10 ここから始まる物語
「これが、私の全て…」
「…」
「あれから、完全、に怪物になる、ことは無、かったの…でも、体には怪物に、なった証がしっかり、と残って、いる…」
俺は、言葉を失った。
話についていけなかった訳じゃない。
だが、人間がモンスターになった事例など何処の文献にも無い。
それに、ここ最近はギルドに居たから分かるが、近くで村が滅んだという情報は来ていない。
つまり、この少女は少なくともこの辺りではない、遠いどこかの村から来たことになる。
何日もかけて、たった一人…孤独で。
「私の両、親は冒険者、に殺され、私の、村全て、は私が殺、した。私の居、場所は、全て、私自、身で殺して、るの…」
少女の気持ちを完全に理解した俺の胸に、何かがズキリと刺さった気がした。
同情なのか、それとも情けなのか。
それは、俺にも分からない。
しかし、これだけは言える。
―俺が、この子を救わなくては。
少女が抱いて居るのは、全てを自らの手で無くしたという絶望。
そして、誰にも寄り添う事が出来ない孤独感。
俺では、少女の抱くもの全てを救い、振り払うことは出来ない。
それでも…
「…なってやる」
「…えっ…?」
「俺が、お前の側に居てやる」
「なっ…」
「お前の苦しみも、悲しみも、お前一人が背負うってんなら、俺も一緒に背負ってやる!
俺が、お前の居場所になってやる!」
俺はその場から立ち上り、そう叫んだ。
自分の気持ちを、ただ目の前の少女に。
孤独なまま、この子の全てを終わらせてたまるか。
少女は少し固まっていたが、同じく立ち上り、言葉を返してきた。
「な…何、言って、るの…!そんなの、ダメに決まって、る…!」
「どうして…!」
「私の大、切な居場所は、全部、私が殺し、たの!もし貴、方が…ケイン、が大切な、居場所になっ、たら、貴方を殺し、てしまう、かも知れ、ない…!」
「それは、お前の側に居られない理由にならない!」
「で、でも…私はメドゥー、サ…怪物なの…!たとえ、今は、力を失っ、ていても、いつかは…!」
「冒険者のパーティーに、モンスターが居るのはおかしいのか!?」
「っ…!?」
この世界には、《テイマー》と呼ばれる職がある。
テイマーは大雑把に言えば、小動物から猛獣、時にはモンスターを使役して人間だけでは出来ないことを代行させたり、手伝って貰ったりする職だ。
もちろんギルドにも何人かテイマーが存在しており、サポート力の高さ故に冒険者達とはけっこう仲が良い。
俺も、町中でテイマーが使役しているモンスターを何度か見かけた事がある。
「…じゃ、あ何?私を、貴方、が使役す、るって言う、の…!?」
「そんなことはしない!俺はただ、お前が帰る居場所になってやりたいと思った。それだけだ!」
「どう、して…どうして、そこまで、私に構おうと、する、の…!?」
「お前が!…お前が、このまま孤独で居るところを見ていられない…全てを聞いて、放って置くことなんて、俺には出来ない…!」
俺は、少女の全てを知った。
俺と同じ冒険者に両親を殺され、呪いによってモンスターとなり、村そのものを滅ぼした。
本当なら、俺がとやかく言う資格など無いはずだ。
でも、少女の側に居たい、居てほしい。そう思ってしまった。
多分、この気持ちは、俺の我が儘なんだろう。
「なん、なの…本当に…貴方…は…」
フラフラと、少女が俺の方に歩いてくる。
そして、ポンッと俺に体を預け…
「ねぇ…本当に、私と、一緒に居て、くれる…?」
「…あぁ、一緒に居てやるさ」
「うぅ…うぇぇぇぇぇぇ…」
今思えば、俺はかなり無茶苦茶な事を言った気がする。
それでも、俺の言葉を、思いを受け取った少女は、これまで流せなかったであろう涙を目一杯に流しながら、静かに泣いた。
その小さな泣き声はこの洞窟で、静かに響いていた―
「そういえば、大丈夫なの?町に行くこと。冒険者も、沢山居るし…」
「正直、に言えば、まだ怖い…。でも、貴方、が一緒に居て、くれるなら、大丈夫」
「…そうか」
「…ねぇ、お願い、がある、の」
「…ん?なんだ?」
「私に、名前をくれ、る?人間じゃ、ない、怪物の私、に」
「名前…か…」
「…メリア」
「メリア?」
「あぁ、どう…かな…?」
「ふふっ…メリア…気に入っ、た」
「そうか、なら良かった」
「それじゃあ改めて、よろしくね。ケイン」
「こちらこそ、よろしく。メリア」
これにてプロローグは終了。
次回から新章です。
[追記 5/25]メリアの会話部分を二章辺りの感じに合わせました。




