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三、友に頼られ、はるばると

 場所は変わって、ここは都内にあるとある喫茶店。

 じめじめと湿気の強い外と比べ、エアコンが効いている室内は涼しく、快適な環境になっていた。

 そんな、涼むことを目的にしている客人の中に、ひときわ目立つふくらみを持つ、褐色の肌の金髪少女とそれとは対照的な体型の糸目の少女がいた。

 金髪少女の名前は真白アヤ(ましろあや)、小柄な少女は形無千霧(かたなしちぎり)という。

 二人は携帯を取り出し、とあるSNSを開き、それを眺めて楽しんでいた。

 すると、店員が注文していた飲み物を運んできてくれた。

 「お客様、お飲物です」

 「あー、アイス抹茶ラテはボクのねー!」

 「おーきたなー、コーラとカルピスとオレンジジュースミックス」

 元気のいい大阪弁で注文した飲み物を受け取った千霧に背を向けた店員の肩は、なぜか小刻みに震えていた。

 そんな店員の様子に気づかずに、二人はSNSにコメントの投稿を始めた。

 「『あついからクーラー利いた店で休憩なう』っと……」

 「やっぱこん人のコメントおもろいなー、あ、見てみぃ。尿色ブレンドやって」

 「やっ!もうチギリン、そこのコメントよくみれるね……」

 千霧が笑いながら突き付ける画面に対し、アヤは顔を赤くし、あきれ顔になりながらつぶやいた。

 そんなやり取りをしていると、いつの間にのぞいていたのか、通りかかった店員が千霧に話しかけてきた。

 「あはははっ、このミックスを注文するのは当店では”ツワモノ”と言われるんですよ~。そうそう、そちらの胸の大きい方?最近そのSNSで面白い話が出てるらしいですよ?」

 のぞいていた店員は、さらりとアヤに対してセクハラ発言をしたが、それに対する突っ込みを入れさせる間もなく、自分の携帯を取り出し、SNSのサイトを開き、二人に見せた。

 その画面には、「紫陽花寺の怪奇現象」というタグが付けられた投稿があった。その投稿に対し、実際に行ってみたけど、何もなかったとか、幽霊なんている訳ないとか、はたまた、プラズマだ!というコメントが寄せられていた。

 「そういやぁタグでたまに見たなぁ……ふぅん?」

 「えーっと?……やーっぱ夏が近くなってきたせいかこういう話題多いね」

 店員に見せられた投稿を眺める千霧の横で、アヤもまた、その投稿を覗き込んだ。

 一方の店員は、少々さぼりが過ぎたようで、店長に怒られ、奥へと引き下がって行った。

 その様子を横目で見ていた千霧は、なんや親近感沸く店員さんやねぇ、と心の中でつぶやき、再び携帯へと視線を戻した。

 「……寺ってまたありきたりな心霊スポットやねー。住職からすれば面倒な話やけど……お?コレなんか信憑性あるなぁ…エエ感じに体感的で抽象的やわ」

 同じタグがついた投稿を追っていくと、そこには、幽霊にあったかもしれない、という投稿がされていた。

 投稿主の公開プロフィールを見てみると、どうやら、このユーザーはUFOや心霊現象(オカルト)を否定する物理学の教授だったようだ。

 そのプロフィールをみた千霧は、細い目を吊り上げ、額に青筋を浮かべながら、ぶちぶちと文句を垂れた。

 「ユーフォーはないちゅうんかいっ!?浪漫やろ、神秘やろ!アヤの乳やろっ!」

 「ボクの胸が神秘って何さ?!」

 余談ではあるが、千霧はアヤに対し、隙あらばセクハラを仕掛けることが生きがいだと豪語するほど、アヤの胸に対する執着心が強い。

 いくら言ってもやめてくれないため、アヤはもはやあきらめの姿勢なのだが、それでも不愉快であることに変わりはなかった。

 「っていうか、チギリンはこれ信じるのー?」

 「ネットの情報なんか玉石混合や。基本はガセやと思うて、漁ってから信じるか決めたらええって、っと?」

 「その類の話は石はあっても玉はなかなか無いと思うんだけどなぁ~……ってなにかまた気になるのあった?」

 SNSに限らず、インターネットに漏れ出ている情報というものは、「先生」と称される百科事典のサイトや科学実験の最新レポートやイベントの告知、新商品や新作に関する情報などを除き、ほとんどがでまかせや嘘だ。特に、こういったオカルト系の話は、よくよく読んでいけばいたずらだったという記述が存在していたりすることもある。

 が、中には本物が混ざっている可能性もあるため、無碍にすることはできない。現に、千霧の目に留まった投稿は、「確かな記憶じゃないけど、目の前で友達が消えたの……。その時、少女の姿も見えたんだけど、なんていうか……血みどろっていうか……。今思い出すのも怖いけど……」、「一番怖かったのは、その……あ、紫陽花がね……人を食べてたの。自分は一目散に逃げ帰ってきたんだけど、友達全員はみんな消えちゃって、それ以来行方不明になってしまったの」、「誰も信じてくれないよね?こんなことあるはずないよね?常識的に考えて、何かの見間違いだよね?でも、本当に……友達みんなが消えちゃったの。警察にも相談したんだけど、皆家出したんだろう?だって……どうしたら良いかな……」という、いかにも、侵魔が絡んでいそうな空気を感じとれる文章だった。

 そのコメントの最後には、ユウちゃん、ツキちゃん、カエデちゃんと、おそらくこの投稿を行った人物の友人のものなのであろう名前が投稿されていた。

 「ん~、ええ感じに抽象的で、こっから追うんは難しいかなぁ……」

 と、コメントを見た千霧は細い目をさらに細め、首を傾げた。

 と、その時、アヤの0-phone(携帯電話)からマフィアを題材にした洋画のテーマ曲が流れてきた。どうやら、電話の着信のようだ。

 発信先を見ると、そこには先日ともに戦ったウィザードの名前が記されていた。

 「ん、アッキーからだ、はいもしもーしボクだよー」

 《……アヤか?久しいな》

 「ほんとおひさだよね~」

 にへらっとアヤは電話越しに笑いながら答える。

 しかし、一方の明守は感情を殺してはいるものの、珍しく何かに怒っているような、そんな雰囲気を抱かせる声をしていた。

 《近くに千霧はいるか?》

 「ちょうど、二人でカフェにいたところだよ~」

 明守の声は聞こえないため、呼ばれたことに気づいていない千霧は、お気に入りのアヤと一緒の時間を邪魔されたことで毒づいてしまったらしく。

 「なんや、せっかく二人なところ邪魔しよってー……」

 といった具合にむくれて、こそこそと、カモミールとダージリンを二対一の割合で、店員に注文を始めていた。

 そんなことは露知らず、明守は二人に要件を伝えようとしていた。

 《なら、スピーカーにしてくれ……仕事の依頼をしたい》

 「わかった~。チギリン、アッキーから仕事の依頼だってー」

 「え、ああ、仕事?せっかくのゆっくりした時間に何やろ…」

 注文を終え、千霧はテーブルの中央に置かれたアヤの携帯に目を向けた。

 その言葉に、さぁ、とアヤは答えた。が、基本的に天然な彼女が、明守の声の様子から感じたことを率直に答えた。

 「さぁ?でもあのアッキーにしては焦り気味だったかも~」

 《聞こえてるぞ、千霧。すまんかったな、休みの時に……それよか、紫陽花寺のうわさは聞いてるか?》

 「ん?ああ、なんや行方不明がどうの、プラズマおやじがUFOないとか言い始めた……」

 「さっき見てたあれね~」

 千霧から返ってきた答えは、さきほど見ていたSNSのコメントがかなりごちゃまぜになっているが、一応、知ってはいるのだろうと判断した明守は、自分が受けた依頼を話し、それに協力してほしい、と持ちかけてきた。

 が、それを聞いているのか、聞いていないのか。

 「お代わりのスペシャルブレントティーです」

 「……いつの間にたのんだのさ」

 突然、自分の目の前に注がれたブレンドティーに半眼になりながら、アヤはおそらく張本人であろう千霧を見つめた。

 「いやぁ、抹茶やと逆に喉渇くと思ってなー」

 そんな視線を浴びつつも、千霧はからからと笑いながら答えたが、すぐにまじめな態度に戻り。

 「んーつまりはネットの情報もガセばっかりやない、と言うことか……でも、ちょっとなぁ……」

 と、渋った。

 正直、あまり気乗りしないのだ。

 明守への個人的な依頼に対し、勝手に協力してもいいものかどうか、という感情と、そもそも仕事自体あまり好きではない、という二つの感情が千霧にそんな態度を取らせていた。

 一方、勝手にお代わりを注文されたアヤは。

 「いやいいんだけどベボァー!」

 「うわっと!?何やねんなアヤッ!?五歩ー美のつもりなんか嫌がらせなんかで判断かわるで!?」

 「いや、ごべんごべん(ごめんごめん)、むせただけむせただけ、事故事故」

 「ったく、こらちょっとお仕置きせなあかんなぁ……」

 口にしたブレンドティーを対面する千霧に思いっきり吹きかけてしまっていた。

 お茶の色が黄色であることと、先ほどのSNSに投稿されたコメントを思い出したせいなのか。それとも、方向音痴である彼女は、実は味音痴でもあったのか。

 真実のほどは定かではないが、受話器越しに聞こえてきているであろう二人の茶番に、明守は重々しく溜息をつき、話を続けるぞ?、と問いかけた。

 《なんだったら、アンゼロットを通じて話してもいいが……お前らしか信頼できん》

 アンゼロット、というのはウィザードたちの司令塔であり、世界の守護者と称される少女だ。その筋の人間の間では、「真昼の月」とも呼ばれている。

 一応、ウィザード側の人間である、ということは明守もわかっている。だが、この話を彼女にして、協力者を募ったの日には、どのような人物が派遣されるのかわかったものではない。

 何より、明守自身、アンゼロットという存在自体、どうでもいい、と思っている節があり、また、信用もしていない。

 そのため、こうして、比較的信頼できる彼女たちに連絡をしたのだ。

 「まーエプタがダンサー(あんなん)なった今、そう思うんは問題ないかも知れんなぁ……」

 エプタ、というのは、彼女たちの共通の知り合いで、少し前に温泉旅行に行った間柄でもある。

 が、どういうわけか、彼は突然ウィザードを辞め、ダンサーとしての道を歩むと宣言し、彼女たちの前から姿を消した。その宣言にはアンゼロットが一枚かんているとかいないとか。

 「まぁ、そういうわけだ……協力、してくれるか?」

 「アッキーの頼みだしね、いいよ~ってチギリンなにしてるのさ」

 快く承諾したアヤは、目の前の少女がなにやら携帯をいじっている様子を見て、じとっとした視線を向けた。

 そんな視線を意にも介さず、千霧は。

 「題名、【黄金水】……っと。あ、待ち受けにもしとこか」

 とぶつぶつとつぶやいていた。そして、携帯を操作しながら。

 「ん、あああワイもエーで」

 と生返事で答えるのであった。

 が、明守は、もはやその態度が当たり前であるかのように、淡々と受け答えした。

 《……すまんな。んじゃ、詳しい話はアンゼロットから聞いてくれ。彼女に情報を回しておいた……じゃあな》

 その言葉が聞こえた数瞬のち、アヤの携帯から、ぶつっ、ツーツー、という音が聞こえてきた。

 どうやら、一方的に電話を切ってしまったらしい。

 がそれから一分と立たず、今度は千霧の携帯にメールが届いた。

 送り主は明守で、題名は「……なんだ、こいつは?」だった。

 どうやら、先ほど送信したのは、アヤが何かした画像だったらしい。

 返信されたメールを見て、にやにやと笑う千霧を見て、アヤは不信感を抱き、テーブルを乗り越えて、千霧の襟をつかみ、激しく前後に揺らした。

 「チギリン何送ったのさ!何をー!\!」

 「っはっはっは~、ただの『お茶中ナウ』な写真やでー」

 頭を激しく前後にがくがくと揺らされながら、千霧は余裕の笑みでそう答える。しかし、何度もその笑顔と笑い方に泣かされてきた経験のあるアヤだからこそ、彼女のその真意を理解できていたため、なおも問い続けた。

 「その笑顔が信じられないよー!もー!」

 泣きながら、さらに頭を揺らすスピードを上げていく。

 そのスピードに徐々についてこれなくなり。

 「あっはっっは…気ぃが遠く………」

 と、つぶやき、かくん、と気を失ってしまった。


 ほぼ同時刻。

 連絡を終えた明守の携帯にメール着信を知らせるメロディーが響いてきた。

 送り主は千霧で、どうやら、何か面白い画像を拾ってきたらしい。

 ――どうせ、ろくでもないものなんだろうが……

 心中でそうつぶやいた明守は、画像ファイルを開いた。

 そこには、確かに黄金に見える液体の画像があった。が、それはあくまで液体が中心ではなく、それを吹きだす褐色肌の金髪少女が主な被写体となっている画像であった。

 明守はそのメールに対し、「何だ?こいつは」、と件名を打ち、返信した。

 ――……今更ながら、こんな面子で大丈夫なんだろうか……

 メールを送り返し、果てしない不安のみを感じた明守は、溜息をつきつつ、鎌倉駅へと向かった。

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