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11 ブラダマンテ、仲間たちと合流する

 騎士ロジェロ、尼僧メリッサ、美姫アンジェリカの3人が地下牢から脱出し……地上にあるアルシナの都に到達した時、周囲の様子は激変していた。

 あれほど目映い輝きに満ちていた都は見る影もなく、古ぼけた植物にびっしりと覆われ、寂れた廃墟のようになってしまっている。


「ここが、アルシナの都……?」ロジェロはポカンとした様子で呟いた。


「恐らくは、ブラダマンテですわ」メリッサが答える。

「アルシナの魔術に対抗するため、指輪を使い……まやかしの力を中和したのでしょう」


「じゃあ、私の指輪はブラダマンテが持ってるのね!?」

 アンジェリカはやや興奮気味に声を弾ませた。

「早く彼女と合流しましょう! 魔女(アルシナ)や、その手先と鉢合わせする前に!」


「慌てないで下さい。まずは足を確保しましょう」メリッサはかぶりを振る。

「お二方の地下牢に赴く前に、(うまや)の位置を調べておきましたわ。

 先にそちらに寄り、馬やロジェロ様の幻獣(ヒポグリフ)を奪還いたしましょう」


「なるほど……確かにその方が良さそうだな」ロジェロは頷いた。


 メリッサの言葉と案内に従い、ロジェロ達は厩を目指して走り出した。

 移動途中、都の元住人と思しき連中とすれ違う。いずれも醜い亜人や怪物の姿――しかし今はアルシナの術が解かれた為か、ロジェロ達を見ても襲ってくるどころか、混乱して右往左往する始末であった。


「今なら余計な足止めも食わずに進めるな。ありがたいこった」

「当然でしょう! なんてったって、私の指輪の力なんだから!」


 ロジェロの感嘆の言葉に、アンジェリカは己の手柄のように胸を張るのだった。


**********


 ブラダマンテ――司藤(しどう)アイは、宝物庫に辿り着いた。

 もっとも幻術が解けた今となっては、みすぼらしい倉庫のようにしか見えないが。


(ここに奪われたロジェロ達の装備品が眠っているはず。取り戻さなくちゃ!)


 廃墟同然になった為か、扉の鍵も老朽化しており、苦も無く侵入に成功する。


「えーっと、ロジェロの剣と、アトラントさんの魔法の楯と……」


 アイが持ち出すべき装備を見繕っていると……突如、下田(しもだ)三郎(さぶろう)の念話が届いた。


『アイ君! 黄金の槍も必ず回収しておくんだ』

「へ? 下田教授……? 黄金の槍? これってそんなに強いの?」


 アイは不思議そうな顔をして、中に転がっている輝く槍を見やる。


『強い。ちなみにその槍、アストルフォという騎士の持ち物だが……とにかく使ってみるといい。きっと役に立つはずだ』

「そ、そう……まあ、あなたがそこまで言うんだったら……」


 釈然としないながらも、アイは助言に従い――黄金の槍。ロジェロの愛剣ベリサルダ。アトラントの円形楯(ラウンドシールド)。これら目ぼしい品々を大きめのズダ袋の中に詰め込んだ。

 後は自分用の両刃剣(ロングソード)を身に帯びる。さすがに鎧など、嵩張(かさば)る装備は運べない。諦めるしかないだろう。


「後は……メリッサを探さなきゃ。

 下田教えて! メリッサは今、どこにいるの?」

『……すでに地下牢を出て、地上に脱出しているようだ。

 (うまや)に向かっていたから、馬の蹄の音が聞こえたら彼女らだと思っていいと思う』


「ありがとう! これでスムーズに合流できるわね!」

『……で、済まないがアイ君。ちょっとこっちは今、色々と立て込んでいてな。

 しばらく連絡が取れそうにない。ゴタゴタが落ち着き次第、またこちらから念話を送るから』


 唐突に不穏な通達をされ、一瞬戸惑ったアイだったが。

 その言葉を最後に、下田からの念話は一方的に途絶えてしまった。


**********


 果たしてブラダマンテが魔女の居城を脱出し、地上に出ると――辺りは朝焼けに包まれていた。

 アルシナの幻覚が支配していた頃は、昼夜も時刻も判然としない、不自然な明るさを保っていた世界であったが……今はすっかり外の世界の色に染まっている。


 やがて蹄の音が聞こえてくる。しかも複数。

 住人のほとんどが混乱して逃げ隠れる中、わざと騒音を立てて目立つような行動を取る者たち。


「……メリッサね!」


 アイは希望に顔を輝かせ、蹄の音のする方角へ向かうと――あっさりと遭遇する。

 翼が生え、鷲の頭を持った馬の幻獣ヒポグリフに乗ったロジェロと、灰色がかった美しい葦毛の駿馬(しゅんめ)に跨ったアンジェリカとメリッサに。

 その並走する姿は、500ヤード(約460メートル)離れていても視認できるほど目立っていた。


「メリッサ! それにロジェロと……あと誰? その綺麗な(ひと)

「アンジェリカよッ! 前に一度、会った事あるでしょう!?」

「え? そうだっけ……? ごめんなさい、覚えがないわ」


 女騎士(ブラダマンテ)としては過去に面識があるのかもしれないが……アイにとっては初対面も同然である為、話が噛み合わない。


「……驚きましたわ、アンジェリカ。貴女、乗馬もお上手ですのね」


 メリッサが感心したように言うと、アンジェリカは得意げに鼻を鳴らした。


「この馬はラビカンと言ってね。元々は私の弟が乗っていた、魔術で造られた生き物なの。

 普通の馬みたいに草を食べない。空気を食糧とするの。だから排泄もしないし、地上のどんな馬よりも速く走れるのよ!」


 なるほど魔法で造られた生物ならば、熟練の魔法使いであるアンジェリカが乗りこなせるのも道理……なのだろう、多分。


(うわー。サラッと言ってるけど、隣のヒポグリフよりよっぽど無茶な設定の馬だわコレ)


 油断していると唐突にトンデモ設定が盛り込まれてしまう。「狂えるオルランド」の世界恐るべしだと、アイは心の中で嘆息した。


「ブラダマンテ、御無事で何よりですわ! ねえ、ロジェロ様?」

「お、おう……そうだな」


 メリッサの弾んだ声に、微妙に目を逸らし頬を掻くロジェロ――黒崎(くろさき)八式(やしき)


「まあ、まるっきり無事って訳じゃあなかったけど……」


 先刻の淫靡な危機を思い出し、微妙に赤面して視線を逸らすブラダマンテ。

 途端にメリッサの顔色が変わった。


「えっ……ブラダマンテ。もしかして魔女アルシナに……(ミンネ)を奪われたとか!?

 なんという……なんという羨まけしからんッ!」


 ミンネ。騎士道精神における貴婦人との恋愛、あるいは恋愛譚の事を指す。

 字面だけ聞くと崇高そうに思えるが、実際のところ肉体的な欲求をオブラートに包んで置き換えているだけの事も多い。


 早合点したメリッサにがっくんがっくん揺さぶられ、アイは慌てて言った。


「ちょっとメリッサ、落ち着いてよ! 大丈夫、心配しないで。一線は何とか守り切ったわ!

 ……っていうかメリッサ。何か今『うらやま』って一瞬聞こえたんだけど?」

「アルシナみたいな魔女に奪われるぐらいなら、いっそ私がッ!」


 とてつもなく聞き捨てならない爆弾発言が、尼僧の口から飛び出したものの。

 アンジェリカから「今は都を脱出するのが先決でしょ」と助け舟が出て、ようやく我に返ったようだ。


 ブラダマンテは宝物庫から奪い返した剣と楯をロジェロに渡し、残る黄金の槍は彼女自身が持つ事にした。

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