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真・桃太郎物語  作者: にゃー
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#02

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「ババ様。今帰りました」


 桃から男の子が生まれて十五年後のことだった。

 桃から生まれたその子はおじいさんの提案により育てられることになった。名前は桃から生まれた二人には初めての男の子ということで「桃太郎」と名づけられ、桃太郎はすくすく育っていく。

 なんとも不思議だったのが、生まれた時はまるで赤ん坊だったというのに、同じ年に生まれた子供と比べて成長があまりに早かったことだ。背の高さでは、同世代の子供どころか、大人にも負けないほどに大きく育っている。

 そんな桃太郎は、四歳の頃、島の中心部で道場を営んでいる新右衛門という師範の元で剣術を教わっていた。桃太郎はそれも覚えがよく、現在は師範代を務めるまでになっている。ちなみに新右衛門のもとで十代で師範代になったものはこれまでいなかったという。

「おかえり桃。疲れたことでしょう」

「えぇ、今日も師範の自慢話が長くって相手が大変で……」

 新右衛門は小さい道場の師範だが、これがなかなか強い。本人は、京で吉岡憲法との決闘に勝利したなどとうそぶいているが、本当にそんなことがあったのかは誰も知らない、だが一度勝負すればそのホラもあながち嘘ではないのかもしれぬというほどの腕前なので結局誰も否定もしない。結果、その噂は広まりもせず否定もされず、半端な伝説となっている。

「それよりも聞きましたか桃太郎、またしても沿岸の漁師町が鬼に襲われたと……」

「……はい、聞くに耐えぬ話です。男は殺され、女子供は連れて行かれたとか」

「生き残った者も、鬼たちの乱取り(略奪行為のこと)のせいで明日食べるものがないと聞きます」

 あまりにむごい話である。空気が重くなったことを察しておばあさんが手を叩く。

「帰ってきて早々暗い話をしてしまいました。とりあえずその話は後にするとして、お腹がすいたことでしょう?夕餉の支度をいたしますから桃は風呂でも沸かしてもらえますか?」

 そう言っておばあさんが奥に下がろうとした時だ、桃太郎が「ババ様!お待ちを!」とおばあさんの行く手を遮るかのようにして深々と頭を下げた。

「ババ様には長い間大変良くしていただきました。それは重々承知しています、ですが……!」

「鬼を退治しに、行きたいのですね?」

「!」

 言いたいことを一瞬で言い当てられて桃太郎は面食らって顔を上げた。

「伊達にお前を育ててはいません。誰よりも義に厚いお前のこと、いつかは無法を行い続ける鬼を退治しに行くと思っていました」

「ババ様……」

「お前は優しい子に育ってくれました。お前は私とおじいさんの宝です、これ以上望むことはありません」

「親不孝をお許し下さい……!」

 自分の志に気づいていながらそれを止めようとしなかったおばあさんに、桃太郎はかける言葉もわからず男泣きに涙を流していた。

「だけど桃太郎?最後にひとつだけ親らしいことをさせてくださいね」

 そう言っておばあさんが渡してきたのは、竹の皮で包んだいくつかの団子餅であった。

「……これは一体?」

「食べれば力百倍のきび団子です。自分で食べるのもよし、他の人に与えるもよし、お前のいいように使いなさい」

「重ね重ね、かたじけない!」


 かくして、桃太郎による鬼退治の旅が始まった。

 だが、これを近くの草やぶから見ている二つの影があった。

「ふふっ、思ったとおり、桃太郎は鬼退治に出かけたようね……。だけど大丈夫なの?彼が鬼退治に成功するという保証なんて……」

「いや、やつは必ず成功する」

 もうひとつの影がいう。

「なにせやつは、わしの息子なのじゃからな……」

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