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村娘のノーラさん  作者: 松尾 京
三章 村娘、都会へ赴く
13/25

再会そして

 ノーラとサミーは、街路を歩きながら話していた。


「突然だからびっくりしちゃった。町にいたんですね」

「まあね、驚いたのはこっちも同じだが」


 横に並んだサミーは、あのときと変わらぬ武道着姿で、頷いた。


「まあ気持ちはわかる。この町はいいよな」


 うん、とノーラは頷く。


 知っている人に遭遇した驚きも手伝って、会話は弾んだ。

 サミーはざっくばらんで、何となく気兼ねない空気があって、ノーラは悪くない気分だった。


 あの勇者たちのうちの他の誰でもなく、サミーでよかった、と心底思ったりした。


「サミーさんはあの勇者……アルフォンスさんたちと一緒に?」

「いや、俺は今は一人でぶらついてるんだ」


 他の勇者たちはどうしたんだろうか、と思ったが……そこで、不思議に思う。


「そういえば、どうしてこんなところにいるんですか?」


 勇者が仮にも魔王討伐を目標にしているのなら、あの洞窟の件から結構経っているのに、近場のこの町にいるのは変な気がした。


 魔王というのがどこにいるかは知らないが、実際、ずっとこのあたりをうろうろしていても仕方がないはずだ。


 サミーはそれで、ふむ、と少し会話を切ってから言う。


「実は洞窟の件のあと少し経ってからだが。俺はあのパーティをクビになったんだ」

「えっ、くっ、クビ!?」


 そんなシステムが勇者パーティにあったのか、と思った。


「な、何でまた、サミーさんが……」

「そりが合わなかった部分があったのかもな。アルフォンスとの仲が芳しくなくなってな」

「はあ……」

「意見の衝突が多すぎたんだよ。それでクビさ。アルフォンスはどちらかというと、唯我独尊タイプだからな」


 いや唯我独尊そのものだろう、と思うノーラだった。


「でもそれにしてもクビだなんて……その、唯一まともそうだったのに」

「ま、しょうがないさ。それであれから俺はパーティもないし、魔王退治はとりあえず中断して……修行しながら町に滞在しているのさ」

「そうだったんですか……」


 何とも言えないでいると、サミーは笑った。


「何、心配しなくても平気さ。中々気楽だぜ」

「それは……まあ、あの、あの人たちから解放されれば、そう思いますけど……」

「それもあるが。町自体も楽しいのさ。面白い催し物もあるしな」


 そこでにやりと意味深に笑うサミーだった。


 ノーラはきょとんとした。

 するとサミーは何かを思いついたようになる。


「そうだ。ちょうど明日にもあるし、いいタイミングだよ。ノーラ嬢ちゃん、行ってみないか? かなりの人が集まって、見るだけでも盛り上がるぜ」

「何ですか? それ」

「嬢ちゃんはまだ行ったことないのか。何、要はブトウカイだよ」

「ブトウカイ」


 得意げなサミーの言葉に、ノーラはちょっと驚いた。

 そのひびきに感動したようになると……またにやにや笑いを浮かべた。

 そして夢見心地に仰ぐ。


「そうですか。『舞踏会』かあ……」

「見てもいいが、嬢ちゃんなら出ても結構いけるんじゃないかな」


 ノーラは照れて手を振った。

 思ってもいないような口ぶりで言う。


「わたしならって……。やだそんな、わたしなんてたいしたことないですよー」

「まあ無理強いはしないさ。以前のようなこともあるしな。けど、見るだけでもどうだい? 明日俺は行くつもりだから、暇ならついてきてもかまわんぜ」


 ノーラは、それに対してくふっ、と笑みを浮かべた。


「えーもしかして誘ってるんですかあ? サミーさん。やーだ、なー」

「誘ってるというかまあ、出たら面白そうだなとは思うが」

「でもお、わたし、そういうお洋服とかないし……」

「そういうのは向こうで借りられるぜ、ある程度は」


 するとノーラは迷うそぶりをしつつ、じゃあとりあえず行くだけ行きます、と答えた。


「おお、じゃあ明日、一緒に行くか。……さて、俺はこれから用事があるからいかなくちゃならん。会うのは明日だ。落ち合ってから行こうぜ」


 サミーは立ち上がって、待ち合わせ場所を言って去っていった。


 残ったノーラは夢想したような顔で、舞踏会かあ、経験ないけどどうしよう、でもうまくいくかな、わたしなら……と誰もいないのにしゃべりつづけていた。


 とりあえず引き受けてしまったものの、考えると、明日が楽しみでしょうがなくなった。


 いや正直な話、何となく違和感を覚えないでもなかった。

 だがそれを打ち消してノーラは完全に期待感に乗っかっていた。

 悪い方の可能性を全く考えないことに関しては今のノーラの右に出るものはなかった。




「ってそっちの武闘会かよおおおおおおおっ!?」


 大会場前の大通り、私兵に守られた入口の前でノーラは地面に突っ伏した。

 横に立っているサミーは困惑したように見るばかりだ。


「どうしたんだ、嬢ちゃん?」


 まわりの人が何だ何だ? と見たりしてきている中、ノーラは『フィルトラント武闘会』の看板を指した。


 ノーラが未探索だった町の北方、町のどの広場よりも大きい敷地を囲った会場だった。

 観客席が円形になっていて、中央の舞台は野外のようだ。

 既に人が多く集まっていて、大盛況の見通しだ。


 ノーラはそれを見て叫声を上げる。


「戦うやつじゃないですか! あれ!」

「え? そりゃ戦うだろ武闘会だし」

「いや、だって。普通舞踏会だと思うでしょ!?」

「嬢ちゃん、何言ってるんだ? だから武闘会だろ?」


 だめだ話が通じていない。


 大体、変だとは思っていたのだ。

 貸衣装屋の前でノーラが、『向こうで借りられるとはいってもやっぱりこういうところでいいのを着ていった方が……』と言ったあと、サミーが『服装なんかにこだわってもしょうがないだろ』と言ったとき。


 違和感はあったのだ。

 追及しなかったノーラが悪い。


 ノーラは武闘会の観戦に向かう人波の中で悲しみに暮れた。


「こんなのってないよ。わたしの喜びは何だったの。格闘大会に誘われてたなんて……」

「何だかんだで洞窟のボスも倒した嬢ちゃんだし、結構行くと思ってな」

「ワームの話はやめてください」


 ノーラはそこだけ真顔で言うと、毅然として立った。


 看板を見上げると、当日受付は急げ、というようなことが書いてある。

 数歩進んでその先をのぞいてみると、戦士風の男たちが何人か並んでいる。


「大体、武闘会って何ですか」

「そりゃこの町の名物だよ。嬢ちゃんは町に来て日が浅かったっけ」


 誇らしげに語るサミーである。


「この辺じゃ有名さ。当代一の腕自慢が集まってトーナメントで頂点を決める。町の一大イベントだよ。昔冒険者だった町長が開催してて、優勝者には結構いい賞品も出るらしいぜ」


 ノーラは何だそりゃ、と剣呑な顔になるだけだ。

 腕自慢が集まって、ぽかぽか殴り合って、強さを決めてどうするというのだ?


「大体当代一の腕自慢がそんなにいるなら、大会なんてやってないで出場者で大挙して魔王討伐に向かえばいいじゃないですか?」

「いや、まあ、そうだな。というか俺に言われても。冒険は気の合った者のパーティ単位の方がいいと思うし……」


 ノーラは、魔王退治にそんな悠長なこと言っている場合かと言いたくなった。


「じゃあ本当にただ人たちが戦い合うだけですか。この催しって」


 はあと息をついて、顔をしかめた。


「こんなところに喜んで来てしまったなんて……。帰りましょう」

「あれどこ行くんだい。出ないのかい? せめて見るだけでもいいのに」

「もー、やですよ、戦うのを見て何が面白いんですか」

「ええ? ここまできたんだし興味津々かと思ってたんだが……」


 当惑したようなサミーだったが、とにかく帰りますとノーラは歩み出した。

 こんなところ一秒だっていたくないのだ。


 ふと横を見ると、前の方で並んでいた戦士たちが受付を終え、奥の通路の先にある建物に進んでいっていた。

 そこに、受付をしていた町民らしき一人が、サミーの風貌を見て急いで近づいてくる。


「参加者だね! さあさ、当日受付はそろそろ終了だから急いで!」


 言いながら、サミーとノーラの腕まで一緒に引っぱってくる。


「な、何するんですか」

「名前は? あなた」

「え、の、ノーラ」


 そっちのは、と彼が言うと、サミーも名乗った。

 彼は、ノーラさんにサミーさんね、と紙に走り書きすると、ぐいぐいと二人を引っぱっていった。


 で、二人は二手に分かれた通路の一方に連れて行かれ、押し込むように奥の建物に入れられ――バタン。


 ドアが閉まり、ガチャと外から鍵がしまる音が聞こえた。

 ぽかんとしたノーラは……困惑して見回す。


「え……何? え?」


 少々狭い部屋で、反対側に大きな扉がついている。

 壁には剣やら斧やら、鎖帷子やらなどがかけられていた。

 ちなみに、中は先ほどの戦士風の男たちですし詰めだ。


 たら、と汗が垂れる。


「な。何が起こったんですかこれ」


 入ってきたドアの方を見ていると、サミーが見回してから言った。


「ここは控え室だな。どうやら武闘会に参加することになったようだ、嬢ちゃん」

「え、は、ちょ……」


 しばらく混乱してから、さっと顔を青ざめさせて、ノーラは扉をどんと叩いた。


「何で!?」

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