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あと一歩、踏み出したなら。  作者: 姫ちゃん
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この日も無事に授業を終えた柚葉は図書室へ向かっていた。一週間ぶりに一人きりになれる時間を夢見て、彼女の心は躍る。




職員室へ図書室の鍵を取りに行き、そこへ向かう。

鍵を開けて入れば、図書室特有の雰囲気に呑まれる。無駄に背の高い本棚が立ち並び、柚葉を圧倒した。部活動等の放課後の喧騒から、ここは離れているような気がする。ぼんやりとしか、その音は聞こえてこないから。この空間を一人で味わえることが柚葉は図書委員の一番の利点であると考えた。



柚葉の高校の図書室はコの字型になっていた。実際はそれを横に九十度倒したような構造で、突き当たった部分から中へ入る。その近くにカウンターがあり、さらに左右奥へと空間が続いていく。



柚葉がカウンターの椅子に座ろうとすると、メモ書きと数冊の本が積まれている。

きっと司書の先生のはずだ。


“私が帰る直前に回収できた返却本です。良かったら返却お願いできる?”



はい、と柚葉は心の中で返した。

しかし本を貸し出した経験の少ない彼女にとっては、図書を返却するのもなかなか骨の折れる作業で、彼女は一冊一冊丁寧に図書の背表紙にある番号と書架の番号を確かめながら返却していった。



全て返し終えて、柚葉はふう、と息をついた。

後は学校のレポートでもやるか…と思い、席につく。日本史の授業でなぜか自分の行きたい場所(国内)についてのレポートを提出するように言われたのだ。どのような意図なのかはさっぱり分からないが、提出と言われたからにはやるしかない。───のだが。



(レポート用紙がないっ!?)


リュックの中を漁り散らして柚葉は愕然とした。

帰りのHLで確かに入れた気がするのだが。


(ちょっとくらい図書室空けても平気だよね。どうせ誰も来ないし)


そう言い聞かせて、教室へレポート用紙を取りに行った。





再び図書室へ戻ってきた柚葉の腕は、レポート用紙を抱えている。どうやらリュックに入れた気がしただけで実際にはしていなかったらしい。

自分の不注意のせいでとんだ無駄足になってしまった。早く終わらせよう…そう思い、柚葉は情報源のスマートフォンを操り始めた。今時、スマートフォンで調べられないことなどない。




…どれだけ時間が経っただろうか。

柚葉が顔を上げるとオレンジ色の夕日が窓からちらちらと差し込んでいるのが見えた。


(あとこれだけだなあ)

レポート用紙には柚葉のいつか行きたい国内旅行プランがみっちりレポート形式としてまとめられていた。あとは題名のフォントだけなのだが、いまいちスマートフォンでいいのが見つからない。どうしたものかと頭を悩ませる柚葉に、パッと解決策が閃く。



(図書室のフォント本を借りてきちゃおう)


よく美術室で見かけることのあるフォントの載っている本。美術の時間でも使ったことがあるので、そのありがたみを柚葉は知っている。美術室にあって図書室にないわけがない。そう思って図書館の案内図を見れば、「美術・芸術」の棚がある。柚葉はそこへ足を向けた。



その棚はなかなか奥の方へ位置していて、古びて黄色くなったような本が数を増す。あんま借りられないんだろうなあ、と柚葉はその本たちを哀れんだ。


棚にたどり着き、探してみれば、あったあった…美術室で見かけたものと同じもの。ただし、置いてある書棚の高さが高すぎる。爪先立ちでひたすら手を伸ばしてみたものの、全く届く気配はない。柚葉はムキになって、飛び跳ねながら本に触ろうとする。しかし本たちはなかなかその手を届けさせてはくれない。ますます柚葉の床を蹴る音が強さを増した────その時。




柚葉は後ろに誰かが立つ気配を感じた。その人物は圧倒的に柚葉より背が高く、ひょいと棚からその本を抜き取る。驚き、反射的に振り返ってみれば───




どくり。柚葉の心臓が波打ち、とんぼ返りした。

自分の目を疑う。

目と鼻の先にいたのは、誰であろう、今現在最多の女子の視線を独占しているであろうと思われる人物。先日由理と謎な人だ──と話のネタにしたばかりの。



遊馬あすまだった。


こんにちは。昨夜から続きもう一話投稿です。

前回よりは内容量が圧倒的に少ないですが…。次回をお楽しみに!

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