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村娘のノーラさん  作者: 松尾 京
四章 村娘、最後の戦いへ
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パーティと目的

 ある日、ノーラは畑を耕していた。


 日が経つにつれて、けがもよくなって、仕事や家の修復に出る人は多くなっていた。

 村はそれなりに活気を取り戻していた。

 けれど、ノーラの忙しさはまだまだなくならない。

 そんなふうに畑の中で立ち回っているお昼頃だった。


 畑の向こうの家々の方が、騒がしい様子だった。

 何だろうと思って、仕事を止めて見てみると、村人が少し村の入口の方向に歩いて行っているのが見えた。


 誰か来たのかな……と思って、ノーラははっとした。


「もしかしてモンスターじゃ……」


 顔を青くして、農具をその場にほっぽり出してノーラもそっちに走り出す。

 で、家々のある方にやってきたノーラだったが……モンスターがいるわけではなかった。


 村人は数人が集まって、道のひとところにいたが剣呑な気配はない。

 代わりにいるのは人間たちだった。


 ぱっと見、村人ではない感じで、変わった服装をしている複数人だった。

 ノーラは……何となく、その時点で少しいやな予感はしていた。

 おそるおそるに近づいていくと……その数人の人たち、何だか見覚えがある気がしないでもなかった。


 四人連れの、冒険者風の旅人たちで――って。

 ノーラは、顔をゆがめて立ち止まった。


「あ、……あの勇者パーティ」

「おお。あの洞窟のボスを退治した村娘か」


 先頭の、剣を腰に下げ、逆立った髪をした戦士風の男――アルフォンスが言った。


 間違いない。

 あの洞窟の時の自称勇者たちだ。

 周りの村人たちもそういえば、と気づきはじめて、何となくノーラと彼らを交互に見やって、観察していた。


「な、な……何でまた、この村に」

「用があったから来たのだ。当たり前だろう」


 特に感動も何もなさそうな、不遜な態度と表情で言うアルフォンス。

 見ると、彼は以前とは違う、何だかぱりっとした服に甲冑を着けて、よさげな装備をしていた。

 が……中身は変わらずのようだ。


 勇者の他の面々を見ると、あの魔法使いのナディアに、それからあの踊り子のエリーゼもいた。

 エリーゼはきょろきょろと誰かを捜すようにしているが無視するとして、四人目は……サミーじゃなかった。


 クビになったと言うのは本当だったらしく、サミーの代わりに、二本の剣を背にクロスさせて装着している、優男風だが強そうな剣士がいた。

 サミーが少しかわいそうになったが……だがまあ、それよりも、ノーラはアルフォンスの言葉と態度にむっとしていた。


「村娘。あれからお前も強くなったのか?」

「んなわけないでしょう。洞窟ではあなたたちのせいで闘う羽目になっただけなんですから」


 そこでノーラは思った。

 村が大変なときでみんなが必死だというのに、この冒険者たちがやたら悠々とした態度をしているのが、何となく自分は気にくわなかったのだ。


 アルフォンスは見回しながら言った。


「村の周辺に詳しい人物はいないか? 冒険を進めるのにどうしても必要なんだが」

「冒険……ですか」


 要するに、また自分勝手な事情で来ただけらしい。

 そうわかると、またイラッとした。

 ノーラはつんけんとして腰に手をあてた。


「あのですね、いきなり来て言われても、大体そんなに暇な人はいません。今大変な状態なんですからね、うちの村」

「大変な状態?」

「家も柵も、木も倒されたりして、大変なんですよ。モンスターが急に凶暴になって、村まで襲うようになってきたんですから」


 するとアルフォンスは……なるほど、そうだろうなと顎をなでたりしていた。

 それにまたまたむっとするノーラ。


「あのー、大体、今更勇者様がうちの村に何の冒険をしに来たんですか。……こんなときにのこのことやってきて。もっと早く来てくれて、襲ってきたモンスターを倒しでもしてくれていたら……少しでも勇者らしい働きをしてくれていたらっ。うちの村はこんなことにならずに済んだかもしれないのに……」


 思わず、声が大きくなってしまう。


 彼らに言うのはお門違いだとは、自覚していた。

 本来、無関係な人間だし、襲ってきたのはモンスターであって彼らではない。


 でも、面倒ばかりおしつける彼らが、何の権利があってこの村を頼ることができるんだ、という気もしてしまった。


 アルフォンスは、別に何か言い訳をしたりはしなかった。

 だが、かといって謝罪するでもなく――それより、全く予想外のことを言うのだった。


「だからそのために来たのだ」

「……へ? 何?」

「モンスターを倒すというよりは、モンスターの原因、根源そのもののためにな」


 ノーラが何のことだかわからないでいると、アルフォンスは少々まじめに言った。


「モンスターの凶悪化も速まって、俺たちはそれなりに急いで世界を旅して来た。そして各所で魔王についての情報も得てきた。……それで、最終的に、魔王の居城がこのテトラ村の近くにあるのを知ったのだ」

「ま……魔王」

「そうだ。まさか序盤に近いこのあたりとはな、灯台もと暗しというやつだ」

「気付かなかったけど、よく考えたらありがちだよね!」


 ナディアがあははと笑った。

 何がありがちなのかは知らないが、ノーラはぽかんとした。


「いや、魔王の居城? とか、そんなのは……ないですよ? 近くには……」

「目に見える形でわかりやすく存在するわけはなかろう。隠れているのだ。――古代勇者は曇らぬ真実の瞳で魔王の城を見つけたという伝説があるが……大昔に魔王を倒した勇者が討伐前最後に逗留したのがこの村だという伝説もあながち嘘ではなさそうだ。勇者が遺産を残した場所というのは本当かもしれないな」


 遺産という言葉を楽しげに語りながら、アルフォンスはノーラに向いた。


「まあ、ともかく魔王城は確認しておきたいからな、それで村の周囲を案内してもらいに来た」

「案内って……でも、そんな、魔王の城だなんて……」

「どうやら日の出の丘、という場所にある空間のひずみが怪しいらしい」

「えっ……日の出の丘?」


 ノーラは驚いた。

 そういえば……日の出の丘にそういうものがあって、そこからモンスターが湧いている可能性がある、と村長も言っていたっけか?


 それが本当だとしたら……モンスターの諸悪の根源が魔王だというのなら、確かに魔王の居場所があっても変ではないんじゃ……?


「それで、その丘に案内して欲しいのだが。ふむ、見れば確かに、村人はけが人が多いようだ。ならばちょうどいい、村娘、案内してくれ」

「え……わたしいぃ? またぁ?」


 ノーラは、反射的に最高に不機嫌な声が出た。


「なんかあればわたしじゃないですか。もう勘弁してくださいよ。……大体、魔王を倒そうとかいう勇者なんでしょ、あなたたち。わたしが案内しなくても、モンスターを退治しながら自分で見つけてくださいよ。東の森の中にありますから」

「むろん、自分が探してもいい。だが、魔王を少しでも早く倒すには、知っている人に案内してもらうのが一番早いのだ」


 そのときだけ、どことなくいつもより真剣に見えるアルフォンスだった。

 言っていることは正論である。

 確かに日の出の丘は入り組んだ中にあり、知らない人にはわかりにくいところにある。


「無理と言われればまあ、自分たちでまた探すが。時間も惜しいしな」


 ノーラは、少し黙った。


 村を見た。

 自分が町から帰ってきたとき、この村は既に傷ついていた。

 自分は何もできなかった。

 何となく、そんなふうになるのはもうイヤだ、と思った。

 自分にできることがあるなら、まあ、いいかもしれない。


「わかりました、行きましょう。丘への案内だけですよ」




「じゃあお父さん、お母さん、言ってきます」


 ノーラは、両親に挨拶して、玄関に立った。

 いつものように簡単な準備をして出ていくところだった。

 ジェフとクリスティーナは心配そうに言った。


「気をつけるんだよ」

「モンスターはあの勇者パーティが撃退するから大丈夫。すぐに帰ってきます」


 二人ともう一度抱き合う。

 そうしてノーラは家を出た。

 村の入口近くで待っていた勇者たちと合流するとすぐに出発することになった。


 もう二度と一緒に行動したくないと思っていた人たちなのになぁ……と憂鬱になるが、これも村のためだ、と自分に言い聞かせた。




 アルフォンスたちと村の外の平原に出て、さあ行こうということになったが……ノーラはその前に聞いた。


「魔王の城に行くということでしたけど。魔王をその、本当に倒すんですか?」

「場合によってはな。倒せそうならそうするが、とりあえずは少し探索するだけのつもりだ。まあ、レベルは十分なはずだが」


 淡々とアルフォンスは言った。

 何をもってそういう判断なのかわからないが、本人がそういうならそうなのだろう、とノーラは思った。


「って、魔王城というのに勇者さんたちが言ったら、わたしはどうするんですか? さすがに付いてこいとはいいませんよね」

「日の出の丘までの案内だけでいい」

「じゃあ帰りはわたし一人になるんじゃ……」

「大丈夫だ。そのために、もう一人仲間を見繕ってきてるところだ」


 へ? とノーラがきょとんとする。

 アルフォンスたちは……歩き出さずに、村の前で止まっていた。

 何かを待っているようにも見える。


 そこでノーラはふと、魔法使いのナディアがいないことに気付いたが……。

 ――キィイインッ! 突如、大音が鳴って、村の前に光がほとばしった。


「きゃああ、何!?」


 あまりのまぶしさに目をふさぐと、その人間大の光は、徐々に収まっていく。


 ゆっくり手をどけて見ると……そこにナディアが立っていた。

 それだけではない。

 ナディアの隣に、こちらも今まで影も形もなかった人間……武闘家のサミーが立っていた。


「え!? あ、サミーさん!?」


 よう、嬢ちゃん、とサミーは相変わらずの武道着で手を振った。

 ノーラがあんぐりとしていると、アルフォンスは言った。


「サミーに帰りは送らせる。これでいいだろう」

「え、あ、いや、いいですけど。っていうか、今のは何ですか、今のは」

「今の? ああ、魔法のワープだ。さあ行くぞ」

「さらっと流さないでくださいよぉ! 何なんですかワープって。そもそも、それを使っていろんなとこに行けば、わざわざこんなに歩く必要ないんじゃ……」

「馬鹿いえ。ワープは限定的で、村や町の行き来にしか使えん。今のだってサミーがフィルトラントにいたから使えたんだ」


 それでも、魔法のでたらめさに混乱していたが……サミーを見る。


「サミーさん、まだ町にいたんですね」

「まあな。ほとんど定住してたよ。ナディアがノーラの送り迎えのためについてこいって言ったのは驚いたよ」


 ナディアがえへん! と胸を張った。

 自慢するところなのかどうかはわからなかったが、とりあえず、クビにされたのに一時的に利用されているサミーが微妙に悲しく思えた。


「わざわざすみません、サミーさん……」

「いいってことよ」

「サミーは、一時的にでもパーティ入りするわけだからありがたく思ってもらおう」

「あんたは黙っててください!」


 何だか申し訳なくて、アルフォンスたちは相変わらずで、既にちょっと疲れはじめていた。

 ああ、やっぱり間違ったかな、と早くも思うノーラなのだった。

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