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前半は少し下品かもです;
後半は……うーん。大幅修正は常です; 納得いくものではなかったら、変えてしまう習性があります。あしからず。。
透き通るような絹のカーテンは微かな風にてふわりとはためき、清涼感溢れる香りが室内に広がる。
繊細な刺繍入りの掛け布は人肌に優しいふんわりとした感触で、包み込む者を一夜の安らぎへと誘う。
豪華な部屋にて竜騎士タシュバと一晩を明かした。
卑猥な男女の意味ではなく、子供がぬいぐるみを抱きしめて眠るアニマルセラピーである。どうやら抜群の効果を発揮するらしい。相手は超熟睡しているようだ。
どこの世界でもモフは最強なのだろう。だがしかし、自分だってモフを感じたい方だ。触れて悶えて至福の時を感じたい。同じ立場なら、自分もタシュバと同じ行動をしただろう。
「うにょ……本気でぐるじいにょ。ふーは、ふーはっ!」
椿は苦笑いしていいのか判断に困った。
タシュバに抱き枕されている。たくましい二の腕と胸板が、雪うさぎである椿の体を押しつぶしているのだ。
竜騎士だけあって豪腕で筋肉が固い。間近で見たなら乙女なら恥じらう。だが今は、そんな慎ましやかなのはいらない。
椿の体をクッションのように丸めて伸ばして頬ずりするのだ。マシュマロを堪能しているのか、それとも女性の胸を揉む感じで遠慮なく接しているのか――エロいなタシュバと心の中で罵ったらば、ピンク色の垂れ耳を甘噛みされて思わず悲鳴をあげた。
「ふー、ふー、勘違いしてはならんにょ。タシュバは子持ち!」
深緑の山中でタシュバと出会った当初、聞いてもいないのにあれこれ身の上話を聞かされた。子供を産んだ後、妻を亡くしたと。その子供も歳は十になり、騎士見習いになっているとか。
「……子持ちの男性なんだから……勘違いは、よくあるにょ」
押しつぶされながら椿は考えた。忘れたいほどの恥ずかしい想いを、人間だったときにした事がある。過去はすでに捨てたが、以前の教訓を生かして恋心は封印したかった。
「タシュバめ、覚えてろにょ……す~~~~ニョォォォ~~~~!!!」
朝のおはようめざましは椿の神声から。
振動する咆哮のようなものを喉奥から絞り取る。ドラゴンのようなイメージで発すると、上手くいくんじゃないかと発声したら見事に的中。家具がガタガタと激しく揺れ、壁に掛かれた置物絵の肖像画がずれ落ちた。並みの振動ではないのだろう。ベッドも激しくスプリングをうっている。
「ニョォォォ~~っ! おっ? ふげにょっ」
遠く離れた神国へも届く、艶やかなるこの美声。
耳をかっぽじって有り難く聞き入れろと、丸い体を逸らしてふんぞり返る。その際、柔らかすぎるシーツの上で、庶民丸出しの椿はコロりと転げた。
「うあっ、なんだ、敵集かっ。オーガの叫び声がっ!」
ベッドから転げ落ちたタシュバは枕傍に控えておいた武器を手に持ち、素早く辺りを探る。しかし、中型の竜よりも小さい、ひっくり返った雪うさぎしか寝所には居なかった。いきなり神声を発した椿に何事かと近づいたタシュバは、不機嫌な面持ちの椿を覗き見た。
「……言うに事欠いて、あの美声をオーガと言ったにょ? もう一回、言っても良いにょ?」
目の下にクマをこさえて、目付きを悪くし、口を歪めてペッと吐き捨てていた。いつものつぶらな瞳を糸目のように据わらせて凶悪な顔付きとなっている。
慌てて体勢を整えたタシュバはもう叫ぶなと椿に懇願した。耳鳴りがするのか、耳を押さえて頭を擦っているがまだ止まないらしい。平衡感覚は狂ったままだ。体はよろけ、壁に寄りかかる始末である。
「ツキぃ、加減しろよ。今ので鼓膜がイカレただろう。使い物にならなくなったらどうしてくれる」
「今のは6割も抑えたにょ! ぜんぜん本気を出してないもんね。てか、タシュバが私を押し潰そうとして起きてくれないから叫んでみただけにょ。私は悪くないにょ!」
椿が逆切れして怒髪天を起こす。
ピンク色の垂れ耳が上を向き、再び大きく口を開ける仕草をすれば、タシュバに宥められた。
これから竜王の所へ朝の挨拶をしに行こうというので、しぶしぶ怒りをおさめた。二人揃って仲良く顔を洗い、支度する。ドアから出た先に竜騎士隊員たちが居たので不思議に思いながら、挨拶して通り過ぎた。
椿の神声を城内で聞いた騎士隊員達が押し寄せ、朝から始まった二人の激しい情事だと勘違いするものが多数いた。うぶな隊員達がそろって顔を赤くして、ドアを開けてもいいものかどうか押しつけ合っていた事を、二人は知らない――
*****
「おはよう二人とも。朝からお盛んだったんだって? で、どっちが攻めで受けなんだい?」
「「ブ――――――ッ!」」
竜王から一緒に朝食をどうかと誘われて、椿とタシュバの二人が長いテーブルの椅子に座った時の事。居城の主、ノティス・ハルバーンから一撃を浴びた。
お子様用の椅子に座った椿は、パンを小さく千切ってモムモムと食していたものを、スープが入った皿の中に吹き出した。
三角エプロンを椿に括りつけ終えたタシュバは隣に座り、口に含んだコーヒー色の飲み物を椿目がけて吹っ掛ける。顔をそむけたためか、椿の顔にも浴びせてしまう――静寂の中、まだら模様な茶雪うさぎを見てまた吹いた。
「ぶっふっ! げほっ、げほっ、りゅ、竜王、その、話は、どこからっ、げほっ」
「タシュバ、幾らなんでも吹きすぎ。私はさっきからベトベトにょ! 竜王しゃんも……そんな話は嘘ですからにょ。誰からの話か知らないですが、信じないでくださいにょ」
コーヒー飲料に似たようなものをタシュバが飲んでいたので、椿の顔半分は茶色く、まだら模様になったままだ。 白い清潔な布巾で椿の体にかかった物を、己の竜騎士が拭き取ってるのを見て、甲斐甲斐しいなと微笑ましくされている。おぼろげに見えるは、終始笑顔の竜王だった。
「聞いた情報によるとどちらかが押し倒したそうな。しかも全然本気を出していないとも。抑えたらしいけど、使い物にならなくなるまでって、……あー、竜騎士は通常の人間よりも鍛えてるから、体力はすぐに回復するし、そっちの方は心配しなくていいよ、ツキ」
自分に向けられた言葉だと悟った瞬間、茶雪うさぎの体が湯でダコのように赤くなった。いたたまれなくなった椿は視線を下に向ける。一万二千歳の古竜じじぃめと毒付きたくなった。
「タシュバにも2度目の春が来たか。奥方を亡くされて十年経つだろう、もう、誰かと添い遂げる事はないと思ってたんだが、いや、本当に良かった。これでツキが受け入れてくれれば万々歳だよね。で、マイホームはどこに建てるんだい?タシュバの今ある屋敷に住むのもいいね。増築する?」
「竜王……」
「にょにょっ!」
ちょっとどころか、かなり違うが、欲しい話題がやっと来た。と、椿は話題を変えて竜王に訊いてみた。雪うさぎ帝国を創ってみたいと。自分の夢は、自分だけの家族と居場所が欲しいのだと切望する。
黙って聞いていた竜王は、飲みほした空のグラスをテーブルに置くと椿に提言した。
「雪うさぎ帝国って言ったよね? 君以外の仲間、しかも雪うさぎが欲しいんだよね。では、君以外の雪うさぎはどうやって増やすのかな?」
「そ、それは……にょ……」
「ノティス」
「君以外の雪うさぎを私は見た事がないって、前に言ったよね。初代しか見た事がないって。当時の雪うさぎは、この世界にはもう存在しないとアトラスじいさまからも教えてもらったよ。雪うさぎも一匹しか見た事がないってね」
椿はしょぼくれる。
タシュバには、村くらいなら出来るかもとやんわり諭され、竜王からはどうやって仲間を増やすのかと問うてきた。このままでは夢物語で終わってしまうと思ったら……
「私はこの世界で、生きる意味があるにょ? どうして、おとうさんもおかあさんも居ないところで一人ぼっちで生まれたにょ。いやにょ。一人はいやにょ。やだ、や、だ……」
知らずに涙をこぼしていたらしい。
隣に居るタシュバの膝の上に乗せられ、頭を何度も撫でられた。
上座に座る竜王はしばらく沈黙したあと、何か考える仕草をして優しい声音で言葉を紡ぐ。
ステンドグラスから覗く水色の光が部屋内を照らして神々しい。自然の光が透明度の高いガラスに反射し、負の心とは裏腹に高揚感が増した。
「君はこの世界を、ちゃんと覗いた事があるの?」
「えっ」
顔を見上げると竜王の金色の瞳と目が合った。先程のおちゃらけた雰囲気とは違い、とても真摯的な感じを持つ。体を纏う空気も違う。こんなに透明感のある空気を感じたのは、山中と川の底くらいしか思いつかなかった。
「苦しみや悲しみだけ体験したんだよね。楽しい事は? タシュバと一緒に居て楽しくなかった?」
軽い口調だが、安定感のある言葉の重みに今更ながら気付く。
椿は竜王にしっかりと言い返していた。
「た、楽しかったにょ! とっても、そう、すごく楽しかったにょ」
「どんな? 教えてくれるかい」
クマに襲われそうになった椿は、間一髪のところを竜騎士タシュバに助けられた。だが、椿を迎えに来た中型ドラゴンとタシュバは山中で迷子になっていたとネタばらしして、二人いっしょに笑ったこと。
椿だけが知る、深緑のがけ下には虹色の花が咲き誇る花畑があると。誰かに教えた時の、誇らしかったあの気持ち――
「私がお魚さんを取って一緒に食べた事もかにょ。最初はへたくそで一匹も取れなかったけど、タシュバが一緒だったから、うまく捕獲できた……ほんとは楽しかったんだにょ」
「楽しかったんだね。うん、いいことだ」
病んだ心は竜王にお見通しだ。
まだ、心の奥底を覗こうとする。
言いたくない。言ってしまえばもう止まらない。
止める術もなく、自然に喋ってしまっていた。
「ヒトは、タシュバは、私だけのタシュバではないにょ。いつかきっと、ヒトの世界へ帰るにょ。だから私はっ……雪うさぎの仲間が、私だけの友達が欲しかったんだにょ……」
ピンク色の耳が垂れ、涙腺が壊れれば視界もゆがむ。力強く抱きしめられたと思ったら、タシュバの胸の中だった。
「馬鹿だな、ツキ。俺は、今でも、これからもツキの、ツキだけの仲間だ。一番の仲間。それとも、同じ家族になるか?お前は雪うさぎだけど、家名などノティスに頼めば幾らでもつくれる。お前が望めば同じ家族にもなれるんだぞ」
震える声で肯定すると、少し涙目のタシュバに力強く抱きしめられた。家族、そう、私が一番欲しかったものは、この世界で縋りたくなる家族だったのだ。
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椿とタシュバとフォルテッダのイメージイラストです↓
色々と思う事は…作者は名前付けが超絶へたくそです。地の文書くのも苦手; 世界設定も、もっと手広く考えたいのですが、自分の頭ではこれが限界。。苦手だらけが多くてイヤになります。
ただ、短編で練習できたら良いなと思って、衝動的に書いたお話がこんな感じでした。次話も出来ればいいですが。。うーんと唸っちゃいますね(-_-;)