100 リザイア
記念(?)すべき100本目!
「…ねぇ、ケイン」
「…なんだ?ナヴィ」
「あれ、やりすぎじゃないかしら?」
「…俺もそう思う」
目の前に広がっているのは、ゴブリン、オーク、ガビューウルフ…とてつもない数の、モンスターの死骸の山という、阿鼻叫喚の地獄絵図。
その中心で、いかにも悪者のような笑みをしているのは、この惨状の犯人リザイアだ。
「クックック…哀れだなぁ理性なき怪物達よ。この我に挑んだこと、地獄の底で後悔するがいい…!」
事の始まりは数分前、俺達がゴブリンの群れを見つけた時である。
*
俺達は新たな仲間、リザイアを加わえた翌日、再び冒険都市サンジェルトへと向かう足を進めていた。このまま順調に行けば、一週間とかからず都市に着けるだろう。
が、何事も起きない事が無いのが俺達。当然の如く、ゴブリンの群れを発見した。しかも、丁度食事中のようで、こちらに全く気がついていないらしい。
「ケインよ。ここは我に任せてくれ」
「…リザイア一人でか?」
「貴様の事だ。我の力を知っておきたいのだろう?ならばここで一つ、我の力を見せつけておこうと思ってな」
確かに、リザイアとはちゃんと戦った訳じゃない。それに、仲間として迎え入れてから今日まで戦闘をしていないため、リザイアがどのくらい戦力になるのか把握できていない。
リザイアの言う通り、ここでリザイアの力を知っておいた方が良いだろう。
「そうだな…頼めるか?」
「フッ、我が力、とくと見せてやろう…!」
そう言うと、リザイアは腰につけられたベルトから、二つの黒い物を両手に持った。それは、剣や槍でもない。俺も全く見たことの無い物だった。
手に持ったそれには、引き金のような物が付いており、先の方は、裂けたような形になっている。
「リザイア、それは?」
「よくぞ聞いてくれた!これこそ、我のみが使える最強の武器…その名も、≪ヴァルドレイク≫!」
「ヴァル、ドレイク…?」
「見ているがいい…〝雷撃〟」
リザイアがそう叫ぶと、リザイアの手に稲妻が発生する。
雷撃は炎や水のように、雷を相手に飛ばすスキルだ。威力は今上げた二つよりも圧倒的に高いのだが、致命的な問題がある。それは、狙いがつけづらい、という点だ。
確かに威力は高いのだが、他のスキルと比べると圧倒的に扱いが難しい。なにせ、真っ直ぐ飛ばせるようになるだけでも、数十年はかかるとまで言われているのだ。しかも、その数字は絶対ではない。それゆえ、あまり人気の無いスキルの一つと言えるだろう。
その雷撃を発動したリザイア。雷撃は、リザイアが両手に持っているヴァルドレイクとやらに吸い込まれていき、それと同時に、ヴァルドレイクからキィィィ…という、小さな耳鳴りのような音が鳴り響く。
そして、そのまま一体のゴブリンにヴァルドレイクを向ける。
「見せてやろう…これが、我が力なり!」
リザイアがトリガーを引く。刹那、ヴァルドレイクから黄色い閃光が、目に見えぬ速度で放たれる。その閃光は、ゴブリン目掛けて一直線に飛び、見事に眉間を貫いた。
食事に夢中だったゴブリン達は、突然倒れた仲間に呆気を取られ、その動きを止めてしまった。その隙をリザイアは逃さず、再びトリガーを引く。今度は抉るように顔を貫かれ、絶命するゴブリン。
そこで、ようやく敵が現れたことにゴブリン達が気がついたが、時すでに遅し。
リザイアは容赦なく閃光を撃ち出す。その全てがゴブリン達を貫いていく。そして、一匹だけが残された。そのゴブリンも、すでに足を貫かれ、動きが鈍い。
だが、リザイアはすぐには撃たず、再び雷撃を発動する。ゴブリンが逃げようとするも、動かない。
「ちょっと!?早くしないと逃げられちゃいますわよ!?」
「焦る必要など無い…我は災厄なる悪夢。誰も、我から逃げられはしない…!」
話している間にも、ヴァルドレイクから放たれる音が少しずつ大きくなる。心なしか、電撃を帯びているようにも見える。
「充填10」
その言葉と同時、ヴァルドレイクを再び構える。先程までとは違い、少し放電しているようにも見える。そして、トリガーを引いた。
それは、轟音と共に撃ち出され、遠くに逃げていたゴブリンを寸分狂わず消し飛ばした。
その光景を見た俺達の反応はと言うと、全員が絶句していた。
理由は二つ。まず、ゴブリンはすでに木の影から少し見える程度だった。それなのに、寸分の狂いもなく撃ち抜けるという圧倒的な精度。
そして、もう一つはその威力。放たれた閃光は、木の間を縫うようにして命中したのではなく、遮る木を全て焼き溶かして命中したのだ。
「ハッハッハ!これぞ、闇の覇者たる我の力!」
一人自慢気になるリザイアだが、皆の反応は薄い。呆気に取られて、反応できるような状態では無かったからだ。
俺は放心状態から何とか持ち直し、リザイアに説明を求める。
「…リザイア、お前、一体何をした…?その武器は一体…」
「クックック…この武器ヴァルドレイクは我の雷撃を溜め込み、エネルギー弾として撃ち出す事ができるのだ。溜め込んだエネルギーは少量ずつ撃ち出す事も、先のように、一発に圧縮して撃ち出す事もできる」
「…り、理解が追い付かない…」
リザイアにもう一度説明を求め、ヴァルドレイクは雷撃を高速で、かつ真っ直ぐに撃ち込む事ができる武器であること。
撃ち出すには雷撃をエネルギーとして、ヴァルドレイクに充填させる必要があること。
充填したエネルギーは少量ずつ撃ち出したり、一撃に全てを集中させる事もできる、ということを理解した。
これだけ聞くととんでもない武器であると分かるのだが、一つだけ弱点のようなものも存在する。それは、充填するのにかかる時間だ。
細かく撃ち出す分には一瞬の充填だけでも事足りる。だが、威力を乗せようと思うと、それなりに時間がかかってしまうのだ。
ただ、時間をかける分、一発の威力は一気に跳ね上がる。それこそ、この前対峙したゴブリンキングですら、一撃で葬る程に。
「…なんというか、俺はとんでもない奴に気に入られたみたいだな…」
「…その言い方では、我の事を嫌と言っているようにも聞こえるのだが?」
「そんなこと無い!…ただ、そう聞こえたなら素直に謝る。…すまない」
「フッ、謝らなくていい。我が気に入ったのは、そういう素直な所にもあるのだからな」
「…っ、ケイン、なんか、いっぱい来てる…!」
リザイアとの会話を遮るようにメリアが叫ぶ。その叫びにハッとするように周りを見ると、無数のモンスターがこちらに向かって来ていた。
「…多分、さっきの弾が、群れの仲間に当たったんだと思う。なんか怒ってるから…」
「フン、我が力に恐れる事なく立ち向かってくる姿勢は褒めてやろう。だがっ!」
「リザイア!?」
「貴様らはそこで見ているがいい!」
一人飛び出していくリザイア。刹那、リザイアの蹂躙が始まった。
羽を羽ばたかせ、宙を飛ぶリザイアが躊躇いなくトリガーを連続で引く。閃光は一発たりとも外す事なく、全てモンスターの眉間を貫く。例えそれが、動いている相手だろうと。
地上でしか戦った事の無いモンスター達は、空からの攻撃に為すすべなく散っていく。
ガビューウルフが数体ジャンプして飛び掛かろうとするも、空で自在に動けるリザイアが相手では意味がなく、ヒラリとかわされてそのままヴァルドレイクの餌食になる。
その光景を、俺達はただ見ているしか無かった。
*
…というわけだ。
ほどなくして、モンスター達が魔石やドロップアイテムを残して次々と消えていく。ざっと見ても、数百は下らない数の魔石とアイテムがある。
「…なんか私、変な夢でも見ている感じがしてきましたわ…」
「イブも…」
「…レイラ、少しずつでいいからかき集めて来てくれるか?」
「…あ、うん。まかせて」
レイラにアイテム集めをお願いする。流石にここまで散らばっていると、全員でかき集めるよりもレイラに頼んだ方が早い。
戻ってきたリザイアに暴れるのはほどほどにするよう伝え、俺達もアイテム集めに入った。といっても、すでにレイラに頼んでいるので近場のものだけだ。
結果として魔石が百近く、ドロップアイテムもかなりの数になった。一応リザイアあっての成果なのだが、素直に喜んでいいのかは微妙なところだ。まぁ、本人がドヤ顔をしているので、なにも言わないでおこう。
そんな事がありつつも、俺達は先へと進む。
そして一週間ほど経った時、それは見えてきた。
「なにか見えてきましたわね」
「おぉー?もしかしてあれが!?」
「あぁ。冒険都市サンジェルト…俺達の始まりの場所だ」
旅に出てから半年近く。俺は、再びこの場所にやって来た。
冒険都市サンジェルト。第二の故郷であり、俺の始まりの場所。
補足
リザイアの武器であるヴァルドレイクは電磁加速砲。いわゆる、レールガンです。
また、この世界に銃は存在しないため、ヴァルドレイクが唯一無二の銃となります。




