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掌恋愛  作者: 光月獅狼
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灼熱の火山フィールド

 じりじりと差し込む光が、私の体力を奪っていく。まるで自ら状態異常の毒の海に飛び込んでいるみたいだ。火山フィールドとか。ほんの僅かだけでも太陽を隠してくれる雲が神のように思えてくる。

「あじゅぃぃぃぃぃ……」

 三分も外を歩いていればセルフでゾンビ状態だ。なんで外に出たアホか、とは思うけれど、出かける用事があったのだから仕方がない。なんせあれだ。そう、デートだ。この暑さでなぜ、と思う。なぜ私はこのくそ暑い中に出かけねばならん、とも思う。けれども暇? と聞かれて暇って答えてしまったのが運の尽きだ。

「つーか暇? って聞き方はせこいだろう」

 暇と聞かれたら暇ではあるけれど出かける気力と暇かは別なんだよ。暇? って聞いて許されるのは気の置けない友人たちだけだ。とはいえ暇ではあるがお前と出かける気分ではないなんて言えるほどわたしは図太くもなかったわけである。もはやこれは高等な誘導尋問の一種であるといっていいのではないだろうか。

 ああ、朧げに彼の姿が見える。この瞬間が一番帰りたいと思ってしまう。ゲームで逃げられないボスを目の前にした時ほど、どうしようもなくホームに帰りたいと思うことはないだろうか。それだよ。その心理です。私には彼とゲームのボスは同レベルで逃げたいと思う敵である。ゲームのボスのほうが何倍も楽だが。なぜならゲームのボスなら装備をガチガチに固めて強いフレンドを連れてくれば一発KOだからだ。私は支援だけしていればいい。けれど今ここには心強いフレンドなんて一人もおらず、ボスと私の二人だけだ。今はまだボスは私に気づいていない。逃げるなら今のうちである、クエリタを、と頭のどこかで思ってしまう。しかしこれはゲームではなく人と人の約束の上でなりたったものであり、いくら不本意で誘導尋問のごとき所業でなされた約束だとしても、ここまで来たからには帰るわけにはいかず、

「あ」

 気づかれた。BGMは変わる。


 エンカウントして一言目は何だっただろうか。正直焦っていて覚えていない。ただ、なんとなくだがすごくうれしそうな顔であいさつ的な何かを言われたような気がする。思い出せないそれは私の意識を茫洋としたものに変えるには覿面の攻撃だったようで、エンカウントしてから数十分経つ今でも、私はこのふわふわとした状態異常から抜け出せないでいる。

「今日も暑いね」

 ふわふわと柔らかそうな焦げ茶の髪。ちょっと困ったように笑うその顔は、暑さなんて感じているのか疑ってしまうほど涼しげである。白いロングTシャツにスラックスといった装いは、無難ではあるがそれとなく流行に即したものになっている。そこそこ格好いい服を着ていると、平凡な顔立ちも格好よく見えるのだから服装の与える印象はそれほどに大きいのだと再認識する。あとは身長も関係してるのであろうか。背が大きいとそれだけで何割増しでか格好よく見えるそうな。175cmはゆうにある男にもその身長による加護が大いにかかっているのだろう。あれ、なんて言っていたのだっけ。

「ごめん、なんて言った」

 ぼーっとしすぎていて、声をかけられたことには気づいていたが音しか頭の中に入ってこなかった。言葉は綺麗に右耳から左耳へ素通りだ。しかし男はそんな私に気分を害した様子もなく、むしろやに下がっていく

「そんなに俺に見惚れてたの?」

 穴が開いちゃいそう、なんて嘯く男は私の視線が男に集中していたことがよほどうれしいらしい。

「ごめん、エンカウントした敵が強大すぎてぼーっとしてただけなんだわ……」

 見惚れていたわけではなく、ぼーっとした頭の中でなんとはなしに眺めていただけだということを釈明してはみるが、それにしたって結局は男に意識が言っていたことがモロバレである。やはりこの灼熱のフィールドが私から正気を奪っているのだろう。

 男の顔は、より一層やに下がったものに変わっていった。


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