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真・桃太郎物語  作者: にゃー
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#06

### 06



「うううう……」

 青紫色の顔をしながら犬は、吐き気を抑えつつ小早舟から身を乗り出している。

「なんだなんだぁ?新米の水夫みてぇに戻しやがって、幕府の御家人が聞いて呆れらぁ」

「や、かましい……。陸の上ならこんな醜態は……うっ!!」

 猿の挑発にすらまともに答えることができないほどに弱る犬。来たる鬼退治を前にして桃太郎は早くも不安が募る。こんなんで無事に鬼退治できるのだろうか。


 小早の最大速度で数時間、いい加減犬以外の人員も船の上が飽きてきた頃だ。

「あっ」

 来たる決戦の地を最初に見つけたのは雉である。

「あった、ありました!あれが鬼の根城じゃないですかね!」

 雉が指さした先には複数の小島が点在しているように見えた。

「なるほど、あの島々の奥の隠れ島になってる……ってわけか」

 瀬戸内海にはこのような海域が数多く存在している。このような島は手がかりもなしにひと目で見つけることはまず不可能である。鬼たちがこれまで取り締まられなかったのにも納得がいく。鶴婆には感謝せねばなるまい。

「くっそう、小島と渦潮が入り組んでて難しい海域だな!ちょっと揺れるぞ!」

 瀬戸内海を知り尽くしているはずの海賊衆ですら苦戦するほど潮の流れが早く、ともすれば座礁しそうになるこの海域はほかの海域とはあきらかに違っていた。そして犬はもはや死んだように横になっていた。

 と、そこでまるで雷のような声が後方から聞こえて来て一同まるで感電したかのように背筋に電流が走った。振り返ると、三隻ほどの小早舟がこちらに向かって来ている。間違いなく鬼の船だ。おそらくこの海域に侵入してきたことを察知してやってきたに違いない。

「やっぱりか……」

「やっぱりって、何が?」

「きっとあのさっきから見えてた小島は、ただの柵じゃなく、見張りの島だったんだ。あの小早舟もどっかに隠してたんだろうぜ。それも知らずにこの海域に入っちまった俺らはまさしく袋の鼠……。ほら、見ろよ前方を」

 猿が、前方を指さすと、ずいぶん早く情報が伝達しているもので、やはり五隻ほどの小早舟がこちらに向かってきている。

「ほらな、挟み撃ちってわけだ。さっそくしてやられたな」

 敵船も慣れたもので、左右に船を展開させてこちらを囲むように迫ってきて、顔が認識できそうな距離まで迫ってきていた。

「こんなところで……」

 桃太郎は腰に差している太刀を握り締める。確かに今は危機的な状況だが、ここで諦めるわけにはいかないのだ。

「こんなところで負けるわけに行くかぁ!!全速前進!!」

「さっすが桃さん!かっこいいです!」

「そうこねぇとな!」

 倒れている犬以外の三人が吠えて、船は再び渦の中を進み始める。

「奴ら!突っ込んで来るぞ!」

「殺せぇ!この場所を知られたからには生きて帰すな!」

 当然鬼たちの船はさらに包囲を強めて桃太郎たちの船の動きを止めようとするが、猿の操船技術は並ではなかった。

「邪魔だぞお前らぁ!!この佐瑠海様に海上で戦闘を挑むなんざ……」

 猿は先程まで船を操っていた巨大な櫂を軽々持ち上げると、前方にいた二隻の船に乗っていた鬼の四、五人めがけて振り回した。

「百万年早いわぁ!!」

 次の瞬間、鬼たちはその巨大な櫂をまともに食らって海に落ちていき、漕ぎ手のいなくなった小早はあっという間に渦潮に巻き込まれた。

 ていうか軽くこちらの小早舟も少し渦に巻き込まれそうになり、「おっとあぶねぇ」と猿が櫂を海に入れる。なんとか活路を見出したが、まだ左右から鬼の船が先へは行かせまいと迫ってきている。

「雉!お前は左の一隻を!俺は右の二隻をやる!」

「了解です!任せなすって~!」

 そういって雉は左の一隻に、桃太郎は右の船に飛び乗る。乗っていたのは背が高く、頭からは牛のような白い角を生やしたいかつい男たちだった。こいつらがまさしく鬼に違いない。


「さぁ……、鬼退治を始めようか」

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