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村娘のノーラさん  作者: 松尾 京
二章 村娘、洞窟へ行く
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武具屋の頼み

 ノーラはその足で武具屋に向かうことになった。

 道を歩くと自分も自称勇者の一味になったみたいでいやだったので、かなりの早足で進んだ。


 武具屋は近い。

 これも冒険者用なのか、わかりやすい剣と盾のマークの入った看板のある建物がそうだった。


 早速中に入ると、目の前にあるカウンターに近寄った。


「こんにちはぁ、グラントおじさ……ん、あれ?」


 ノーラは石床を踏んでカウンターの奥まで見つめるが……そこに人はいない。

 冒険者が来るようになってから、ここに詰めていることが多くなっているという話だったようだが、しばらく待っても誰も来なかった。


 扉は開放されていたのだが、店がやっているのかどうか、よくわからない状態だった。


 仕方なく一度外に出てから、裏に行って居住部屋のある方をたずねた。

 玄関を開けて、中に入ると、グラントおじさーんとノーラは奥に声をかけた。

 すると、ああ、と声が帰ってくるのだが、人が出てこない。


 不思議に思って、中に上がって奥の部屋に行くと……わっ、とノーラは立ち止まった。


 髭の太ったおじさんが、ベッドで寝込んでいた。

 武具屋主人のグラントおじさんだ。

 氷嚢を当てて、顔を赤くして苦しそうにしていた。


「グラントおじさん、どうしたんですか!?」

「ああ……ノーラ嬢ちゃんか」


 おじさんはくぐもった声で、横になったまま言った。

 ノーラの後ろに、アルフォンスたち四人もやってきてのぞき込む。


「嬢ちゃん、そちらの人たちは?」

「この人たちは冒険者なの。それよりおじさん、何かの病気?」

「……ああ。この前、行商と一緒に町へ行ったんだが、そこで何かの菌でももらったのかもしれん。危険な病気じゃないようだが、中々苦しい。あまり近づかん方がいいぞ」


 ノーラが心配そうに見つめていると、アルフォンスが気にした様子もなく顔を出した。


「主人、武器をもらいたいのだが」


 ちょっと、とノーラがたしなめるようにアルフォンスをにらむと、いいだろう別に、とアルフォンスは表情も変えない。


 ぐぬ、と怒りがこみ上げてきたが、それより先におじさんが答えた。


「冒険者か。残念だが、実は今、武器もちょうど切らしていてな」

「何?」

「最近は冒険者が何人か来てるし、材料が底をついちまってね。俺も売りたいのは山々だが。……南の黒岩石の洞窟にある鉄鋼。それがうちの武器を作るには必要なんだよ」


 でもこの体じゃ動けなくてね、と続けた。

 ふうー、と息を継いでからおじさんは言う。


「後日来てもらえれば用意するよ」


 するとアルフォンスたちは、何かを仲間内で話し合って顔を向けた。


「いや、元々長々と滞在するつもりはないんだ。ないなら別に構わないが」


 なっ、とノーラはちょっと眉をつり上げた。


「ちょっと待ってくださいよ。買ってくれるんでしょう?」

「ないと言うならしょうがないじゃないか。一番上等のものを買うつもりだったが」


 すると、寝ていたおじさんが、ぬ、と少し表情を変える。

 だるそうに起き上がってきた。


「待て、買うというのなら、こっちだって売りたいぞ」

「そうそう、約束でしょう」

「だが材料がないのならしょうがないだろう」


 グラントはむむ、とうなるようにして考えた。

 疲れた顔のまま手を突き出す。


「いや、今日中に材料を用意する。明日には病気も快方に向かいそうだから、明日には用意できるはずだ」

「えっ? でも、グラントおじさん。……その体じゃ材料取りに行くなんて。洞窟って、遠いし、モンスターも出るんでしょう?」


 そんなふうに話していたが、途中でノーラは、おじさんがじっと見てきているのに気付いた。

 いやな予感。


「そういうわけで嬢ちゃん。洞窟へ鉄鋼を取りに行って欲しいんだが」

「えー、何で、いやですよ!」


 予想通りなので即座に否定するが、それも想定済みだったかおじさんは口を継いだ。


「他に若いものなどいないしさ。チャンスに客を逃したくないんだよ、わかるだろう?」

「そりゃ、わかりますけど。っていうか、若いものって……」

「農作業ばかりのじいさんたちにあの洞窟は無理だよ。断言できる」

「いや、それはそうですけど。そのぉ、若いのは、別にわたしだけじゃないですよね……」

「ユーリのことか。実は言うと、あいつはな、俺が病気をうつしてしまったみたいで、寝込んでいるよ」

「えっ……そうだったんですか」


 だから何日か村で見なかったのか、と今更ながら気付いたノーラだった。


「動ける大人は畑の耕作に、収穫がある。建物の建築も今してるし、夏の悪天候で上流の橋が脆くなったろ、あれの修理もあって、手が空いている人はいないんだよ。マリアちゃんは酒場に出ずっぱりだし、ノーラ嬢ちゃんしかいないよ」


 ふうん、と思って、はっとした。

 なんか言い訳の中にさらっと混ぜ込んでいたが、マリアだけアリバイが薄弱に過ぎないか。


「別に、マリアさんを引っぱってきてもいいのでは……」

「いやあ、マリアちゃんはそういうのは無理だよ。かよわいから」


 ムカッ。

 あからさまにマリアに甘い。

 いや、今に始まったことじゃないが、魂胆が透けて見えている。

 わたしはかよわくないのか、と言いたかったが……。


 でも、だからといって、マリアに洞窟に行け、というのも確かに酷な気がする。


「あ。そうだ。この勇者さんたちに行ってもらうのは……」

「まあ、どっちみち洞窟への道案内は必要だろう。村のもんしかあの場所は知らないだろうしな」


 ぐっ、といらだちを押し殺すノーラ。

 またこんなパターンか。

 とはいえ、勇者をこのまま開放するものいやだった。


「じゃあ、ついてきてもらいますからね。あなたたちに」

「洞窟か。悪くないな」

「……ちなみにわたし、村の外のモンスターとか、倒せませんからね。その辺は大丈夫なんですか」

「心配するな。この辺のモンスターなど、俺たちには雑魚ばかりだ」


 そんなふうにすぐに了承してくれる勇者たちだったが……何となく盛り上がっている勇者たちの姿に、ノーラは不安しか覚えなかった。




 ノーラは出発前に我が家によった。

 一応、村の外に出かけることになるので報告だ。


 ジェフは心配そうにノーラを見た。


「大丈夫かい。ノーラ、洞窟だなんて……」


 クリスティーナも、やめた方がいいんじゃない? としきりに言った。

 やめられるならそうしたいところだとノーラは思った。

 でもこれ以上心配させると代わりに自分が行く、と言い出し兼ねない両親だったので、ノーラは大丈夫、と言った。


 するとジェフが自室から銀色のエンブレムのついた、きれいな首飾りを持ってきた。


「お守りだよ。何かあったときのためにね」


 何かって何だ……と思ってちょっと怖かった。

 ただ、きれいだし、親からの贈り物なのでありがたくつけた。

 これが何かあったときの助けになるのかはわからなかったが。


 そう思っていると、さらに容器に入った液体を取り出してきた。


「傷の回復薬だよ。けがしたら使いなさい」


 言って渡してくれた。

 高くて中々一村人にはストックできないものである。

 ノーラは大切に受け取った。


 洞窟に行ってすぐ帰ってくるだけだからこんなものは必要ないはずだったが……というかそう信じたかったが、それでも一応、万が一があるのだ。


 そしてノーラは別れを告げ、家を出たのだが。

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