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その紫陽花は何色?  作者: 風間 義介
一章:雨の鎌倉にて
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一、集いたる魔法使いたち

 今から数百年前のこと。源氏によって鎌倉幕府が開かれ、武士たちが隆盛を極めた時代幕府の置かれた鎌倉の街に集っていた当時の実力者達は、己の権勢を示さんがため、競って寺社仏閣を建立し、霊験あらたかな仏像や仏具を集め、高僧を招いた。

 それら、無秩序に配置された霊的なエネルギーは、複雑に絡み合って混沌を生み出し、やがて鎌倉の街の霊的なバランスの崩壊を招いた。これにより、恒常的に霊的な歪みを抱えることになった鎌倉は、各所で異界への門が開き、夜な夜な魑魅魍魎が徘徊する、百鬼夜行の街となってしまった。

 この霊的異変に対処するために、北条まさこの先代達は鎌倉幕府内に魑魅魍魎専門の守護組織を設立。彼らは人々を護るため、幕府滅亡後も独自に活動を続けてきた。

 それから長い年月が過ぎたのだが、残念なことに北条まさこは一族が受け継いできた霊力を宿すことが出来なかった。ある意味では、北条家の霊力が徐々に弱まっていたのかもしれない。故に、鎌倉の町で起きるエミュレイター事件と思われるものは、外部期間や必要に応じてフリーのウィザードや、関連組織と連携して事態に対処してきた。

 今回は幽霊話とあり、経験から陰陽師や聖職者が適任と考えていた。しかも、明守の知人も関わっているなら、尚更、この事件は彼に対処してもらうべきと考え、今回の依頼に至ったのだった。


 「鎌倉なー。昔来た事があるなぁ、大仏がでかかったんは覚えとるわ」

 江ノ電に揺られ、千霧とアヤは鎌倉駅に到着した。

 数日前に仕事の依頼を受けた千霧とアヤは、アンゼロットから伝えられた待ち合わせの当日、鎌倉駅に集合することになっていた。鎌倉はあいにくの雨だったが、明守は一足先に鎌倉駅に到着し、北條まさこに同行者が来ること、信頼できる仲間であることなどを伝えていた。

 「すまないな。わざわざ来てもらって」

 「ボクらにあまりかしこまらなくてもいいよー、ほかならぬアッキーの頼みだしねー」

 鎌倉駅まで迎えに来ていた明守は、来てくれた二人に対し、感情を思いっきり抑えて平静さを装いつつ、応援に来てくれた二人に礼を言った。

 その堅苦しさにアヤは照れ臭そうに微笑みながら答えた。

 「性分だからな」

 それに対し、明守は微苦笑を浮かべながら返した。

 が、一方の千霧はというと。

 「まぁ、アヤが行くんやったら、ウチも行かんとなー」

 シシシ、と笑いながら答えた。いつものことではある。アヤと千霧がセットで行動するのはいつものことではあるのだ。だが、明守はそのコンビが常日頃からやっている、正確には一方的にやられていることなのだが、光景が網膜に広がり、果てしない不安に襲われた。

 「……なぜだろう、アヤがセクハラされる未来しか見えない……」

 「なんやったら、未来のみならず今すぐにでもやったるで?」

 「チギリンのセクハラはいい加減やめてほしいけど、言うと苛烈になるんだよ……」

 はぁ、と陰鬱な溜息をつきながら、アヤは千霧の常日頃からのセクハラに対する愚痴をこぼした。

 そんなやり取りをしていると、明守の背後から一人の尼僧がゆっくりと現れた。その尼僧が、依頼主である北条まさこ氏であることを知っていた。

 だからこそ、彼女の接近にいち早く気づき、

 「明守さん、お待ちしておりました。こちらの元気な方々が、協力者の方ですか?」

 「はい……元気なのが取り柄、みたいな連中ですが、腕は確かです」

 明守がそう紹介しているというのに、千霧はアヤのその豊満なふくらみをニヤニヤと笑いながら弄り回し、アヤはそれに対し半ば涙目になりながら抵抗していた。

 そんな様子を見て、明守は、本当にこいつらで大丈夫だったんだろうか、と一抹の不安を感じたが、まさこが来たことを悟ると、千霧は視線だけは(・・・・・)まさこの方へ向けた。

 「そうですか。自己紹介が遅くなりましたが、今回依頼させて頂いた北条まさこと申します。すみませんが、今回の一件について、皆さんにお任せしたいと思いますので、宜しくお願いします」

 優雅にお辞儀をしたまさこに対し、千霧はなおもアヤの体をいじりながら。そしてアヤは半ば涙目になりながら。

 「シシシ、アヤやんはやっぱ、肉付きええよなー、っと、よろしゅう、チギリやでー」

 「は、はい!ってやめっ!ボクはアヤっていいます・・っ!」

 と、各々名乗った。

 が、まさこはそんなことはまったく気にする様子はなく、恐ろしいくらい淡々と、三人に問いかけた。

 「早速ですが、今回の事件というか、噂話の元となった鎌倉寺の古道に向かって頂ければと思いますが、ご案内しましょうか?それとも、もう少し色々と調べてから向かいましょうか?」

 その問いかけに対し、アヤに寄りかかりながら千霧は問いかけで返した。

 「んー、これ以上、言うても携帯やらパソコンやらやったら距離も関係ないし、なんや現地で探せそうな情報の目星ってあるんかいな?」

 そう、アヤと千霧(セクハラコンビ)がここに来たそもそもの理由が、インターネットのSNS投稿サイトに投稿されていたコメントだった。

 そして、インターネットの情報は、えてして信憑性に欠けものが多い。

 「そうですね、皆さんにとってもまだ情報が不足していることでしょう。確かに、携帯やパソコンならこの鎌倉に纏わる噂を調べるのは容易いですし、地域の方に話を聞くことも出来るでしょう」

 情報が不足していることを知っていながら、あえて古道に誘うのはどういう了見なのだろうか、と明守は疑問に思いながらも、思案するふりをして、二人に自分の意見を伝えた。

 「……情報は多いに越したことはない。調べてから行こうと思うが、二人は?」

 「まぁ、正直言うて急いで、焦ってどうなる、て言うわけや無いやろうし、ゆっくり調べたらええと思うで?」

 「ボクも賛成、とりあえず行く前に調べられることは調べておいたほうがいいかな?」

 明守の言葉に、二人は賛成の意を示した。

 それを理解し、明守はまさこに視線を戻した。

 「……というわけで、北条殿。少し調べてから向かいたいので、案内が必要になったら、こちらから連絡します」

 「分かりました。それでは、皆さん宜しくお願いします。私は、紫陽花寺へと戻っておりますので、何か分かりました連絡を下さい」

 どうやら、三人の意をくんでくれたようで、まさこは深々とお辞儀をして立ち去って行った。

 その背を見送りもそこそこに、三人はそれぞれ、自分たちが考えられる、情報が集められそうな場所へ向かうのだった。

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