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(仮)雪うさぎも夢を見る1の続編です。

 本編主人公の椿は、雪の名残から生まれた雪うさぎ。

 竜騎士のタシュバと中型竜のフォルテッダに連れられて、ハルバーンの国にやってきました。

【 注意 】

 書いてはみたものの、どこまで書けるか分からないお話です。

 本文修正は随時ありです。あしからず。


 ***


 本日快晴、山越え谷越え。空の旅を悠々満喫。

 竜の国・ハルバーンに、竜騎士タシュバと雪うさぎの椿は上空から眺め見る。

 険しい山脈の中にひときわ目立つ、水源が豊富な町並みが一つ。

 水脈が溝を通り、円を描くように石造りの建物を囲むように配置されれば、全ての住民がいつでも利用できるように配慮されていた。

 

 騎乗していた中型のフォルテッダを連れて広場前の入り口に立つ。役人には竜王からの通達が届いているのか、自然な流れで入る事を許された。

 居城まで行ってもらってもよかったのだが、外の世界を知らない椿の為に広場内を突き進む。タシュバが纏うローブの中に隠された椿は、前身ごろから見える景色を堪能しつつ「にょっ、にょっ」と、小声で反応していた。


「タシュバ、私には夢があるんだ。ちょっと聞いてにょ」


 りんごによく似た小さな果実に木の棒で突き刺したものを、椿は少しずつ食しながら呟く。照れた蜜も口の周りに付けたまま、モジモジと恥じらいながら乙女らしく拭う。タシュバの上等な服で――


「ツキの夢? どんなのだよ……って、ローブで蜜を拭くな! おまっ、騎士服にまでこびりつけたな……あぁ、また洗濯が。ぐぉっ、フォルテッダ、今のはツキが悪いんだぞ……っ! 爪で引っ掻こうとするな! ツキぃ、お前、分かっててやってるだろ?」 

「にょっ♪ にょっ♪ 何か言ったにょ~?」

「フォル、国内で暴れるのは禁止とあれだけ……っこらっ!」 


 口の周りについた蜜をペロリと舐めながら、椿はタシュバの話をはぐらかした。

 フォルテッダからの爪攻撃を、小盾で無難に防ぐ音が聴き取れる。

 そろそろ止めてあげてとフォルテッダに言うと、中型の竜はひと鳴きして大人しくなった。

 

「えへへ、雪うさぎ帝国を創りたいにょ。仲間がいないんだもん。一人はやっぱり寂しいにょ~」

 誇らしげに言う椿は瞳を輝かせて言った。

 夢は語るからこそ現実になる。それは最初の一歩だと、心の中で想いを深く刻み込んだ。


「ツキ……」

「無理だって思ってるにょ? でも、私が雪うさぎな時点で奇跡なんだよね? 私は、色々とやってみたいにょ」


 広場で遊ぶ竜族の子供たちを眺めながら、椿は一人夢想した。あそこで仲間には入れてくれるかもしれない。だけど本当の意味での自分は、まだ一人ぼっちだ。

 陽は直に暮れる。みんなには帰る家がちゃんとある。あの子達には家族が出迎えてくれるではないか。

 

 ――じゃあ、自分はどこに帰ればいい。 

 

「私も、私だけのお家と家族が欲しいにょ~」


 胸が潰れそうなくらい切ない。だけどそれが何になる? 腹の足しにもなりはしない。自分が雪うさぎになったと自覚した時点で、人間だった以前の過去は捨てた。あっても虚しいだけだと自分を戒めるようにしている。 


「寂しいのは今だけにょ。タシュバの言う他種族との婚姻以外で方法がないか、探ってやるんだから」 


 タシュバはぐっと言葉に詰まった。誰しも、知らぬ土地に独りでいれば辛いに決まっている。竜騎士の己は任務と割り切れば負の思考を止められる。しかし椿はまだ、生まれたばかりの雪の化身だった。


「ツキは、逞しいな。いいぜ、俺も協力する――帝国は無理かもしれないが、村くらいなら出来るかもな。と、そろそろ竜王様の所へ行くぞ」


 ローブの中に手を入れる。

 椿の丸い頭と、ピンク色の長い垂れ耳を撫で上げた。


「タシュバ、私の夢を笑わないで聞いてくれてありがとにょ。では行くにょ、王しゃまの所へ!」

 

 広場を通り過ぎ、城門前まで辿り着く。

 竜のシルエットが特徴の国旗が風に靡いて見える、大きな鉄製の門構えが見えた。


 ***


 整備された広大なる庭を進み、遥か高く設計された城内の扉内へ突き進む。白銀色の居城には竜騎士いわく、二つの種族が入り交えていた。椿の想像した騎士達よりも、さらに抜きん出た印象がある。


「顔に鱗が見えるにょ! 竜人さんかな。カッコいいもんだにょ~。しかも腕が太すぎるにょ。並みの人間より力が強そうにょ」

 

 ローブの隙間から騎士隊員達をこっそり盗み見してると、視界が見えなくなった。白い騎士服を着た竜人さんだ。


「タシュバ、任務ご苦労さん。この子が例の雪うさぎ? ちょっとだけ見たいんだけどいい?」


 ローブをかき分けてくる前に、タシュバが前を遮ってくれた。竜王にお目通りしてからならいいと、説明してくれている。納得した騎士さんは、また後でと手を振ってその場を後にした。


「な、なんかドキドキしてきたにょ。タシュバぁ~、竜王さんは優しい? それとも怖い人にょ? 」


 椿の丸い体が縮こまり、ブルブル震えてローブの中から出ようとしない。先ほどまでの好奇心がどこかへ吹き飛んでしまったようだ。


「我らが竜王様は優しき心の持ち主だ。お前の事も心配して、いの一番にさらって……ごほん。救助しにいけと言ってくれたんだ」

「竜王さんが? へ、へぇ~、それならちゃんとお礼を言わなきゃにょ」

「竜王様は先を見据えている御方だ。ツキの事もこころよく受け入れてくれるさ」

 

 黄金色の装飾で縁取った、白銀色の扉を開ける。

 荘厳な眩い世界で、竜王と思わしき人間が玉座に座り、端に控えた護衛騎士らが整列していた。


「敬礼、我らが国主・竜王様!」


 腰に付けた剣を取り、敬礼の型を取ったタシュバ。その声に習い、周りの騎士隊員も同じ型を取る。共に連れて来た中型の竜・フォルテッダと同じく床に跪き、頭を下げて竜王の返事を待っていた。


「両者、頭を上げよ、発言を許す」

「黒竜騎士隊長、タシュバ・ノムイエット、雪の化身・雪うさぎを救助し任務遂行完了のため、フォルテッダと帰還致しました。さぁ、ツキ」

「クゥ~~」


 心配そうなフォルテッダに大丈夫だと力強く頷き、そろりとローブから出ると黄金色の瞳とかちあった。頬笑みながら頷かれると、思い立って自己紹介する。


「は、はじめまして、椿と申しまするにょ。雪から出来たような、わけのわからん雪うさぎですにょ。何とぞよしなに……それと語尾は許してにょです。決してふざけてなんかいませんにょです」

 

 眩い竜王の姿と、精鋭された竜騎士達に気遅れしながら話す椿。

 タシュバのローブを力強く握るとしわが出来た。また後で文句を言われるぞと、心の中で舌うちする。


「ようこそ、魔と聖が調和されし世界・クランティールへ。ゆるりとするが良いよ。タシュバ、疲れたろう。長い期間の任務、ご苦労さま」

「はっ、もったいなきお言葉。この体、竜王様と国の為とあらば、疲れも吹き飛びましょう」

 

 長い金糸の髪が特徴的な、穏やかそうなヒト型の竜王である。黄金で固めたような服装と、深紅のマントで高潔さを滲みだしていた。


「ふ、タシュバ。いつもはもっと砕けた口調だろう。普段通りにしてくれ。ツキも、タシュバと同じように私と接すればいいよ。私は気疲れが一番、大嫌いなんだ。あ、そうそう、私の名前はノティス・ハルバーン。五世だね。ざっと数えると歳は一万二千歳ほどだ。ちなみに、世襲制だし竜族は特に長命だから、私だけが特別偉くもないんだよ。王族はもっと生きるけど……まぁ、長生きってことで。分かった? 分かったら私の膝の上へ来るように。さ、おいで」

「ふんふん、そうかにょ。え。1万二千?? わたしがお膝の上へ? は、はぁぁぁぁっ??」

「竜王! ……はぁ、畏まるのはやっぱり最初だけなんだよな。というわけで、聞いた通り我らが竜王は、気に行った人物には特に砕けた態度を望まれる。俺のために行ってくれ、ツキ」 

「にょ、にょぉぉ~~??」


 雪うさぎの丸い体を両手で抱えたタシュバは、玉座に座する竜王に手ずから渡した。幾ら砕けた姿勢を望まれても、こちらの体はガチガチのままだ。膝上に乗せられ、長いピンク色の垂れ耳と頭を触られた。


「雪うさぎを見たのは、歴代の竜王の中でも初代だけなんだよ。私は運が良かったな。兄妹達に自慢が出来る。嬉しいよ」

「そうだったにょ……ですかにょ。あ、語尾のにょがやっぱり取れませんにょ。ていうか、御兄弟はまだ生存てか、生きておられるとか?」

「よい。その語尾が新鮮だ。聞いていてとても面白いから続けてね。私に竜王を後継したあとも、両親含めみな健在だよ。ふっ、君がここにいると知ったら、みんなハルバーンに帰ってくるだろうね」

「そ、そうですかにょ? お、親御さんと御兄弟さんはみんなパワフルなんですねにょ」

「そうなんだよ……と、ツキ、君の真名ってツキなの?」

「違いますにょ。椿と申しますにょ」

「……どうやら真名はこちらの生者には聴き取れない様に部位されてるね。神主の御技か……ツキ、君は運がいいよ」

「にょ?」


 椿の頭を幾度も撫でた竜王は、タシュバに椿を託した。晩餐会を開いて、その夜盛大にもてなされたあとは豪華な部屋で一夜を明ける。


***

椿のイメージイラストです↓


挿絵(By みてみん)


居城(門前のイメージイラスト)です↓


挿絵(By みてみん)

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