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転生査問委員会の日常  作者: タイロン
4/4

転生、四つほどいかがですか?

友人の太鼓判を受けてひさしぶりに投稿。今回は閻魔係長がイケメンです。

 「さて、今日も頑張るぞー!」


 「今日は、の間違いではないんです?」


 始業時間になり、ペルセポネが清々しそうに伸びをすると、いつになく棘のあることを言うイザナミ後輩。


 「ぐふっ。な、なんでそんなこと言うのよ!?まさかまだ昨日のことで怒ってるの?」


 「そりゃそうですよ!なんですか、二日酔い寝過ごし無断欠勤って!昨日先輩が相手しなきゃいけなかったお客さん全部私がやったんですからね!」


 「そ、それは超絶すみませんでした・・・。で、でもその分私今日は全力で頑張るからね!ね!?だから、ね?」

 

 「しつこいです」


 イザナミがなににプンスカしているのかと言うと、ペルセポネが昨日を日曜日と勘違いしてどっかにフラフラと観光に行きやがって仕事をすっぽかし、そのとばっちりを受けたからだ。そりゃ怒る。

 しかしながら、ここで一応言っておくとペルセポネが仕事に来るよりイザナミが2人分の仕事をした方が転生査問委員会(株)の収益は大幅アップしたりする。


 「はぁ、ったく、なんで私がこんな目に・・・。いや、私が悪いんでしょうけども」


 とりあえず今日予約が入っているお客様をリストで確認。・・・と、ペルセポネの肩を誰かが叩いた。


 「ん?」


 「んっ」


 低い、というか凄く低い声がそれだけ言ってリストのある一点を指差した。


 「ん・・・、んん!?んんん!」


 「ん!」


 「イヤイヤイヤイヤ!ちょ、待ってくださいよ閻魔係長!これ完全ヤバイ人じゃないですか!」


 「ああん?なんか文句があるのか言っても良いんだぞああん?」


 「ぃぇ」


 首が一回転しているように見えるほど全力で横に首を振ったペルセポネだったが、イザナミの10倍はプンスカしている上司には逆らえない。今日のペルセポネの仕事は、とんでもないお客様のお相手となったのだった。


 「くそぅ、これでしくったら私遂にクビとかマジであるんじゃないの・・・?というか首が物理的に飛ばされるんじゃ・・・」


 神様の首を取ろうなんて思ってもそうそう出来ることではないのだが、さすがに今回のお客様はタチが悪い。その客が来る時刻は午後の3時、おやつの時間だ。


          ●


 「・・・よしっ」


 時計を確認。2時50分。多分。だって誰も怪訝な目でペルセポネのことを見たりしていないし、時間は間違っていないはずだ。

 おやつは早めに済ませ、接客業なので歯磨きもしっかりと済ませた。あとは手帳とカタログを持って、いざ面接室に入室。


 白い壁、白い床、白い天井。どこまでも真っ白な立方体の部屋。遠近感もなく、ただただ眩しいこの世界を、訪れる人たちは「神々しい」と表現する。・・・インクをこぼしたら普通に汚れるただの真っ白な部屋なのに。

 

 「い~や、神々しいの~は私みた~いな美人女神がせっとだから~」


 さすが防音。ちょっと調子に乗った歌を歌っても外には漏れない。椅子に座ってこれから来るであろう「ヤバイ客」から意図的に気を逸らすためにペルセポネは鼻唄を奏でる。

  

 ―――――と、部屋の中央にぼんやりと光が集まってきた。


 「っ!き、来たわね・・・。いいわ、もうなんとでもなれば良いわ!どっからでもかかってきなさい!」


 光が集まってきた、と言ったが、もう違う。だんだん真っ黒な闇が収束し始めた。

 闇の塊はさらにずんずんと大きく大きく・・・。


 「・・・・・・」


 さらに大きく―――――なろうとして天井につっかえた。


 「・・・・・・どうしよ、この部屋うちで一番デカいのに」


 かといってもうお客様がいらっしゃっているので背中を見せるわけにもいかず、ペルセポネは唸る。この際仕方ないので、失礼ながら魔法を使わせていただくこととしよう、とペルセポネは溜息をついた。


 「小っちゃくなれ、ちんからほい!」


 ペルセポネの指先からビビビ、とビームみたいなものが発射され、それが闇の塊に当たるとそれはちょっとずつサイズが縮み始めた。

 ちなみに小さく出来る魔法が使えるなら一寸法師を相手にしたときに大きくする魔法を使えば良かったじゃないかと思うかもしれないが、誰が彼女に大きくする魔法が使えるなどと言った?


 グングンと縮みながらもさらに収束していく闇が肥大化し続け、30秒ほど拡大縮小が拮抗した末に闇は大きな体の人物の形を成してギリギリ部屋の大きさに収まった。


 皮膚は炭のように真っ黒で、筋骨隆々。身長は縮小してなお10mくらいだ。胡座をかいた格好で、座高だけで頭が天井に届いているから、単純計算でそのくらいになる。一応手も足も2本ずつだが、体の大きさもあって1本1本が神社にご神木として植えたいくらい太い。頭は体の大きさに対して意外と小さく、なぜか顔には雰囲気がヤバそうになる陰影が差していて、目が赤く光っている。あと、吐く息が白いのは部屋が寒いからではなく湯気だ。

 遂に顕現した「ヤバイ客」の背景には『ゴゴゴゴゴゴ・・・』と効果音が見える。


 「(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ、超恐い、マジ恐いです課長!これは本当にヤバイ人ですよ!)」


 黒い大男が目を覚ます前に、手帳に表示された顧客情報に目を通す。


 名前『サターン』。


 これはリストで確認したから知っている。


 職業『魔王』。


 名前からして察してた。


 趣味『拷問』。


 やめてください。


 特技『ザラキーマ』。


 ドラ○エですか?というかそれは特技というか呪文・・・。


 享年『5歳』。


 「ふぁっ!?若っ、魔王若っ!」


 目の前の大男と手帳の数字を見比べる。身長10m筋骨隆々、そして5歳。

 いや、いろんな世界からいろんな人がやってくるのだ。どんな人がいたって不思議ではあるまい。


 死因『浮浪者を加熱処理せずに食べ、食中毒によって死亡』


 「・・・・・・」


 彼の世界では魔王の食事とはそんなに貧相だったのだろうか。それともそんなに腹ぺこだったのだろうか。


 『ぐ・・・』


 部屋ごと震わすような重低音が響いた。どうやらサターンが目を覚ましたらしい。営業スマイルを作り、ペルセポネはとにかく平常心を心がける。深呼吸をしつこいくらいして、ペルセポネは優しく物憂げな声を作った。


 「目をお覚ましになりましたか」


 『・・・む、ここはどこだ。城・・・ではないようだな。声・・・あぁ、そこに。そこの小さき者よ、ここはどこか答えよ』


 こんなしゃべり方だが、5歳だ。首を動かして下を向くサターンだが、それだけでなぜか地震のような重低音が鳴り響く。


 「(さ、さすが魔王クオリティ、恐いッス。でも、私頑張るわ!)ここは、そうですね、敢えて言うのであればあの世、でしょうか」


 『あの世・・・なにを言っておるのだ。我はまだこうして肉体を持って生きておろう』


 「いえ、あなたはもう死んでいるのです」


 『たわけが!!生きていると我が言っておろう!!』


 「ひいぃぃぃ!!?す、すみません生きてます生きてましたじゃなくて現在進行形で生きてます!すみません!」


 頑張る宣言からわずか10秒でペルセポネの心は折れた。まるで核爆弾でも爆発したかのような音圧がペルセポネを叩き、彼女は椅子ごと後ろにひっくり返りながら喚いた。


 『さぁ、我は生きている。ではここはどこだ!』


 「はいっ、転生査問委員会でございます!」

 

 『なんだそれは』


 「恐れながら、全てはお客様の来世、つまり転生する先を選ぶお手伝いをさせていただく会社にございます、はい!」


 『だから我は死んでいないと言っておろうが!』


 「そうでしたね!でもやっぱりサターンさんは死んでます!食中毒で死んでますから!小汚いオッサンを生で食べて食あたりしてますから!」


 『・・・む?小汚いオッサン・・・、あ!』


 食中毒で死んだという情報をこのタイミングで暴露したところ、サターンが急になにかを思いだしたらしく、頭を押さえて唸り始め、そして小さく叫んだ。ただし、小さく、とは言ってもトンネル工事で使うダイナマイトの爆破音くらいの大きさはあるので、ペルセポネはせっかく立て直した椅子と共にまたひっくり返った。


 『思い、出したぞ・・・!そうだ、我はあのときデュラハンが献上した発酵した人間を刺身にして食ったのだ』


 それはただカビていただけです、はい。


 『その後急に腹が痛くなったのだ。そして風邪でも引いたのかと思い早めに床についたのだが・・・まさかそのまま・・・?』


 「まさにその通りでございます」


 魔王直々の証言と手帳に記されたサターンの人生を照らし合わせ、ペルセポネはうんうんと頷いた。


 『そ、そんな、そんな馬鹿なことがあって良いものか!!』


 「そうですよねー。魔王が食中毒で死亡って、いやいや、ないでしょう。勇者涙目ですよそれ」


 『うるさい!小物が我を愚弄するか!叩き潰してやろうか!』


 「すみませんでしゃばってましたすみません」


 一応この部屋ではお客様は魔法が使えないようにはなっているのだが、さすがに暴力はどうにもならない。あの巨大な掌で叩き潰されたら冗談抜きでぺしゃんこにされそうなので、ペルセポネはサターンにコテへりくだって延命措置をとらざるを得ない。


 「(くうぅ、私は女神なのよ!なによもう!)そ、それでは、そのー、お亡くなりになられたことにもご理解いただけたようですので、ここで転生先を・・・」


 『ふざけるな!どこかの世界に飛ばす力があるというのなら、我を元の世界に帰せ!デュラハンを我自ら裁かねば気が収まらん!』


 「い、いえ、申し訳ありません。元の世界に還すことはできないんです・・・」


 『はぁ!?ぬかせ、死にたいのか!』


 「死にたくないです!でも無理なものは無理です!」


 『~~~~っ!ええい、「ザラキーマ」!』


 ピロリロリ♪、というドラ○エを彷彿とさせる効果音と共に、サターンが振りかざした手から黒い魔力が放たれる。

 だが、それがペルセポネに届く前に呪文は霧散してしまった。


 『な、なんだと!?き、貴様まさか「マホステ」を・・・!?』


 「いえ、この部屋ではお客様の魔法類は全て使用不可能となっておりますので・・・」


 『ふざけおって!!』


 「ひいい!?」


 サターンの怒りの拳が飛んできて、ペルセポネは慌ててしゃがんで回避。


 「・・・あ」


 とんでもない衝撃波と共に、ペルセポネの後ろの壁が吹き飛んだ。

 突然目の前で面接室の壁が吹き飛んだことに驚いて腰を抜かしている社員たちが、崩れた壁の向こうに見える明らかにヤバイ客を見て悲鳴を上げて走って逃げて行ってしまった。

 しかし、すぐに何事かと人々ならぬ神々がペルセポネの面接室前に集まってきた。


 「せ、先輩、これは!?」


 「あああああ、イザナミぃ!これはどうしようもなかったのよぉ!」


 「・・・ええと、はい、これは、そうですね、はい」


 サターンの姿を確認して、イザナミもペルセポネに非がないことを認めてくれた。


 「あの、お客様、これは一体・・・」


 『我はこの者に元の世界に帰せと言っておるのに、それは出来ぬと言いおったのだ。しかも、我の呪文を打ち消すなどという愚行を!』


 「ええっと、それは本当に不可能なんです・・・。ですので、新しく転生してみたいと思える世界をお客様が選べるよう私どもも精一杯のご協力をいたしますので・・・。魔法無効化も設備でして、そのー」


 『ええい、ドイツもコイツも我を愚弄するか!!』


 「「きゃあああ!?」」


 再び拳を振り上げるサターン。またこの拳を躱せば、次はこのビルそのものが倒壊しかねない。しかし、ペルセポネやイザナミにこのパンチを受け止めるような力があるわけでもない。神様だってそこまで万能ではないし、女神は女、つまりか弱い女の子である。

 死人を応対していたはずが、いつの間にか自分たちまで死人になりそうな絶体絶命の状況。


 「せ、先輩、私本当は先輩のその竹を割ったような性格、すてきだと思ってました!来世でもまた会えると良いですね!」


 「私もイザナミに出会えて本当の幸せだったわ!面倒ばっかりかけてごめんなさいね!」


 『遺言は済んだか!』


 「先輩っ!」


 「イザナミ!」


 抱き合ってキュッと目を瞑る2人に、その拳は容赦なく―――――。


 と、そこに。


 「うおあああ!?なんだこれは・・・!」


 「「閻魔係長!?・・・あ」」


 閻魔が駆けつけてきて、彼は気付かないままに彼女たちとサターンとの間に入ってきた。


 「あってなんだ!これは一体なに、あべしっ!?」


 「「か、係長ーーー!!」」


 冗談みたいな音と共にサターンの拳が閻魔の横顔に直撃した。いかに大柄な閻魔でも、さらにその3倍はある巨躯のパンチをもろに食らっては・・・。と、思ったのだが。


 「ぐふぅ、あ、奥歯抜けた!誰だ今のパンチは!」


 『え』


 一番面食らっていたのはサターンだった。


 『き、貴様なぜ我の拳を受けてなお立っていられるのだ!?』


 「あぁ、お客さんでしたか。これはこれは」


 こめかみをひくつかせながら、閻魔は脅威の精神力で接客モードに移行した。ペルセポネとイザナミは命拾いした安堵からへたり込む。


 「か、係長って何者なんですか・・・?」


 「でも係長って確かになんか最強って感じしてたわよね。ほら怒るときとか」


 「怒られたことないので分からないです」


 「優等生め!」


 ここで一応解説しておくと、閻魔は閻魔なので強いのだ。以上。


 「ささ、お客様、一度お部屋にお戻りになってくださいねー」


 『お、押すんじゃない!この無礼者が!』


 「はい、失礼いたしております」


 ずんずんとサターンを壊れた面接室に押し戻して、閻魔は後ろを振り返った。


 「とりあえずみんなは他の会社さんに騒音のお詫びに行ってきてくれ。片付けはその後でいいぞ。ペルセポネも、まぁよく頑張ったな。これは仕方ない。しくったらそのままクビにとでも思ってたが、今回は見逃してやる」


 「あ、は、ハイ!・・・って、えぇ!?本当にクビになるところだったんですか!?」


 「先輩、今はもういいですから!早く謝りに行きましょう!」


 引きずられてオフィスを出たペルセポネは、その数分後にサターンの悲痛な叫び声を聴いた。


           ●


 「で、係長。サターンさんってあのあとどうしたんです?」


 「奥歯の恨みは晴らしてやったぞ。そしたら素直に話を聞いてくれるようになってな?『心を入れ替えて来世では正しく荒れるよう頑張りますです』とか言って今一番人を欲しがってる世界に自分から転生してくれたぞ」


 「・・・・・・」


 果たしてこの場合閻魔を尊敬するのは清く正しい会社員として良いことなのだろうか。


 「まぁ、その、今日は本当に助かりました。ありがとうございました」


 「あぁ、俺が行かなかったらイザナミを失うところだったからな。そうなったら我が社の大損失だ」


 「あれ、私は!?」


 「・・・」


 「ちょ、黙るってどういうことですか!?」


 黙られたくないのならもっと仕事を頑張れば良いものを、と閻魔は溜息をつく。あんまりやかましいとやっぱりクビにするぞ、と脅すと、ペルセポネは駆け足で仕事に戻っていったのだった。


 「ふむ、まぁペルセポネも今日は頑張ってくれていたようだしな。アレ相手にうまくやってくれたんだから上々だ。今度飲みにでも誘ってやるとするか」


 

 


 

なんかいい話風に終わりましたが、ペルさんを飲みに誘ったらどうなるかなんて、もう想像に難くないですよね。えぇ、そうなります。

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