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3*留美との関係(2)

スタバにつくと、私はさっきの店で紙袋に入れてきたチーズバーガーたちを取り出した。飲み物は捨ててきたため、コーヒーを頼む。留美もコーヒーを頼んでいた。

「あのね。一年生の時不良に絡まれたでしょ?で、一年のくせに髪染めてんじゃねえよ的な感じに言われて。すっごいつらかった。ホントは染めてないのにね。地毛なのに。で、椿が毎回かばってくれて、ホント嬉しかったんだよ?」

「うん」

「でもね」

留美は一呼吸おいた。

「もっと強力な助っ人が現れたの」

…ここからの話は私の知らない話…。

「うん」

「アキラ先輩って人。あの時は中三だった」

「アキラ…先輩って、まさか」

「そうだよ、きっとその人だと思う」

一年の夏休みが明けた頃、私はもうすでに不登校だったんだけど、そんな私にもその噂は流れてきた。

『うちの中学のアキラって人が麻薬で逮捕されたんだってさ』

たしかチェンメとかだったかもしれない。その時はデマだと思ってたけど、地方ニュースで取り上げられてたから、信じざるを得なかった。

…その、アキラ先輩?

「助けてもらったの?」

留美はこくんとうなずいた。

「髪の毛引っ張られて泣きそうになってたの。その日は椿が休みで、クラスの仲いい子たちも先輩には逆らえなくて。私ひとりじゃどうしようもなかった。そのときね、アキラ先輩が来て一言『殺されたくなかったら散れ』って言ったの。そしたら不良グループみんないなくなっちゃって。で、助けてもらったお礼を昼休みにしに行ったら、告白された。付き合ってって言われて、助けてもらったしかっこよかったからOKした」

そんな話、初めて聞いた。…まあ、当たり前か。私が休んだ次の日にはもう留美は学校に来てなかったんだから。

「それで?」

「先輩と付き合えるなんて私すごいラッキーだなって、思ってた。純粋に。早く椿にも知らせたかったけど、あの頃は一年生だったから学校に携帯持ち込んでなかったし、公衆電話からかけるのもちょっとアレだし。帰ってから言おうって思ってたの。でもね。家に帰れなかった」

ああ、これが原因だったんだ。その「アキラ」って奴が留美を…。

「うん、探したよ」

「本当にごめん。探されてるんだろうなとは思ってた。親だって、さすがに何日も帰らなかったらさすがに心配するよねって、思って。それに、すぐ帰れると思ってたし。でも、その日アキラ先輩の家に行ったら、他にもたくさんの先輩がいたの。女の先輩も男の先輩もいた。高校生もいた。そして、「留美も今日からここで暮らすんだよ」って言われたの」

留美の眼にはもう涙が浮かんでいた。思い出したくもないのだろう。

「逆らえなかった。他にもいっぱい怖そうな人がいて、逆らうことなんてできなかった。次の日の昼、親が仕事に行ってる時間帯に家に帰って、携帯とか必要なものを持った。そして、心配して警察とかに届けたりしないように置手紙を書いて家を出たの」


それから、留美が話した経緯は残酷なものだった。中学生の少女が経験するべきことではないような気もした。いや、経験すべきではないと思った。何でよりによって留美がこんなことされなきゃいけなかったんだろう。髪の色が明るかったばかりに招かれた悲劇。


「で、昨日。先輩の家に警察が来たの。なんか高校生の人たちがまた事件を起こしたらしいんだけど、何人か連行されていっちゃって。私たちは追い出されたってわけ」

まだそいつの家にいたってことは、アキラ先輩は逮捕されたけど執行猶予でもついたのかもしれない。

「で、今日はどうするの?」

率直に聞いた。

「うちに帰る」

そう言ってくれなかったらどうしようと思っていたが、あっさり言ってくれたので安心した。もし、また街をぶらぶらしていたら、すぐに声をかけられそうな雰囲気だった。

「じゃ、一緒返ろう。近くだし」

「うん」

飲み終わったコーヒーのコップをテーブルの端において、私たちは席を立った。お金を支払い、店の外に出る。柄の悪そうな人しか歩いていなかった。タバコの臭いが鼻にあたってムカムカした。

「この臭い、嫌いなの。アキラ先輩がずっとタバコ吸ってたから」

「そんな環境によく三年もいれたね」

「嫌だった。すぐにでも逃げ出したかった。でも、見ちゃったんだもん。逃げ出そうとした人が…女の子なのに、すっごい殴られたりしてる姿。あれ見てから、絶対逃げないようにしようって心に誓ったの」

私には想像できなかった。簡単に想像していいものだとも思えなかった。

「留美は、何もされてないんだよね?」

「うん、暴力的なことはされてないよ」

それを聞いただけでも一安心した。


バスの最終には間に合わなかったので、歩いて帰ることになった。

「そういえば、学校どんな感じ?私のことなんか問題にならなかった?」

「え……っと…」

「え?」

なんて言えばいいのかわからない。でも、言わないといけないことは分かってた。

「行ってなかったから、わかんないや…」

「え?!」

「留美が来なくなってから、私も学校行ってない。っていっても最近はちょくちょく行ったりもするんだけど」

「なんで?またいじめうけたの?!誰に?!」

留美は目を真ん丸にして私を見た。化粧で黒い目の周りが急に現実味を増した。

「いや、えっと」

「小学校の時、あんなに大変ないじめうけてたのに、椿は弱音吐かずに学校行ったよね?そんな椿が不登校とか考えられないんですけど…」

「留美が急にいなくなって、人間が信じれなくなった。留美とは、死ぬまで一緒にいるつもりだったのに、こんなに早く別れちゃうなんて信じられなかった。学校に行っても、周りの人がみんな悪魔に見えた。私をだます、悪魔に。だから学校に行けなくなった」

「私の……せいだったんだ。ごめん。私が殴られてでも帰ってくればよかったんだ。あんな奴にお礼なんてしにいかなければよかったんだ!」

留美はそんなに簡単に涙を見せるような人間じゃなかったのに、今、ぼろぼろと泣いている。精神が錯乱状態にあるに違いない。

「落ち着いて、違うよ。留美」

「何が違うの?!どう考えても、道から足を踏み出させたのは私でしょ?!最ッ低じゃん私。もうやだ、死にたい…いやだ」

そういって、留美は路地にしゃがみ込んだ。

「留美、よく聞いてね。留美がそうやって自分を悲観的に考えれば考えるほど、私は悲しくなるの」

まるで幼稚園児に語りかけるかのような喋り方だった。それでも、留美には私の声が十分に届いたようだった。

「うん…」

「だから、もうマイナスの方向に考えないで?私もね、不登校してて気づいたことがあるの。不登校って悪いもんじゃないよ、ってこと」

「…なんで?」

「チャットとか、掲示板とかで友達ができるんだ~」



ここで、この話を切り出さなかったら?

運命は変わっていたかもしれない。


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