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20 二人の決闘の行方

 黒崎(ロジェロ)綺織(レオ)の激闘は続いていた。

 だが黒崎は防戦一方だ。綺織の振るう刺突剣(エストック)は彼の鎖帷子(チェインメイル)を貫き、抉り、裂傷を作り続ける。


(これまでだな。覚悟を決めろ――黒崎(くろさき)八式(やしき)


 綺織(きおり)浩介(こうすけ)は勝利を確信し、さらに一歩踏み込んだ。

 狙いは首筋の、ヘクトルの鎧で覆われていない部位。必殺の間合いからの一撃!


 がぎん、と鈍い音がしてロジェロの首に刺突剣(エストック)が突き立てられた。

 血が噴き出す――が、綺織(きおり)は顔を歪めて舌打ちした。


「へへッ……(いって)ェ……!」


 黒崎は頭部から血を流しつつも、笑みを浮かべてみせた。


「貴様ッ……!?」


 突きは命中したものの、黒崎の咄嗟の機転により致命とは成り得なかった。

 なんと彼は刺突剣(エストック)が繰り出されると同時に敢えて前に踏み込み、兜を使って軌道を僅かに逸らしたのである。

 結果刃は鎖帷子(チェインメイル)胸装甲(チェストプレート)の間に挟み込まれる形となり――深々と刺さるどころか侵入を食い止められた。


「やっとこさ……動きを止めさせてもらったぜ」


 黒崎は雄叫びを上げ、止まった刺突剣(エストック)に拳を叩き込んで叩き折った!


「!」

「知ってるぜ。刺突剣(エストック)ってのは14世紀に発明された武器だ。

 にも関わらずアンタが持ってるって事は――この日の為に造らせた特注品なんだろう」


 刺突剣(エストック)は闘牛士が牛を殺す際に使うサーベルでもある。

 その名の通り「突き刺す」事に特化した武器で、鎖帷子(チェインメイル)を斬るのではなく貫く事で傷を負わせる目的で作られた。

 8世紀に存在しなかったのにも理由がある。この時代の冶金(やきん)技術では、細長い剣はどうしても強度に不安が出る。

 最もポピュラーな両刃剣(ロングソード)ですら強度の問題があるため、刃渡り3フィート(約90センチ)未満のものは製造できなかったのだ。


「相当無理して造らせたんだったら――こんだけ激しく扱えば折れやすくなってるハズだよなァ!」


 黒崎は凄んで、残る力を振り絞って魔剣ベリサルダを綺織(レオ)に向けた。


「確かに……きみの見立て通り。僕が作らせた刺突剣(エストック)は長く保たない弱点がある」


 武器を折られたにも関わらず――綺織(きおり)は恐れるどころかさらに踏み込んできた!


「なッ!?」

「そんな弱点は百も承知さ。だからこそ『予測』し、対策もした」


 綺織(きおり)は接近戦を挑むや、刃渡り1フィート(約30センチ)の短剣を抜き放った。「とどめ」専用の短針剣(スティレット)だ!


「うおおおおッ!?」


 全力で掴みかかられ、黒崎は綺織(きおり)と揉み合いながら地面に転がった。


 最初から接近格闘であれば、実力差は埋めがたく黒崎(ロジェロ)の勝利で終わるだろう。

 だがこの段階になるまでに身体中を傷つけられ流血した分、黒崎の体力消耗は綺織(レオ)より断然激しい。故に二人の力は拮抗していた。


 こうなっては計算も何もない。互いに死力を尽くし、相手をねじ伏せようという執念だけがモノを言う。

 非常に危うい戦いだった。本の悪魔・Furioso(フリオーソ)は二人の戦いをニヤニヤしながら眺めていた。


(殺意を向けられれば殺意で対抗するしかない。たとえその気が無くてもねェ)


 間もなく決着がつくだろう。どちらが勝とうが、命が失われる。

 自分たちが本当に為すべき事にも気づかないまま。


 やがて綺織(きおり)がマウントを取った。

 黒崎も懸命に振りほどこうともがくが、体勢が悪く力が入らない。

 綺織(きおり)は鬼気迫る表情で、短針剣(スティレット)を黒崎目がけて振り下ろそうとし――


 鮮血がほとばしった。


「…………う、くゥッ…………!」


 血を流したのは――二人の間に割って入った女騎士(ブラダマンテ)こと司藤(しどう)アイだった。

 馬を走らせて間一髪、彼らの決闘の場に辿り着き。無我夢中で伸ばした右腕に――綺織(きおり)の短剣は突き刺さっていた。


「なッ…………司藤(しどう)さん、何故…………!」


 格闘戦に熱中する余り、黒崎も綺織(きおり)も周りが見えておらず、アイの接近に気づけなかった。

 アイは息せき切って汗をかき、激痛を堪えつつ――刺さった短剣を抜き、地面に放り捨てた。


 泣きそうな表情になっていた彼女の雰囲気が一変する。

 決闘に夢中で高揚していた精神が、さざ波の如く引いていくのを二人は感じた。アイの次に取るであろう行動を予測できたからだった。


「このッ…………馬鹿ァ!!」


 湧き上がる感情を抑えきれず、力いっぱい叫ぶと――アイは呆然とする黒崎と綺織(きおり)の頭に拳骨を叩き込んだ。

 今の彼女の心を最も大きく占めているのは、憤りだった。

 死闘に割って入るまでは、その殺意の強さに恐怖すら感じたが――勇気を振り絞った今ならば、心のままに口が動く。


「どういうつもりよ先輩! なんで黒崎を殺そうとしてたの!?」

「……えと、それは……きみを、手に入れたかったからで……」


 怒鳴りつけられ、綺織(きおり)はたちまち意気消沈して言葉の歯切れが悪くなる。


「わたしや『ブラダマンテ』の感情はまったく無視?

 そんな強引な方法、やり遂げたとしても絶対うまく行かないわよ!

 ブラダマンテはロジェロが死んだら、悲嘆にくれて後を追うぐらいの事やっちゃうものッ!」


 アイは大きく息を吐き――言いたい事を言い終えるとガクリと膝をついた。

 彼女の言葉を聞き、綺織(きおり)もようやく我に返ったようだ。


(そうだ……何故こんな単純な事に、今まで気づかなかったんだろう?

 司藤(しどう)さんの意向を無視してでも、彼女を手に入れたいと駆り立てられてしまっていた。

 それがどれだけ、彼女を苦しめ、傷つけてしまっていたのか――)


 綺織(きおり)はすっくと立ち上がり、憑き物の取れたような顔になって、へたり込むアイにそっと手を差し伸べた。

 そんな綺織(きおり)の様子を見て――Furioso(フリオーソ)は人知れず舌打ちした。


「ごめん、司藤(しどう)さん……許して欲しい。本当に――自分はどうかしてたみたいだ」

「……分かってくれたなら、わたしはいいわ。謝りたいなら黒崎に言ってよね」


 アイは綺織(きおり)がいつもの優しい先輩の顔を取り戻したのに満足したのか、彼の脇をすり抜け……未だ倒れたままの黒崎へと駆け寄った。

 南フランスのアヴィニヨンで別れてから1か月近くが経つ。体感ではそれ以上、離れ離れになっていた気すらする。


「大丈夫、黒崎……? しっかり、しなさいよ」

「戦って疲れたのもあるけど……それ以上にお前の拳骨が効いたんだが」


 笑みを浮かべて減らず口を叩く黒崎に、アイは頬を膨らませつつも安堵したようだった。

 そんな二人を見て綺織(きおり)は、諦観(ていかん)めいた乾いた嘆息を漏らした。

* 登場人物 *


司藤(しどう)アイ/ブラダマンテ

 演劇部所属の女子高生。16歳。

/才色兼備のチート女騎士。クレルモン公エイモンの娘。


黒崎(くろさき)八式(やしき)/ロジェロ

 司藤アイの同級生にして悪友。腐れ縁で、アイとは犬猿の仲。

/ムーア人(スペインのイスラム教徒)の騎士。ブラダマンテの未来の夫となる。


綺織(きおり)浩介(こうすけ)/レオ

 環境大学の二回生。司藤アイが淡い恋心を抱く憧れの先輩。

/東ローマ帝国の皇太子。後にブラダマンテに結婚を迫る。


Furioso(フリオーソ)

 魔本「狂えるオルランド」に宿る悪魔的な意思。この事件の黒幕。

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