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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不死と死神と永遠の空

作者: 間宮冬弥

「四十八年ぶりだね」

 双子月の紅い月が欠け蒼い月が満月の夜。見た目は十六歳くらいの黒い髪を背中まで伸ばした少女は四十八年来の友達へ語りかける。

「ごめんね。なかなかこれなくて……」

 語る少女の黒い瞳と顔はとても悲しくとても辛そうな顔をしていた。

「でも安心して、わたしもいつか必ず行くから。その時はおいしいタルトでも食べようね」

 そう言うと少女はにっこりと笑顔を友に向けた。

「じゃあ、またね。バイバイ」

 少女は手を振りきびすを返し友の元を去る。


 ベルカリア・アークハルトこの地に眠る


 静かに眠る友の墓に見立てた剣にはそう書かれていた。



「バカか! お前に俺が殺せるか!」

「できるよ」

 双子月の紅い月が欠け青い月が満月の夜。年のころなら十七〜十八才の少年は自分よりも年の行った二十代後半の男に無感情で言った。

「俺は不死身だ! お前なんかには殺せない!」

 男は両刃の剣の切っ先を少年に向ける。

「不死身……そうだろうな。お前は不死人ふしにんだからな」

 不死人をいう言葉を聴いて男はたじろいだ。

「な、なんでお前がその言葉を……」

「お前は何年生きた? まあそんなこと関係ないか。あんたはもうすぐ死ぬんだし」

 少年は真横に手をかざす。かざした手の先から空間が切り裂かれその中に手を挿入する。

「お、お前……まさか……」

 男の顔が恐怖で歪む。少年は切り裂かれた空間から漆黒のマントを取り出し羽織る。そして、人指し指を歯で噛み切り血を垂らす。落ちた血の雫は地に落ちることなくその場で停滞。膨張し形をかたどっていく。

「死神!」

「ご名答。じゃあ。さよなら」

 真っ黒な鎌となった血は少年の手に握られている。

「や、やめろ! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 男は絶叫する。が、少年はお構いなしに鎌を振り下ろす。

「ぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

 鎌で切られた男の体は傷口を中心に砂となりサラサラと風に乗る。

「な、なんで死神がァァァァァァァ……」

 男の体が完全に砂となり消えた。それが男の最後の言葉となった。少年は胸の下げたひし形のペンダントを握り空に舞う砂をいつまでも見つめていた。



「さてと、しばらくこの街で過ごそうかな」

 友の墓から歩くこと数時間少女は街たどり着いた。辿り着くなりまず住み込みの仕事をさがしだした。なぜならば旅の資金が底に尽きかけていたからだ。メイドの仕事があればいいがこの街にはメイドを雇うほど裕福な家は一軒もなかった。あきらめずパン屋や食材屋や鍛冶屋なそを回ったが店員募集はなかった。

「明日探そう……」

 少女は本日の捜索をあきらめ宿屋へと向かった。

「この宿屋でいいか」

 目の前にそびえる宿屋は三階立ての大きな宿屋で一階がホールカウンターと数店のレストランがあり二階、三階が客室となっていた。

「あっ!」

 宿屋に着くなり少女の目に止まったのは宿屋の入り口に張ってあった『ファンネリアス店員急募』の張り紙だった。しかも少女の希望の住み込みだったので迷わず宿屋内に店を構えるファンネリアスに向かうのだった。



「今日はこの街で宿をとるかな」

 少年は人に宿屋の場所を聞きながらその足で宿屋に向かう。

「ここでいっか」

 少年は街で三つある宿屋の内の一番大きな宿屋で足を止める。その宿屋は三階立ての宿屋だった。



「じゃあ、明日からさっそく仕事にきてもらうから」

 店長らしき大きな体躯の男に採用と告げられる少女。

「えっ! あの……面接はやらないんですか?」

 店内の席で対面に座っていた店長と少女。そして少女は唖然とした。なぜなら面接らしい面接を行っていないからだ。二、三の質問しかしていない。

「ああ、いいよ採用。きみカワイイからね。明日から忙しくなるぞ」

「はぁ……」

 器の大きな店長は豪快な笑いをして少女の肩をポンポンと叩く。

「それと、うちはスイーツのほかにパスタも提供してるから全てのメニューは早く覚えてね」

「はい! よろしく願いします」

「じゃあ、住み込む部屋は一階にある従業員寮の108号室だから。鍵はこれね」

「ありがとうございます」

 少女は頭をふかぶかと下げると鍵を受け取り従業員寮の108号室に向かった。


「ここが私の住む部屋……」

 鍵を開け部屋に入る。その部屋はベッドと机、タンスがあるだけの部屋だった。決して広いとは言えないが一人が寝泊りするくらいには十分だった。

「さてと、少女は少ない荷物を机上に放り店長からもらったファンネリアスの全メニューを見る。

「これくらいの量ならすぐ覚えられるかな」

 さっそく少女はメニューを暗記する作業に入ったのだった。



「ではこれでチェックインは完了です。こちらが307号室の鍵でございます」

 手馴れた手つきでてきぱきと仕事をこなすカウンターボーイから鍵を受け取り部屋へを向かうが『お客様、お待ちください』と呼び止める声が聞こえる。

「なんですか?」

 少年が振り返るとボーイは一枚の紙を差し出した。

「ただいま、こちらのファンネリアスでは開店一周年全品半額のキャンペーンを開催中でして、よろしかったらどうぞ」

「はぁ」

 少年は半額券を受け取り今度こそ部屋へと向かった。



「いらっしゃいませ。ファンネリアスへようこそ」

 次の日、朝からゴスロリ風の制服を着た満面の笑顔の少女は慣れた手つきで接客をこなす。

「二名様ですね。こちらの席へどうぞ」

 その堂々とした接客スキルはほかのウエイトレスも見とれるほど見事だった。

「店長、あの新人の子……すごいですね……」

「ああ、すごい子を雇ったよ」

 先輩ウエイトレスと店長は目を見張った。初日だというのに教えたのは店の接客ルールと休憩時間と開店・閉店時間だけ。あとは一人であのみごとな接客をこなしていた。

「ご注文を繰り返します。チーズケーキがひとつ、チョコレートケーキがひとつ、メロンソーダが二つ。以上でよろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫です」

「かしこまりました。では少々お待ちください」

 二人の女性客の返答を聞き優雅に一礼をすると少女はキッチンにまっすぐ向かう。

「なんか……若いのに年季がはいってますね……」

「ああ、あれは接客業に十年以上携わってるて感じだな」

「ですねぇ……なんか、出る幕ないって感じです……彼女何才なんですか?」

「確か、十六才って言ってたな」

「十六才であの接客スキル……」

 先輩ウエイトレスは肩をがっくりと落とし自身をなくしている感じだった。

現在の客数は七人。しかしその七人をすべて一人の少女がさばいている。

「すいません。注文いいですか」

「はい。ご注文承ります」

 少女は別の女性客の注文を聞きキッチンの戻る。

「注文入りました。十八番テーブルチーズケーキがひとつ、チョコレートケーキがひとつ、メロンソーダが二つ。二十一番テーブルがミルフィーユとオレンジジュースひとつお願いします」

「了解。十四番テーブルのストロベリーケーキ出来上がったから持っていて」

「わかりました」

 すると少女は持っていたトレイにストロベリーケーキを載せ十四番テーブルに運んでいった。


 

「さてと、そろそろ行くかな」

 正午近くに身支度を整えた少年は街を出るために部屋をでた。一階カウンター。そこで鍵を返し宿泊料を払う。

「ご利用ありがとうございました」

 営業スマイルを尻目に少年は宿屋の入り口に向かう途中、一件の店が目に入る。

(ファンネリアス……確か……)

 少年はポケットをガサガサと漁り紙切れを取り出した。

(半額券があることだし……せっかくだからパスタでも食べていくかな)

 少年は入り口から遠ざかり開店一周年全品半額のキャンペーン展開中のファンネリアスへと足を向ける。そして、三十秒かからずファンネリアス店頭につく。店には宿屋の中にあるため扉はなく店内の様子が丸見えである。そしてその横にはメニューが書かれた黒板が置かれていた。

「なに食べようかな」

 メニューが書かれた黒板を身、品定めをする。そして、数秒後ホワイトソースパスタに決め店内の入店したのだった。


(ふぅ、だいぶお客も減ったな)

 店内の一通り見渡す。

「すいませ〜ん、席に案内してもらいたいんですけど」

「あっ。はい、ただい……ま……」

 少女はたったいま入店した少年の顔を見ると動き止まり、じっと少年の顔を見つめる。

「あっ……」

 少年も同じく少女の顔を見つめる。

 数秒の視線の交差。

「す、すいません、えっと、一名様ですね。こちらの席へど、どうぞ」

 先ほどまでの手際良さが嘘のようにガチガチの固まった接客となっていた。

「ご、ご注文は、お決まりで、でしょうか」

「えっと、ホワイトソースのパスタを……」

「か、かしこまりました。では少々お待ちください」

 少女は注文を繰り返すことを忘れ足早にキッチンへと行ってしまった。


(まさか……ううん、そんなことない……でも、でも)

(まさか……いや、違うか……でも……)


 少年と少女はお互いに心当たりがあるように互いを考え、思った。少年はおもむろに荷物が入った布袋をあさり一枚の写真を取り出す。その写真はずいぶん古く写真全体が黄ばんでいた。その写真は一人の少年と少女が仲良く腕を組んでいる写真だった。

(やっぱり……)

 少年は何かを確信し写真を袋にしまった。





双子の満月が世界を照らす闇の刻。森の奥にある湖で一人の少女が胸躍らせながらウキウキしている。

(もうすぐ、来るかな?)

 夜空を見上げ双子月と星を眺め時が経つのを待つ。

 何分の時間が少女には何時間にも長く感じた。それだけ、待ち焦がれていて早く会いたかった。時間を速く過ぎさすため裸足で水面を蹴ったり湖の水すくいあげを誰もいるはずのない空間に投げる。放った水が月の光でキラキラと光り、幻想な空間をかもしだしている。


「ごめんね待たせて。ベルカ、もうすぐそっちに逝けるからね……」

 水飛沫(みずしぶき)でキラキラと輝いた空を見上げたままそうつぶやく。少女は友達であり同じ存在だったベルカスを思い出していた。ベルカスは少女と同じ不死人。しかし彼女は四十八年前に天使に殺されていた。




 四十八年前 永遠夢月えいえんむつきの湖


「だから……お願い……」

「いいから! 傷を早く治して!」

 湖のほとりで血を流す少女が一人。そしてその少女の手を握り抱えている少女が一人

「ふふ、なに言ってるの天使の神秘で斬られたのよ……もう助からない……」

「そんなことない! そんなことないから!」

「ねぇ、好きな人に告白した?」

「な、なに言ってるの!」

「駄目だよしっかりと告らないくちゃ……」

「無理だよ……私、人間じゃないし……」

「でも、気持ちだけでも伝えなよ……きっと後悔する……ゴフっ……」

 少女の口から大量の血が吐き出される。彼女は死ぬ。少女は目の前の友達が確実に死ぬことを認識する。が、心がそれを認めない。

「いや…いや…」

「約束だからね……」

 その言葉を最後に少女の手がするりと落ちる。開かない瞼。呼吸が止まる肺。言葉を吐かない唇。体温が下がる体。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」



 その日、永遠夢月えいえんむつきの湖は悲しい絶叫と守られない約束で包まれていた。



「えっと、待ちました」

 少年は言葉をかけ少女は思い出から意識を戻し振り返る。少女は満身の笑みで振り返り「遅いよぉ〜」と言った。

「ごめん。道に迷っちゃって……」

 剣を腰に携えた少年が少女に言う。

「いいよ。でも、びっくりしたよ。お店でいきなり夜、話したい事があるから会ってくれ言われた時は」

「いや、あの場で確かめる訳にもいかないし……」

 少年は困った風な面持ちで語る。はたから見ればそれは仲のいい恋人に見えるだろう。


「で、なに? 話って?」

 少女が突然切り出し少年は意を決して言う。

「悪いね……でも、確かめないといけないんだ……」

「………………」

 少女は何も言わなかった。

「やっぱり……もう、人間じゃないんだね?」

 あまりにもストレートな言葉だった、だが二人にはこれで十分すぎるほどの一言であった。

「ごめんね……もう、狂い始めた時計は直らないんだ」

 微笑み、少女は少年の目を見てそう言った。時計は直らないと言った。それはもう人間ひとには戻れないということだと少年も気づいていた。

「父さんからもらった写真……五十年前と何も変わらない顔……やっぱり不死人なんだね?」

「やっぱりキミはあの人のお子さんなんだね……そうだよ、私は不死人。五十年前の天魔大戦の時に悪魔が気まぐれでわたしを不死にしたの……わたしは望んでなかったのに……」

 少女はひし形のペンダントを握り締め語る。

「……俺は……」

 少年は強く拳を握る。爪が食い込むほど強く握った。

「何も言わないで! わたしは後悔なんてしない。そして悪魔と天使がいない今、わたしを殺せるのはもうキミだけなんだよ」

少女が少年の言葉を遮る。

「俺を知ってるの?」

「うん、血で染まったような紅い髪に死灰しはいおかされた灰色の瞳……この世で数人しかいない死神でしょ?」

そして沈黙、その場に立ち尽くす二人。逡巡ののち少年は空間に裂け目を作り真っ黒で大きなマントをその裂け目から引き抜き身にまとう。

「……もう、戻れないんだね」

「わかってるくせに、ココに来た時点でもう避けられないんだよ?」

 少年は少女の目を見つめて、そのかわいらしい瞳を見つめて言う。

「俺は……父さんがこんなことを望んでいないって事はわかってるだろ?」

 悟すように少女に言葉を投げる。

「あの人と同じで優しいね……キミはお父さん似だね……わたしはキミのお父さんのそんな所が好きだったよ」

 双子月を見上げ少年の瞳を見ないまま投げかける。

「そうだ、最後にキミのお父さんに会わせてくれない?」

 顔を少年に戻し、そして、言った。

「……俺の父さんからキミに遺言がある」

 少女を見据えたまま少年が話し出す

「愛している、それから、《ありがとう》と……」

 風が吹き。少女の髪が揺れる。揺れる髪を押さえ微笑みながら「そっか、両思いだったんだ」と嬉しそうに言った。今から死ぬとは思えないほどのやさしい笑顔だった……

「もう、思い残すことはないや……でも、五十年か……長かったな」

目をつむり少女が五十年という思い出に浸っている少女は本当に朗らかだった。思い残すことが一つもない顔だった。


「さっき、遺言って言ってたけど……あの人は……」

「二年前にね……」

 悲しいそうな顔になり「そっか」と俯き呟く。

「あっ、そうだ」

 思い出したように少女は首に下げたペンダントをはずし少年に差し出す。

「これは?」

「キミのお父さんとわたしの思い出の品。ペアのペンダントだよ。キミが持っててよ。そのほうがいいから」

 少年は差し出された青いひし形のペンダントを受け取り「わかった」と言った

「お月さまもキレイな事だしそろそろ殺してくれるかな?」

「……そうだね」

 少女の後ろに浮かぶ双子の月を一瞬、見上げ右手人差し指の甲を噛む。血がしたたり地上に落ちることなく手のひらで停滞。膨張し形をかたどっていく。大きな鎌へと……

「最後に……父さんが最後まで愛した女性ひとに会えてよかった」

「あはっ、わたしも最後にあの人の息子さんに会えてよかったよ」


 大鎌が暗闇を疾走はしる。鈍い光の軌跡を描き少女の体を切り裂いた。

 血は飛び散らなかった。だが、少年はそれを知っていた。不死人を殺すのはこれが初めてではなかったから。ゆっくりと……少女の指先から砂と化していく……

 これが不死人の死。死体も痕跡も残すことなく完全にこの世から消える死。残るのは関わった人の中の思い出だけ。だが、いずれその思い出も消え、完全になくなる。


「キミが死神でよかったよ……死神になってくれて……ありがとう……」


少女の体が完全に砂になり風に乗って消える……少女が託したペンダントを残して……

 少年は風に乗って空を舞う砂をいつまでも眺めていた。いつまでも、いつまでも。



「父さん。父さんの好きだった人に会ったよ」

 あれから三日が経った日、少年は父親の墓の前に立っていた。

あの日、少女から託されたペンダントをそっと十字の墓にかけ持ってきた花を添える。

「いい子だったよ……父さんがホレるタイプだね」

 そう言い少年は自分の首からペンダントをはずした。それは少女から託されたのと同じ形のペンダントだった。そのペンダントを先ほどと同じく墓にかける。

「父さん……これは父さんが持ってよ」

 少年は父親の墓に語る。しかし父親は答える事はなかった。



 死神になってくれて……ありがとう……


(ありがとう、か……)

少女の言葉が脳裏をよぎり少年は死ぬ間際の少女の笑顔を思い出していた。あの笑顔は忘れられない。忘れようとしてもきっと忘れられないだろう。なぜならありがとうなんて言われたのは彼女だけだったからだ。きっとこれから先も『ありがとう』なんて言われないだろう。


「じゃあ、俺もう行くよ」


 少年は踵を返し父親の墓を後にした。




 不死と死神と永遠の空・完





オマケ/ある日の出会い


「あ〜あ、腕食べられちゃったな〜」

 わたしは木に背中を預けあっけらかんと言った。血はどくどくと出て止まる様子がけど、まったく気にする必要はない。

「ここまでくれば魔物も追ってくることはないかな?」

 一息つき後方を木の影からそっと覗き見る。追ってくる様子はない。追ってこないからこそここを選んだ。ここは霧風きりかぜの森。絶えることのない霧と風が舞い踊る森。

隠れるのはうってつけの場所だ。安心して腕の再生が行えると判断したわたしは意識を斬られた腕へと集中させる。

「くっ……」

 激痛が体中を駆け巡り紅い煙が傷口から立ち篭める。そして骨格を再生。次に剥き出し骨格に筋肉繊維を再生し纏わりつかせる。最後に皮膚と爪を構築させて終了。そして徐々に繋がる腕の感覚。再生作業は数十分もあれば終わる。

「うん、いい感じ」

 再生したばかりの左腕を左右上下に動かし、さらに指も握り開きを繰り返し神経の繋がりを確認する。


 

 ……この再生こういをするたびに相変わらずわたしは人ではないことを思い知る。

 イヤだな……これだから、思い出したくないからあまり再生はしたくないのに……


 ザッ……


「!!」

 後ろから草を踏む音が聞こえた。瞬時に前方に走り距離を取り振り返る。

「バ、バケモノ……」

 そこに居たのは一人のわたしより年下の黒い髪にそれに合わせた黒い瞳の少女だった。バケモノ? ああ、そうか。きっとさっきの腕の再生を見られたのか。まあわたしはバケモノだ。否定はしない。

「ここはあなたのような女の子が来るところじゃないから。早く帰りなさい」

 わたしは促すとそのまま少女に背を向け歩き出す。

「待ってください!」

「なに?」

 わたしは振り返る。きっととても訝しげな表情で。

「あなたは……あなたは私を殺せますか?」

「はぁ?」

 質問の意図がわからなかった。殺せる? この子を?

「私を殺せますか?」

 真剣な顔で質問する少女。この子は殺害志願者か頭のおかしいイカれた少女か? と、わたしはまじめに考えてしまった。考えた結果私は言った。

「殺せない」

「どうして……どうして! バケモノなんでしょ! 私を殺してよ!」

 少女は怒号して食い下がった。わたしは意味がわからずたじろいでしまった。

「お願い! もう嫌なの……こんな体……死にたい……」

 少女は感情がこみ上げたのか泣き崩れてしまった。

「何があったか知らないけど、死にたいなんて思わないほうがいいわよ」

「切っても、切ってもすぐに治るの……」

 わたしは諭すように少女に死ぬなといった。が、少女は胸ポケットから小型の携帯ナイフを取り出した。

「ちょっ!」

 少女は無言で自分の手首を思いっきり切り裂く。

「見て……」

 そういうと少女は右腕をわたしの前に差し出す。傷口からドクドクと流れる鮮血。腕を伝い紅い雫となり落ちる血は地面を朱に染める。

「こ、これって……」

 ハンカチを取り出したのと同時に少女の手首から紅い煙が立ち込めた。

(まさか……そんな…!)

 数十秒。少女から昇っていた紅い煙は消える。恐る恐るわたしは少女の手首を見る。そして愕然とした。傷口は見事に塞ぎあんなに強く手首を切ったのに傷跡すら残っていない。

「ねぇ、バケモノなんでしょ? 私が死ねる方法はないの?」

 先ほどと変わってとても悲しい顔の少女がそこにいる。

「……その方法を知りたいの?」

 少女は俯きひとつ頷いた。ならばわたしから言うことはひとつ。

「じゃあ、この剣でわたしを刺しなさい」

「えっ……」

 少女の顔が強張る。わたしは持っていた剣を抜き少女の目の前へと放る。

「拾いなさい」

「あっ……うっ……」

 少女はガタガタを震えだし首を横にゆっくりと振る。

「できないの? 刺さないと死ぬ方法教えられないよ」

「でも、でも……」

「あなた死にたいんでしょ? ならバケモノ(わたし)を殺してもどうってことないでしょ?」

 少女はうつむき首を横に振るだけだった。

「そ、ならお手本を見せてあげる」

「えっ」

 わたしは落ちた剣を拾い上げ逆手に持ち返す。

「いい? 目を逸らさずしっかり見なさい」

 そして、わたしは剣を自分にめがけ突き刺す。

「ひっ……」

 しりもちを付いた少女は目を逸らさずに見入っていた。

 腹に刺さった剣は背中を突き抜けさらに力をいれ剣を根元まで深く刺しこみめりこませる。


 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。ものすごく痛い。メチャクチャに痛い。


 死ぬほどの苦痛に歪むわたしの顔は汗びっしょり、両手は血でべっとりだ。いいかげん痛いので剣を腹から引き抜き真っ赤に染まった剣を地面に放る。わたしは苦痛の表所で少女を見る。少女は呆けており顔はわたしの返り血で真っ赤だった。

「あんた本当に死にたいの? 死ぬ気も覚悟もないなら二度と死にたいなんて言うな」

 腹部の傷口から赤い煙が噴出す。ジュクジュクと血を垂れ流していた傷口が急激に塞がり傷が治癒されていく。

「あ……う」

 少女は目の前の惨劇を見て言葉がでないようだ。

「……わたしもあんたと同じよ」

 わたしはそう言った。

「わ、わたしと……同じ……わ、わたしも……バケモノ……なの」」

 少女が搾り出した言葉はとても悲しい声音だった。自分がバケモノ。そう、否定はしない。

わたしは、わたし達は人間ヒトじゃない。

「そう、わたしとあなたは同じ」

 膝を付き少女をやさしく抱きしめる。一瞬、驚きの表情をした少女は徐々に強張った血で染まった顔を緩めていく



「寂しくないよ。ひとりじゃないよ。だからわたしと一緒に行こう」



 抱擁を解いたわたしは血だらけの手を差し伸べた。

 自分でも思いがけない言葉だった。寂しくない? ひとりじゃない? わたしはいつもひとり。友達なんていらないし寂しいだなんて思ったことがない。それは強がり。寂しいくて、ひとりぼっちが悲しかったわたしの言い訳。ホントは寂しかった。ひとりはイヤだった。だから。この言葉はわたしの本心。


 少女は一瞬の逡巡の後、差し伸べたわたしの血だらけの手を握った。まだ戸惑った顔の少女はすこしかわいかった。血でべっとりだけど……


「服と顔、血だらけだね」

 わたしは自分の服と少女の顔と服を見て微笑みながら言った。ふたりともすごい血だ。まぁ……半分はわたしの血なんだけどね。わたしに限っては左腕の袖もない。

「近くに湖があるからそこで服を洗おっか? このままじゃ新しい服も買いに行けないし」

 少女は黙って頷く。わたしはハンカチで少女の顔を拭いて血をぬぐ

「よし、決まりそれじゃ、出発」

 剣を拾い鞘に収め歩き出す。

「おっと、そのまえに」

 歩み出した歩みを止め後ろにいた少女に振り返る

「わたしはベルカリア・アークハルト。あなたは?」

「私……私はサクラティス・エヴァンジェル」

「サクラティス……長い名前ねぇ〜短くしてサクラでいい? わたしはベルカでいいから」

 サクラはにっこりと頷く。そして私たちは歩みだした。これから長い間、永遠ともいえる時を一緒に歩く事になる少女とわたし。

「ねぇ……服を買うお金あるの?」

 サクラがお金の心配なのかそんなことを聴いてくる。最初から気になっていたのだがサクラの服装はここ一〜二年で最近の流行の服装だ。わたしはサクラの質問よりも先に自分の質問をぶつける

「サクラは不死人になってから何年なの?」

「……」

 しまった……マズい事を訊いてしまったと口を手で塞ぐ。人間が不死になるには悪魔からある実を授からないといけない。

「悪魔に……気まぐれで実を食べさせられたの……」

「そっか……」

 深く訊かなかった。訊けるはずがない。不死になる実を授かる方法。悪魔によって異なるのだから…… 


 湖に着いたわたしとサクラは服を洗う。っして火を焚き服を乾かす。

 その間わたしは、サクラに不死として生活する方法を教えた。お金がなければいけないことお金を稼ぐには接客業で稼ぐことを。接客業は人と接する仕事。服飾業は駄目。一番いいのは飲食業だ。食事中の団体さまはいろいろな情報が入りやすい為だ。でも、一番の理由はその年代の流行のファッションがわかる事だ。長い間生きていると服装のずれが発生する。あまりにもずれていると怪しく思われるのでその防衛作。

 ちなみに今わたしが着ている服装は旅人の服装なのだか細かいところは今、流行の小物やマントでかざっている。


 そして、その土地に三年以上いてはいけない事。


 これが一番大事だ。長い間ひとつの土地に居座るとその土地に愛着や、愛情が沸いてしまう。それはヒトにも言えたこと。いくらいい街やヒトであっても最高三年。それ以上はいてはいけない。別れが辛くなる。そしてなりより、周りは年を取るがわたしは年をとらないからだ。サクラもわかってくれたのか素直に頷いてくれた。


 数時間後、すっかり乾いた服を着て湖を後にした。そして、ここから一番近い街へと赴く。

もちろん隣にはサクラも一緒だ。


 蒼に広がる空を見る。永遠と思える蒼い空は雲ひとつなかった。


 これから永遠といえる時間をサクラと共にするだろう。時間はたっぷりある。少しずつサクラに教えていけばいい。お金の稼ぎ方と……わたし達が死ねる方法を……


オマケ/ある日の出会い・完



この作品を最後まで読んでいただいてありがとうございます。間宮冬弥です。この作品は前作の『宝箱設置隊』と違い暗めのお話となっています。

それと、少年の名前が最後までわかりませんがこれは少年が名乗るシーンが出来なかった為です。

一応名前があるのでここで紹介します。

名前は『ラミアリノ・イーリアス》です。たいそうな名前ですね(笑)

次回作はいつの投稿になるかわかりませんが見かけましたらまた読んでください。

 それでは、次回作で会いましょう。

最後に、この作品を最後まで読んでいただいた方誠にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは、時空道化師と申します。 儚くていいお話でした。 キャラクターの事を詳しく書かないところがまたいい感じです! 素敵な作品有難うございました!
2009/03/30 08:06 退会済み
管理
[一言] 楽しく読ませていただきました。 オマケのほうも、死んだ友との関係が補足出来ていて良かったと思います。 名前の件ですが、三人称視点なので出そうと思えば、いつでも出せたのでないでしょうか……。…
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