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2 ブラダマンテ達、ランペドゥーサ島へ

 唐突に出てきた島の名前に、アイも黒崎も困惑した。


「ラン……何とか島? どこそれ」

「ランペドゥーサ島、な。まあ、オレも詳しい事はよく知らんけど」


 手紙によればアグラマン大王は今、南フランスを離れ地中海はシチリア島の南にあるランペドゥーサなる島にいるらしい。

 といっても、司藤(しどう)アイにとって全く馴染みの無い地名であった。


「……そうだ。こういう時は下田教授に聞けばいいわね」


 アイは早速、下田(しもだ)三郎(さぶろう)に念話を送る事を思いつく。

 原理は不明だが、アイは魔本「狂えるオルランド」の世界に転移した当初から、現実世界にいる下田教授と脳内で会話する事ができる。つまり現代の知識や物語の設定などの情報を、彼を通じて教わる事ができるのだ。


ииииииииии


「下田教授! 聞こえる?

 また教えて欲しいんだけど。ランペドゥーサ島ってどんな所?」


 アイの念話による呼びかけに、やや時間が経ってから――下田教授の野太い声が返って来た。


『ランペドゥーサ島……か。現代ではリゾート地で有名だな。

 海がとても綺麗でなぁ。船が宙に浮かんで見えるほど海水が澄んでいるんだ。

 まあ、位置的にはイタリアというよりアフリカ・チュニジアに近いんだがな』


 実際ランペドゥーサ島は、アグラマン大王の本拠地ビゼルタ(註:チュニス北西の港町ビゼルト)から50キロと離れていない場所にある。


「へえ、それは楽しみね……じゃなくって!

 確かに観光で行ってみたい気もするけど、なんでアグラマン大王がそんな小さな島で黒崎(ロジェロ)を待ってるのかって話よ」

『きっとバカンスを楽しんでいるんだろう』


「ちょっと! ふざけないでよ!」

『……冗談だ。ランペドゥーサは物語では重要な場所でな。

 フランク・サラセンの戦争終結に向けて、3対3の戦いを繰り広げたんだ。

 その時の決戦メンバーはフランク側がオルランド・オリヴィエ・フロリマール。サラセン側はアグラマン・グラダッソ・ソブリノ』


「そうなんだ……でも今の状況じゃ戦争なんて終わってるし、決闘なんてできないわよ?

 フランク側の三人はみんな重傷を負って療養中だし、サラセン側のグラダッソはもう死んでるし」

『そうだな……すでにアイ君たちの世界は、原典から全くかけ離れたオリジナルの展開になってしまった。

 故にアグラマンが何の為に、しかもロジェロ君をランペドゥーサに呼びつけようとしているのか、私にも分からん。

 ひょっとしたら額面通り、本当に単に軍属を解くための手続きがしたいだけなのかも知れん』


 すでに原典と異なる展開になっている以上、物語の先を教わる事はできない。

 今までも話がそのまま進んだ訳ではなかったが、今回は特に先が読めない。アグラマンの真意は――直接会って確かめなければ判らないだろう。


『ところでアイ君。手紙で呼び出されたのはロジェロ君だけか?』

「え、えーっと――」


 手紙を確認してみると、呼び出されたのはロジェロだけではなかった。

 彼の妹マルフィサと、女騎士ブラダマンテ――つまり、司藤(しどう)アイもである。


ииииииииии


 数日後。ブラダマンテとロジェロ、そしてインドの王女マルフィサの三人は――ピナベルの乗ってきたガレー船を借り受け、地中海はシチリア島の南にある、ランペドゥーサを目指した。

 折しも空は晴れ渡り、海はコバルトブルーに輝いている。


「ホントに綺麗な海ね!」ブラダマンテは歓声を上げた。


 船影が遥か底に映るため、本当に船が宙を浮いて動いているように見えるのだ。


「できればゆっくり観光で来たかったな」ロジェロ――黒崎(くろさき)八式(やしき)も呟いた。


「観光のようなものだろう、ロジェロ兄さん!」

 口を挟んできたのはロジェロの妹・マルフィサである。

「確かに心地よい風に美しい眺めだ! 戦争が終わってしまった後なのが口惜しいぐらいに」


 脳筋ぶりが伺える発言に、黒崎は幾分引きはしたが。

 穏やかな地中海を渡る。特に難破などのトラブルもなく、ブラダマンテ達の船はランペドゥーサに到着した。


「ついて来ちゃって今更な話なんだけど。なんでわたしまで名前が書いてあったのかしら」

 アイは不思議そうに首を傾げた。

「サラセン軍属の解任話なら、わざわざ呼びつける必要はない筈だし……?」


「案外、結婚祝いの挨拶がしたい、とかだったりしてな」

 冗談めかして笑う黒崎だったが、アグラマンはロジェロがブラダマンテに懸想(けそう)しているのを知っていた。意外とあり得る話かもしれない。


 現地の島民に道を尋ね、三人はアグラマン大王の待つ場所へと向かった。

 古びて形はやや崩れているが、ローマの闘技場(コロッセオ)をそのまま縮小コピーしたような広場の遺跡だった。


 そして見つかる、遺跡にたむろするサラセン人たち。彼らも三人であった。


「あ~らロジェロ! お久しぶりね!

 ここランペドゥーサ島は、のんびりくつろぐにはイイ所だけれど……いい加減、待ちくたびれちゃったわよォ」


 陽気な声を上げ、手を振っているのは――清潔なターバンを巻いた目つきの鋭いサラセン人青年、アフリカ大王アグラマン。

 その脇を固めるのは初老の将軍と、筋骨たくましい髭面のサラセン騎士――アグラマンの側近・ガルボの老王ソブリノと、スペイン最強の騎士フェローである。

* 登場人物 *


下田しもだ三郎さぶろう

 環境大学の教授。30代半ば。アイの異世界転移を引き起こした張本人。


アグラマン

 アフリカ大王。サラセン帝国の軍事的指導者。


ソブリノ

 サラセン人。ガルボの老王。アグラマンの腹心。

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