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その紫陽花は何色?  作者: 風間 義介
一章:雨の鎌倉にて
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二、幽霊の出現場所

 それぞれに解散し、情報収集を行おうとしたが、実際のところ、情報がまったくない状態であることに気づいた三人は、一度全員で集まって、話し合いの場を持ったうえで、各自で情報を集めようということにし、鎌倉で「おいしい」と評判の甘味処に集合していた。

 だが、おいしい、と評判なので。

 「あ、すいませーん!この白玉ぜんざいパフェおねがいしまーす」

 「……白玉あんみつ、一つ」

 「はい、はい……白玉ぜんざいパフェ、白玉あんみつ……ですな」

 甘いものに目がないアヤと、実は甘い物好きの明守は思わず注文をしてしまうのであった。

 そして、甘味処の女将さんがゆっくりと注文を聞き返し、伝票に書き記していった。

 だが、どうにも耳が悪いようで。

 「お汁粉とみたらしお願いすんで~」

 「……あい~?」

 千霧の注文は聞こえなかったらしく、耳をこちらに向け、もう一度言ってくれ、と無言で催促していた。

 「やから、お汁粉と、みたらしやって――」

 「あ~、お汁粉とみたらしね。有難うね~」

 「あぁ、せや。あとくず汁、二つでー……っと、どないしたんばーちゃん?」

 追加の注文をした千霧は、女将さんがぴたりと立ち止ったことに疑問を覚え、問いただした。

 すると、突然、女将さんは振り返り、手にしていたお盆を投げつけてきた。

 「……最初から言わんかっ」

 「がふっ!これ、突っ込みのレベルや、ない」

 投げつけられたお盆を顔面に受け、猛烈な突込みに対する感想を漏らしながら、千霧はぱたりと倒れた。

 その様子を眺めながら、明守はやれやれとため息をつき、アヤはあわあわと慌てふためいていた。

 「……千霧、戦闘不能ってか?」

 「チ、チギリン!大丈夫!」

 あわてて千霧に近づいたアヤは、彼女の狐目に指をあて、瞼を開けた。

 「瞳孔……し、死んでる……」

 その一言を聞き、明守はどうせ眠っているのだろうと判断して、千霧にむかって起き上がりそうなキーワードをつぶやくのだった。

 「……おーい、チギリ。目の前にお前の好きな肉付のいいアヤがいるぞ~油断してるからスキンシップし放題だぞ~?」

 しかし、千霧は目を覚ますことなく、いまだ眠り続けていた。

 そんな彼女を介抱していたアヤだったが、いまだに眠り続けていることをいいことに、どこから取り出したのか、マジックペンを手にし、にやにやと笑っていた。

 ――くくくっ、いつもいじられているからここで仕返ししちゃうよー!チギリン

 そんな様子を横目に、明守は持ってきていたスマホを使って、紫陽花寺に向かった女子高生とどうにかコンタクトをとることができた。

 その結果、「自分達も興味本意で、幼馴染みの月影を含めた4人で鎌倉にある紫陽花寺の古道の途中で、突然白いモヤに包まれた。その瞬間、人が目の前で霞のように消えてしまったり、人間以上に大きい紫陽花が人を喰らっていた」ということと、「その巨大な紫陽花の色は青色だったが、次第に赤く染まっていった。気のせいかも知れないが、夜なのに月が紅く見えてそれが紫陽花を照らしていたのかもしれないし、血で染まったものなのかもしれない」という二つの情報が手に入った。

 明守は、一つ目の情報。紫陽花が人を喰らっていた、という情報に、強い不安を抱いた。。

 ――……血の色で紫陽花が染まる、か……無事でいてくれよ、桔梗……

 ただでさえ、大切な人が危険にさらされている。そんな状況下で、絶望的な情報を突き付けられた明守は、桔梗の無事を祈りながら、手にしていたスマホを握りしめた。

 一方のアヤと千霧は。

 「……おーいもしもーし!……」

 無言で油性マジックを千霧の顔につけ、いたずら書きを始めていた。

 意識が戻っていた千霧が、落書きをされながら。

 ――く、狡猾な――関西人、こないな時にええネタ思いつかんと起き上がれんで

 と、関西人のお笑い根性ゆえに起き上がることができずにいたというのは、また別の話。

 だが、ひとしきりいたずら書きを終えると、アヤは本来の仕事である、事件の調査に戻った。

 明守と同じく、スマホで今回の幽霊話についての情報を集めていた。その結果、「紫陽花の幽霊の噂は、実は鎌倉市内だけで流れているわけではない。神奈川県内の他の場所でも噂は流れているようであり、目撃情報も相次いでいる」という情報も手に入った。

 そして、ようやく目を覚ました千霧は、お盆を投げつけてきた女将さんに向かって、ここ一帯の幽霊話について、何か知らないか尋ねてみた。

 すると、女将さんは遠い目をして、ようやく思い出したかのように、ぽん、と右こぶしで左の手の平をたたいた。

 「幽霊に出会ったと証言する人もおったがの、記憶があいまいじゃったようで、その幽霊は紫陽花柄の浴衣を着た十歳前後の女の子らしいと言われとるよ。実際、紫陽花寺へ散歩に行った時に見たことがあり、自分の名前を"かよこ"と名乗っていたとか言っておったかの」

 それだけ言うと、女将さんは厨房へと引き下がって行った。

 だが、ほんの少しの間で注文されたものを乗せたお盆を運んできた。

 「葛湯……おまちど……」

 と言いながら、明守たちに向かってきた女将さんは、何かに躓いたのかバランスを崩し、前に倒れこんだ。

 どうにか明守がそれを支え、事なきを得たが、運んでいた葛湯はぽーんとアヤの頭上に飛んでいき、そのまま、アヤは葛湯まみれになってしまった。

 「――粘液を頭から…エロイな」

 いつの間に用意したのか、千霧は取り出した携帯のカメラでそんな様子のアヤを撮影し、待ち受け画面設定をしていた。

 「うう、なんかベトベトするよぉ……」

 もっとも、当の本人はそんなことは露知らず、頭にかかってきた葛湯でべとべとしていることに文句を垂れていた。

 一方の明守は、何事もなかったかのように、一人黙々と白玉あんみつを食べ始めていた。

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