねぇかなぁ…」

「おいおい…そんなこと聞かれたらタダじゃすまないぞ…」

「チクショー!」



 門番の二人は、近づいてくる一行を見てそんな会話をしていた。騒ぎ立てる方の門番―ロージは、まだ彼女すら出来ていない。一方、落ち着いている方の門番―ユゼはすでに子持ちだ。

 そんな二人だが、門番としての仕事はキッチリとこなす。この仕事にやりがいを感じているからだ。

 そして、遠くに見えた一行が、完全に目視できるところまで来た。先程はぼんやりとしか見えなかった顔も、ここまでくればよく見える。



「やっぱり俺の見立て通りかわいこちゃんばっかりだぁ…くそぅ、俺の何がいけないんだ…!」

「そういう所だと思うぞ…って、おい!あれ!」

「なんだよ…今それどころじゃなっ…!?」



 落ち込むロージを宥めつつ、一行を見たユゼが、その正体を見て驚く。それにつられ、一行を見たロージも、男を見て驚いた。

 それは、二人もよく知る人物であり、少し前に旅立ってしまった、とても仲のいい人物だった。

 その人物が、こっちに向かってきている。先程までのふざけているような態度を取っ払う二人。そして、その人物はやって来た。



「久しぶりだな、ケイン」

「元気にしてたか?」



 二人を見て、ケインがふっと笑う。



「お前らも元気そうだな。ロージ、ユゼ」



 *



 都市に着いた俺達を迎えてくれたのは、ロージとユゼだった。

 二人は都市の門番をしており、俺がここで冒険者として活動していた時、帰り際にいつも話をしたりしていたのだ。

 旅立った時は違う門の番をしていたため出会えなかったのだが、元気そうにしているようでなによりだ。



「そういやケイン、そのかわいこちゃん達はいったい誰なんだ?」

「あぁ、旅先で出会った仲間達だ」

「んなっ!こんなかわいこちゃん達ばかりを仲間に!?クソッ!羨ましすぎるっ!」

「なんなんですの?この人…」

「悪いね。こいつ、彼女がずっと出来てなくてさ、女に飢えてるというか」

「ほほぅ?」



 その言葉に食い付いたのはリザイアだ。そりゃそうか。なにせ、サキュバスはそういう恋愛事に敏感な種族なのだから。

 リザイアがロージの前に立つと、軽くデコピンをかます。



「いっ!?な、なにす…」



 ロージが文句を言おうとするも、目の前に居る巨乳美少女に目を奪われる。…主に、強調されている谷間に。

 それに全員気づいているため、俺とユゼはため息をつき、メリア達からは冷やかな目を向けられる。リザイアも似たような感じではあるが、言葉はちゃんと伝えるようだ。



「感謝するがいい。(サキュバス)の力を少しだけ使った。そのうち、いい相手が見つかるだろう」

「本当か!?」

「ただし、貴様の努力次第ではあるがな。なに、この闇の覇者たる我の力を使ってやったのだ。光栄に思うがよい!」



 そう言った後、そそくさと後退するリザイア。やはり、先の視線が少し気持ち悪いと感じていたのだろう。



「全く…にしても、よく見たらお前、とんでもない事になってるな…」

「確かにな。サキュバスが仲間ってだけでも驚きなのに、吸血鬼にゴースト、魔族にエルフ…一体、どんな事をしたらそうなるんだよ?」

「…まぁ、色々あったからな」

「詳しく聞きたいのは山々だが、ここで足止めし続けるのも悪いだろう。さぁ、通っていいぞ」

「確認とかはしないのか?」

「俺達がケインを見間違えるとでも?まぁでも、確認くらいはしないとなぁ?」



 ロージがにやりと笑みを浮かべ、あるものを手に取った。それは、緊急用の連絡石だ。それを使えば、都市中に言葉を伝えられる優れもの。モンスターの接近など、緊急時に使う魔導具だ。

 俺は、嫌な予感がした。だが、時すでに遅し。ロージは連絡石を起動すると、その声を都市中に広めた。



『サンジェルト全民にお知らせする!半年前に旅に出た、我らがケイン・アズワードが、この冒険都市に帰ってきたぞ!』

『おい!?』



 思わぬ言葉に、俺は反応してしまった。しかも、連絡石の近くで。連絡石は俺の声を拾ってしまい、俺の声が連絡石を通して都市中に響いた。

 しまった!と気づいたがもう遅い。俺の声は確かに都市中に届いてしまった。普通なら、悪戯ですまされるかも知れないが、特定の人物からすれば、タダではすまない事になる。



「お前ぇぇぇ…」

「あっはっは!良いじゃねぇか!あいつら、きっと今ごろ歓喜に沸いてるんじゃねぇかな?」

「ロージ…流石にそれを使ったのは…」

「わーってるよ。反省文も書くし、減給だって覚悟してる」

「はぁ…ケイン、ロージがやらかしたから、多分都市中で騒ぎになってる。気を付けろよ」

「…わかってる」



 気が重くなるのを感じながら、都市に入る。

 目に写るのは見慣れた光景。半年前まで、毎日見ていた光景だ。



「おぉ…」



 初めて来たナヴィ達は勿論、一度来ているハズのメリアも、その光景を見て思わずそう口走る。

 都市と言うだけあり、綺麗に整備された通路には人が溢れ、そこに隣接する屋台や建物も賑わっている。冒険都市というだけあり、防具や武器の店が充実しているのも、この都市の特徴だ。



「おい、あれって…!」

「あぁ、ケインだ!」

「おーい!元気にしてたかー?」



 そんな余韻に浸る間もなく、俺を見つけた都市の人々からの声が飛んでくる。

 その度向けられる視線がものすごく鬱陶しかったので、俺達はそそくさとギルドへ向かう。本当は宿を見つけてから行きたかったのだが、この様子では宿を探すよりもギルドへ向かった方が安全だ。

 冒険者が多くいるギルドが苦手なメリアには悪いが、ギルドに入ってしまえばある程度は安全が確保できる。…中にいる男共が暴走しなければ。


 どうにか人混みを素早く潜り抜けた俺達は、冒険者ギルドまでやって来た。このギルドは、俺にとって大事な場所だ。生きるのに必死だった頃の俺が、通い詰めた場所なのだから。

 だが、今はそんな余韻に浸っていられない。俺はギルドの扉を開き、全員中に避難した。少し荒くなった息を整え、辺りを見回す。


 そこには、懐かしい顔が何人か見られた。突然の事で言葉を失う者。俺達を指差し、口をパクパクさせている者。感動したかのように、目に涙を浮かべる者…

 そんな彼らに、俺は一言だけ伝えた。



「…久しぶりだな、お前ら」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』



 ギルド内に歓声が沸く。

 何人かは分かっていない顔をしているが、まぁ仕方ないだろう。今声を上げた冒険者は皆、俺をよく知っている冒険者達なのだから。

 そんな中、一人近づいてくる冒険者が一人。背中に大剣を背負った、ガタイの良い男だ。



「戻ってきたんだな、ケイン!」

「あぁ。といっても、一時的にだがな」

「それでもいいさ。元気な姿を見られりゃ、それで満足ってもんよ!」



 この男はバジルと言い、俺がまだ冒険者になったばかりの頃からの付き合いだ。ランクはCであり、経験豊富な知識にはかなり世話になった。



「ケイン。色々と話したいことはあるが、先約があるからな。先に済ませてくると良い」

「先約?」

「ギルド長だよ。さっきの声を聞いた後、受付を通して「ケインがギルドに来たら、真っ先にこちらに寄越してくれ」って伝言が来てな。あぁ、連れも全員来てくれ、とも言っていたぞ」

「はぁ…」



 ギルド長は、俺とメリアの旅立ちを盛大に祝福したり、魔法鞄をくれたりと色々とお世話になった。呼ばれたとあれば、行かねばなるまい。

 俺達は受付嬢に話をつけてもらい、全員でギルド長室へと向かった。



「ギルド長、ケイン様達をお連れしました」

「あぁ、入れてくれ」

「失礼します」



 扉が開かれ、中の様子が見れる。

 前に来た時は沢山積まれたりしていた資料の姿は見られず、完璧に整頓された部屋になっていた。そして、その奥に、彼は居た。



「やぁ、久しぶりだね。元気にしてたかい?」

「はい。お久しぶりです」

「んー相変わらずだね。目上の人だろうと、敬語を使うのは、あまり冒険者としては良くないんだけどなぁ」

「…直そうとは思ってるので…思っているんだがな…」

「ふふっ、まぁ、それは少しずつ直していけばいいさ。さっ、入りたまえ。いつまでもそこに立たれても迷惑になるだろう?」



 ギルド長に手招きされ、俺達は中に入る。

 メリア、ナヴィ、ウィル、リザイア、イブ、レイラと、次々に入ってくる仲間達。コダマはメリアの鞄から顔を出している。

 そして、最後の一人、ユアが部屋に入った途端、ギルド長の目が見開かれる。



「ユ、ユア…?ユアなのか!?」

「っ…その声、まさか…師匠?」

「…え?」

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