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村娘のノーラさん  作者: 松尾 京
二章 村娘、洞窟へ行く
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変人たちの探索

 ノーラはかたくなに帰還を主張したが、アルフォンスは受け入れず、洞窟を探索することになっていた。


 ノーラは鬱々としながら四人のあとをついていくしかなかったのだが……。

 大体、やっぱりこの四人はおかしかった。

 格闘家のサミーがまともなくらいで、あとは変人だ。


 タンス騒動を先導したらしい勇者――アルフォンスはここでも宝のことばかり話して、どこかに何かが落ちていないかと謎の期待感に胸をふくらませている。


 魔法使いだという少女は……ナディア、という名だと知ったが、変に明るい少女だった。

 戦闘狂か何かのようで、熟練度がどうとかわけのわからないことを言って、モンスターが出なくても杖から光を出したりして手近な岩を爆散させていた。

 ノーラはそれに何度か巻き込まれそうになって死にかけた。


 で、踊り子らしい露出の多い女に関しては……エリーゼ、というらしいが、そもそも戦う意志があるのかどうかすら疑わしかった。

 さっきもまったく戦ってなかったし。


 そもそもこの踊り子、見れば見るほど、水浴びでもするのかという格好だった。

 胸と下腹部だけを隠し、腰に薄布を巻いているだけ。

 原色でやたら華美なのが気になるし、とてもじゃないが魔王を倒すのに適した格好には見えない。


 大体――ノーラは今更ながらに気づいたが、踊り子の強調された胸が……マリアもかくや、というほどの存在感。

 腰のくびれや、全体のスタイルも……とても冒険者にはあるまじき。

 ふざけてるのか? とここだけごく個人的な感情でノーラは憤った。


 このエリーゼ、探索中にふと村の話を始めた。


「あのテトラ村を出てくる前にね、いくつかの家に寄ってみたのよ」


 何となくアルフォンスたちが聞いている中、言葉を継ぐ。


「村長の孫だか誰からしいんだけど。中々いい男がいたのよね。狙っちゃおうかしら」


 ノーラは、ぴくりとその話に反応した。


「お前はいつもそんな話ばかりだな」

「あたし見なかったな! どんな人?」


 アルフォンスとナディアがそういうと、中々だったから帰ったら見てみなさい、とエリーゼは返した。


「いい男、というか、かわいくてよかったわよ、あどけない感じで」


 値踏みするように言って、妖艶にほほえんだ。


 黙って聞いていたノーラは、ぐぐぐ、と歯がみした。

 何この人? あんたみたいなわけのわからない女性がユーリを云々言わないで欲しい、と憤慨しそうだった。


 と、エリーゼがノーラの表情に気付いて、言った。


「あら、あなた、どうしたの。……ああそういえばあの男の子とあなた知り合い?」

「……そうですけど」

「あの子と付き合っているの?」

「そっ、そんなんじゃありません……」

「ふーん、ならいいわね。今はあの村に滞在する予定もないし無理だろうけど、今度来たときにはありね」


 何がありなんだ? と思ったが、でもこれ以上続けるとやぶ蛇な気がしたのでもう、無視しておくのがいいと思った。

 そもそもが話の合わない人たちなのだ。


 ノーラは黙って苦行に耐えるように、勇者一行についてひたすら歩くのだった。




 ノーラは四人と一緒にいること自体もつらかったが……この洞窟は洞窟で、わけがわからない部分もあった。


 道が分岐し、その片方を探索しているときだ。

 その先は、ただ壁があるだけの行き止まりだったのだが……そこの床に、金ぴかの箱が置いてあった。

 ずいぶん大きくて、上部を開く形の、金庫か何かのように見えなくもない。


 それを見つけると、アルフォンスは歓喜した。

 駆け寄って箱を確かめる。


「宝箱だ。やっぱりあっただろう、見ろ」


 と、ノーラに言うようにして、箱をなでた。


「た、宝箱?」

「宝が入っている箱だ」

「は、はい? 宝……っていうか、それが、何でこんなところに……?」

「こんなところだからこそだろうが」


 アルフォンスは喜々として上部に手をかけ、開けようとした。

 ノーラはびっくりした。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。危なくないですか?」

「何がだ」

「い、いや、だって。変でしょ。こんな岩山の中で、明らかに浮いているじゃないですか。宝箱だなんて……何かの罠じゃ?」


 馬鹿いえ、と彼はためらいもせずに開けた。

 わっ、と思わずノーラは顔を隠して守ろうとしたが、何も起こらなかった。


 見ると、中には、なぜか消毒薬が入っていた。

 モンスター性の毒を解毒する薬剤で、町で売っていたり、村でも作っているものだった。


「な、何でこんなものが……?」


 ノーラはのぞき込んだ。

 他には何も入っていないらしい。

 不可解極まりない。

 誰かが設置して中にこんなものを入れたのだろうか?

 岩山に自然発生するわけがないから、人工物だとは思うが……これがある経緯がわからなかった。


 ただ、何かの罠ではないらしく、それはよかった、と素直に安心した。

 だがアルフォンスは気に入らないようで、不機嫌丸出しだった。


「ふん。消毒薬程度か。下らない、この通路に来たのは少なくとも無駄骨だったな」

「な、何でですか」


 変な事態ではあるが、放置されていた箱から一応は役に立つ道具が見つかったのだし、損したわけじゃないのに。

 消毒薬だって買おうとすれば安いものじゃないはずだ。


「売っているものが手に入ってもお得感はないだろうが」


 意味がよくわからなかった。

 そのままアルフォンスはきびすを返して戻りはじめたので、ノーラはぽかんとした。

 すると格闘家のサミーが、通り際に、通訳するように言った。


「アルフォンスは、レアアイテムじゃなきゃ意味ないと思っているのさ。少なくともこういうところで手に入れる宝はな」


 はあ、とノーラは何となく答えたが……それでも納得はできなかった。

 一体勇者というのは洞窟に何を求めているんだろうか?


 洞窟の構造自体にも、変なところはあった。

 ある通路から次の通路に行くのに、人工物のようなスイッチが用意されていて、それを操作して岩壁を開く、という場所があった。


 それだけならいいのだが、同じ装置が何回も連続して出てきたり、スイッチがフェイクでモンスターが出てきたりなど、妙に悪意が感じられるだけで何の意味が全くあるのかわからないシステムがあったりした。


 アルフォンスたちは興味深げにそれらを観察し、熱心に操作して通路を通過していた。


「ふむ。中々複雑だな」


 半ば楽しんででもいるかのようなアルフォンスの顔であった。

 ノーラはげんなりした。

 冒険者というのはこんなところを探索して楽しいのだろうか?


 いい加減、疲弊した。

 ここまでで数度、モンスターにも襲われていた。

 だいぶ我慢していたが、ここらが限度だとノーラは思った。


 灯りがなければ完全に真っ暗闇の通路で、ノーラは帰りましょうと四人を引き留めた。

 かなり真剣に訴えた。

 だが、アルフォンスは先を気にしながら言った。


「待て。雰囲気的にもう少しで最深部だ。あと数フロアだけ辛抱しろ」

「……雰囲気って何ですか、雰囲気って」

「もうすぐ終わる。あと少しだ」


 ノーラは認めたくなかったが……アルフォンスがあまりにしつこく言うので、はぁ、とため息をついた。

 まあ、こんなところまで来てしまったし、本当に数フロアで終わるなら、そのくらいは辛抱できないでもない。


 もしその先があっても、約束だと引き返せば問題ない。

 ノーラは渋々言った。


「じゃあ、この少し先までですよ」




 五人はそこから二つほど通路を抜けた。

 で、そこでも特に何もなかったので、そろそろ潮時だろうとノーラは言ったが……その細長い通路の奥まで進んだところ、アルフォンスがまあ待て、この先までだと制止した。


 通路の終わりに、丸くくりぬかれたような、次の薄暗い場所に進む入口が見える。


「少しこれまでと違うと思わないか」


 ノーラには違いも何もあるようには見えなかった。

 アルフォンスはしかし、一応ゆっくりとした足取りでその先に歩もうとした。

 皆が入りきる前に立ち止まる。

 カンテラで奥を照らすと、がっかりしたように呟いた。


「外れだったか」

「……どうしたんですか、あれだけ言って進まないんですか」


 後ろにいたノーラは、しびれを切らして、入口を通ってアルフォンスの前まで出た。


「行き止まりだ、見ろ」


 入口の先は、少々狭めの、壁が見えるだけで先がない、部屋のような場所だ。

 戻るか、とアルフォンスたちはきびすを返しはじめた。

 ノーラは喜んで、手を合わせた。


「やっと帰るんですか。待ちくたびれましたよ。そうですよね、もう十分探索はしたし」


 言いながら、入口を戻ろうとした、そのとき。


 ゴゴゴゴ……と、地鳴りのような音と揺れが発生した。

 直後――ごおん!

 上から大きな岩壁が降りてきた。


 それはすぐに入口を塞ぎ、通ってきた通路とこの部屋を分断してしまった。

 勇者四人が境目から足を踏み外した途端、岩壁が閉まるようになっていたとでもいうように。


「えっ」


 ノーラは、びっくりする。

 勇者たち四人は通路に戻っていたが、ノーラだけは一人、まだこの部屋にいたのだ。


「え、ちょ、ちょっと……」


 ノーラは動揺して、入口だった壁をぺたぺた触る。

 アルフォンスが壁の向こうから、驚いた調子で、おい大丈夫か? と言ってきた。


「だ、大丈夫ですけど……」


 だがアルフォンスの声色に余裕がないのに気付いて、尻すぼみになる。

 いやな予感がする。


『くそ、最深部はここだったか、失敗したな』

『ボス部屋だったんだね!』


 とかなんとか壁の向こうから聞こえてくる。


「あ、あのー、一体ここは……?」


 ノーラが壁に手をついたままでいると、今度は背後から轟音がした。

 振り返ると、ズズズズ、と壁が振動して、床に開いた大穴から――何かの黒い影が這い出てくる。


 魔法の力か何なのか、壁の石が光ってあたりが明瞭になっていくと……その影が見えた。


「ひ……」


 ノーラは目をうたがう。

 巨大な虫だ。

 今まで見たモンスターの中でも最大の大きさ――人の体の何倍もあるような、超巨大の芋虫か、ミミズのような濃色の虫だった。


 ずりずり、と胴体で這い出ながら、先端部分は巨大な口に鋭利な歯をずらりと生やしていて、隙間から粘液をぼとぼと、と垂らしている。

 赤一色の目玉が不気味に光る。

 これは、洞窟のボスモンスターであった。

 肩書き通り、洞窟で最強を誇る、ワーム型巨大モンスターのテラーワームだった。


 ぐし、ぐし、と音を出して数十本の足で動きながら、テラーワームはノーラのすぐ前に出てきた。

 ノーラと真正面で相対する。

 ノーラはしばらく固まってから振り返って、また戻った。


「……もしかしてモンスター?」

『ボヴァッ』


 ワームが口から湿った音を出した。

 ノーラの全身に冷や汗が浮き出る。


「え、わたし……モンスターと閉じ込められてる、の?」


 テラーワームは、ようやく気付いたかというように、ぐぐぐ、と胴体を持ち上げて触手を伸ばす。


『ヴォヴァァァアアアアアアアアアッ!』

「いやあぁーーーーっ!?」




 アルフォンスたちは、壁の向こうの音にふむ、と頷いていた。


「ボスが出たみたいだな」


 その点については間違いないだろう、と四人で意見が一致しているところだった。

 あーあいいな! とぴょんぴょん跳ねているナディアをよそに、きょろきょろと見回すアルフォンス。


「ボスを倒すまでここは開かないんだろう。ボス部屋に入る道が他にあるかもしれないからそっちを探す方がよさそうだ」

「あ、そうだね! ボス早く倒したいし!」


 ナディアはそれを聞いて嬉しそうに同意した。

 そうと決まれば早い。

 壁から離れて、通路を戻る方に歩き出すアルフォンスだった。


「おいおい、あの子を放っておいたままにするのか?」


 サミーはそう言ったが……しかしここにいてもどうしようもない、という三人の意見には逆らえなかった。

 サミーも名残惜しそうにしつつも、壁から遠ざかっていった。

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