金平糖
カラカラカラ、小気味の良い音がお嬢さんの口から溢れる。
先ほど一息に2,3粒放り込んでいた金平糖だろう。
「書生さん、次はあそこよ、ほらぼけっとしないで歩くのよ」
「はいはい、転ばないように気をつけて」
僕は上京してきた学生だ。喫茶店でたまたま出会った紳士の家へ居候することになり、今はこうしてお嬢さんの子守りをしている。
子守り、というとお嬢さんはへそを曲げてしまうので禁句、秘密だ。
「お嬢さんはずっとお元気だ」
「文字が大好きな書生さんと違って、私はいつも外で遊んでいますから」
「おや、僕の名前も覚えられないほどですか」
「書生さんは書生さんで充分だわ」
僕の手を放しお嬢さんは軽やかに通りを歩く。
なるほどこれが若さか、とまだ酒に慣れない僕が年寄りのように考えていると、その若い後ろ姿は人々の雑踏にうっかり埋もれてしまいそうになる。
お嬢さんは途中、小動物のようにちらちらと僕の方を見やりながら、公園の長椅子を目指して歩く。定位置なのだろう、前の散歩に付き合った時も〆はこの場所であった。
「書生さんはのんびりやさん」
「はい、あまり外に出ないので」
「人と話すのも苦手だわ」
「仰る通りで」
「でも私とお喋りする時は減らず口ね」
「はい、お嬢さんは楽しい人なので」
口寂しくなったのか、先ほどの金平糖をまたもや2,3粒まとめて口に含む。舌先で転がすのが楽しいらしい。
「お嬢さん、知っていますか。金平糖は小さいですが、作るとなると2週間もかかるそうですよ。角は職人技なのです」
「本当?書生さんは物知りだわ。私の金平糖を分けてあげる」
僕が買ったんだけどな、とは言わずありがたく頂戴する。
「お嬢さんは金平糖みたいだ」
「なぁに?」
小さくて可愛らしい、なんて言えばどんな顔をするだろう。
「可愛らしいが角が生えている」
閲覧ありがとうございました
本作では一切名前が出ませんでしたがお名前も決めております:D書生さんは東 義和、お嬢さんは澄です
書生さんとお嬢さんの年の差はご想像にお任せします:)女学生かもしれないし女児かもしれない…
普段はあまり平和な世界線の話を書かないので新鮮でした~