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真・桃太郎物語  作者: にゃー
14/14

完結編

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 随分長い眠りについていた気がする。

 桃太郎が気が付くと船の上であった、がそれは猿の小早舟ではない。少し大きめの船だ。

「おう、気がついたか?」

 なんとか意識を取り戻したところで目の前にヒゲモジャの男が顔を覗き込んでくる。

「桃さん!気がつきました!?」

 ヒゲモジャの男を押しのけて目の前に少しあどけない雉の顔がにゅっと出てきて、胸元に圧迫感を感じる。

(そうだ、たしかさっき俺は鬼退治に成功したのだ。だが、やはり無理をしすぎたのか急に気を失って……)

「もう!心配したんですからね桃さん!」

 っていうか、雉は本当に桃太郎のことを心配していてくれたようで力いっぱいに抱きしめてくる。どうでもいいがまだ傷跡が痛い。

「はいはい、そんだけいちゃつきゃ気がすんだろう?」

 雉の後ろから猿が間に入ってきてくれたおかげで桃太郎は激痛から解放される。

「桃太郎、紹介するよ。俺たち真島水軍頭領で俺の父親の虎だ」

 そう言って猿は先ほど桃太郎の顔を覗き込んでいたヒゲモジャの男の紹介をする。というか、猿の父親だったのか、華奢な猿と筋肉質な虎では体格は違うが、健康そうな顔色などは似ているようにも見える。

「いやぁ、桃太郎とやら。今回の一件ではわが娘がお世話になったようで。この虎、お礼を申し上げまするぞ」

 海賊にしては意外にも丁寧な応対に逆に桃太郎の方が面食らってしまった。

「やめてください、今回佐瑠海殿に、船のことを始め大変お世話になったのはこちらの方で……」

 とお礼を言ってようやく虎に顔を上げてもらう。

「しっかしこの世に本当に鬼というものがいて、しかも海賊行為を働いていたたぁなぁ」

 そう言って虎は今度は犬の方に向き直る。

「あの鬼とつるんでたっていうじじいは幕府が連れて行くのかい?」

 意外と真面目なその頭領の言うとおり、幕府所司代である犬は本来そのために来たのだ。だが、犬は少し悩んでいた。

「あ、あぁ。そうするつもりだったのだが……」

 犬が考え込んでいるのは桃太郎についてだった。

 じいさんが取り調べられれば当然その子供である桃太郎も幕府に召集される。取り調べが始まれば桃太郎とおじいさん、そして茨木童子の関係もすべて詳らかになる。

 それによって桃太郎までが鬼の汚名をかぶせられるという最悪の事態を犬は考えているのだ。

 とにかく考え込む犬に、助け舟を出したのは意外にも猿である。

「なぁ、こういうのはどうだ?あんたは無事鬼をこの島から追い出し、親分を捕えることに成功した。だが、鬼を連れ戻る途中、たまたま鬼退治を狙う俺ら海賊衆に鉢合わせして、海賊に鬼を奪われた……」

「だ、だがそれでは……!」

「いいっていいって、俺たちゃ海賊だぜ?悪者にされんのは慣れてる」

 そういって佐瑠海は犬の肩を殴ってニーっと笑う。

「……ったく、お主に借りを作るとは。それがしもまだまだ未熟、か」

「返す時がくれば、の話だがな」

 顔を見合わせて笑う。犬と猿。犬猿の仲、というほど仲の悪い二人だったが、実はただの似たもの嫌いなだけだったのか、と桃太郎は考えてしまった。




 こうして瀬戸内の海には一度の平穏な時期が訪れた。瀬戸内は船が行き交い、海賊衆もひと時の繁栄を謳歌する。だが、それも長くは続かなかった一四六七年、応仁の乱が勃発。日の本を二つに二分する戦いを機に、世は再び乱世へと逆戻りし、その混乱は海上へも影響を与え、多くの海賊衆は大名に属すことによって生き残り、足利幕府は滅亡する。


 そのような中人々は思い出したという。


 歴史に残りはしなかったものの


 自分よりも強大な敵に立ち向かい


 海の平和を取り戻してくれたその英雄の名を……。




                                 新・桃太郎物語   完




















「別に雉まで付いてくることはないんだぞ?」

 傷だらけの体を引きずりながら桃太郎は婆さんの待つ家に戻っていた。

「いいじゃないですか!お婆さんにもちゃんと挨拶をしておかないと……」

「なんでそこまで俺に付きまとうんだよ……」

 犬と猿がそれぞれ海賊衆と幕府に戻って言ったあとになっても付いてくる雉に少し呆れる桃太郎であったが、雉はこの質問に少し間を置いてから真剣な表情になった。

「そりゃ、桃太郎さんは私の命を救ってくれた恩人で鬼だって倒す強い人でなにより……」

 雉は少し息を吸って吐いて、そしてまた吸うと、少し語気を強めた。

「桃さんのこと大ッ好きですから。私」

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