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第1話  彼らの日常

「おい待てやコラァ!」 「あっちに行ったぞ!捕まえろ!」 「逃がすなぁ!」



朝、決して平和と言えない怒声が聞こえる町の一角、そこに春と杏の仕事先兼寝床があった。



「あー・・・腹が減った。」


春が窓際に置かれた椅子に座り目の前の机にもたれ掛りながらぼやく。



「やめろ春、私まで腹が減る。」



と言った離れたソファーに横になっている杏もどこか元気がない。


-ぐぅ~



案の定、春にそういった彼女も腹が減っていたらしい。

部屋に彼女の腹の虫の音が響く。



「うっさいな!私だって腹減ってるよ!」


「まだ何も言ってねぇだろ!?」



-ぐぅ~



今度は2つの腹の虫の音が響く。


「オーケーオーケー、取り敢えず休止だ。まずは、食い物を探そう。」


「だな、つっても飯が残ってると私には到底思えないがな。」



そうなのだ、彼等の記憶では2日前に、この事務所にある食料は全部消費してしまった筈なのである。



「だよなー・・・あ”-仕事入ってこねぇかなー。」


「そんな簡単に入ってきたら私たちは今こうなってねーっての・・・。」


「だよなー俺、神信じてないけどこういう時は神頼みしたくなるわ。」


「春らしくも無い。」




春が彼らしくないことを口走ってしまうのも精神的に限界がきてるからなのであろう。


普段は凛々しい彼らも餓えに敵わないのでらしく、いつもの彼等の姿はなく、そこにはぐったりした人らしきものが2つ転がっていた。



「なぁ・・・杏。」


「なんだよ春?」


「川の向こう側に花が咲いてるのが見える・・・。」


「おーそうか、綺麗なんだろうな。」


「あぁ、とても綺麗だ・・・。」


「・・・ん?」



ここで、やっと杏が異変に気付いたようだ。



「お前・・・それ渡るなよ?」


「なんでだよ、美人の姉ちゃんが微笑んでんだぜ?行くしかねぇだろ。」


「おま!バカ!渡るな!絶対渡るな!」


「あー揺さぶらないでくれー吐きそうだー。」



杏に揺さぶられどんどん顔が青くなっていく春。

しかし、杏はそれに気付かず必死に春を揺さぶる。

どうやら、彼女は必死になりすぎて空腹すらも忘れてしまっているようだ。


「死ぬなよ!絶対、死ぬなよ!?」


「なら、この手を・・・離して・・・。」


「お前渡る気だろ!!絶対渡る気だろ!?」



-コンコン


そんなやり取りをしてると部屋に突如ノックの音が響く。

しかし、2人はその音に気付く様子はない。


「あの・・・すみません、お願いですから・・・手を・・・手を・・・。」


「おい!どうした白目なんてむくな!戻ってこい!」



-コンコン!


「も・・・う・・・俺・・・。」


「おい!春!春!?」


「あのう!!すみません!!!!」


『!?』



突如、部屋に響いた男の大声に驚く2人。

そして、さっきまであんなに騒がしかった2人が自分の声でピタリと止まったのを見て驚く男。


3人の間になんとも気まずい雰囲気が流れる。


「あ・・・あは・・・いらっしゃいませ・・・。」


と気を失った春の胸倉を掴みながら引きつった笑みを浮かべ杏は男を歓迎した。

















「いやーモグモグすいませんねぇーモグモグ。」


「おい、春モグモグ食うか話すかのどっちかにモグモグしろよ。」



場所は変わって大通りにあるレストランのテラス。

先ほどまで死に掛けていた春と杏の姿はなく、今は2人とも目の前の料理に瞳を輝かせ懸命に手を動かしている。



「い・・・いや、急ぎではないのでどうぞ先に食事の方をお済ませください。」


「では、遠慮なく。」

「私も。」


「アハハハ・・・。」




それから10分後。



「いやはや、食事までご馳走になってしまい申し訳ない。ほら杏も。」


「ご馳走様。」


「いえいえ、御気になさらないでください。」



男が人柄の良い笑顔を浮かべる。

見た目は20代後半、細身で身長は170前後纏う空気からして商人と春が男を見て思った感想だ。



「では、まず自己紹介でも。私は神崎 春という者です。こちらが、緋山 杏です。以後、お見知りおきを。」



春が仕事の対応になる。



「私は、ロイド・マーケンスと申します。一応、商人しております。」



やはりか、と春が内心で呟く。



「今度、商品を1つ隣の国へ運ぶ事になりまして。」


「失礼ですが、商品とは?」



ここで少し間が空く。

別にやばい物を運ぶわけではない筈だと思っていた春が少し麻薬の類かと疑う。


そして、杏は仕事の事は自分には関係ないというかの用に空を見上げタバコの煙でわっかを作っている。



「・・・銃ですね。」


「ほう?それの護衛ですか?」


「はい。多分、いえ確実に妨害が入ると思いますので道中の護衛をお願いしたいのです。」



「ふむ。(確実ときたか組織絡みだな多分、それもどこかと抗争中の。)」



春たちは金さえもらえれば殺しから子守までなんでもする所謂なんでも屋だ。

しかし、自分たちの身の上が危うくなるのは避けたい。

どこかの抗争に巻き込まれるなんてごめんである。

だが、金額と条件によっては・・・。



「では、ズバリいくら出します?」


「300でどうでしょう。」



その金額に春は驚く。

隣に居る杏を見ると彼女も驚いているようだ。

話を聞いていないようで実は聞いていたらしい。



最近の護衛の相場は、100~150である。それなのに、この男はそれの約2倍の金額を提示してきたのだ。




・・・怪しい。



これが春と杏がまず思った事だ。

だが、金額は魅力的である。


春は悩む。


(金額は魅力的だ・・・・だが、裏がありそうだ。)


そしてそれを考慮した結果


(条件をのんでもらえるのあれば引き受けよう。)


こう思った。



「ふむ・・・この依頼を引き受けるにあたって条件がいくつか提示したいのですがよろしいですか?」


「ほう・・・それは?」


「まず1つ目が、道中の食費はそちら持ちでお願い致します。」


「・・・いいでしょう。」



やはりか。といった所だろうか。

男の表情からは、なんとなく分かっていたのが伺える。

2人が依頼の際、食費を要求してくるのは、結構有名なのだ。



「2つ目は、前金として100万を事前に頂きます。」


「構いません。」



そして、これには即座に頷いた。

依頼料の3分の1の金額を提示したにも関わらずだ。



(こうもあっさり頷くとは・・・だが、まぁいい。そちらの方が俺達にとって好都合だ。そして次が大事だ。)



「そして、依頼の途中私たちの身の上が危うくなると判断した場合、依頼をこちらからキャンセルさせて頂きます。場合によってはアナタを消さして頂く場合が御座います。よろしいでしょうか?」


「ええ、構いません。」



(こりゃ、驚いた。)


春も最後のこの条件をあっさり相手がのむとは思ってなかったのだ。

だがしかし、


((今回の依頼は最高だ。))



春と杏はそう思った。



「分かりました。この依頼お受けさせて頂きます。条件を守って頂けるので限り私たちはアナタを全力でお守りすることを誓いましょう。」


「そうですか!ありがとうございます!」



男は春の言葉を聞いて喜ぶ。



それもそうだろう。春達は、ある筋ではそれなりに名の通った2人組なのだ。


しかし彼等の性格に一癖二癖あり依頼を引き受ける条件で食費を依頼主が持つことが必須条件である。そして、この食費がバカにならないのだ。もちろんそこには酒も含まれる。

その他にも色々とあるのだが、一番の理由は過去に依頼主を何度か殺した事があるのが大きな理由だろう。


だが、それらさえ気にしなければ彼らは一流なのである。


以上の理由から、時々街で彼らがひもじそうにしているのを目撃できるのである。




「では、5日後に迎えを寄越しますので事務所でお待ちください。」


「畏まりました。ではまた、5日後に。」


「はい。」



男は心底安心したかのような満面の笑みを浮かべ去っていった。





「さて!杏!」


「あぁ!」


「久しぶりの大仕事だ!気合入れんぞ!前金で100万もらったし装備を整えて旨い飯でも食いにいくか!」


「いいな!」


「そいじゃ、行くぞ!」


「おう!」




久しぶりの大仕事と金額に胸を躍らせ2人は街に消えていった。

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