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こんにちは。投稿遅くなってしまい、申し訳ありません!
それは突然だった。
「来週、うちのクラスに転校生が来る」
朝のSHLで担任のたっちゃんこと夜敷達也は告げた。
その言葉に教室内がさざ波のようにざわめく。
柚葉も例外ではなかった。
高校へ転校してくる者はかなり珍しい。その多くが家族の転勤等による問題だ。しかし幼少ならまだしも高校生くらいになれば家庭事情はとっくに安定していてもおかしくない気がする。
「女子ですかー?」
クラスの男子が一人、声を上げた。
「可愛い子を期待してたなら悪いが、男子だ」
その問答にクラスが笑いの波に包まれる。
「しかし女子には朗報だ。先生もまだ数回しか会ってないけど、かなりのイケメンだぞー?」
おおっ、と驚きの声が上がる。ごくりと唾を飲んだ女子も多いのではないだろうか。
「ま、お前らだってまだ知り合ったばかりだし、新しい友達が一人増える感覚で仲良くしてやってくれ。男子は転校生に女子の歓心を奪われないように気をつけろよ」
そう言い放つと、手を振って教室を出て行った。
突如入ったその情報にクラスは少し浮き足立っているようにも感じられる(特に女子が)。
中心的存在の女子たちもどんな人間なのかを話している。進学校といっても、頭が良いからといって男子への関心が薄いわけでは決してないらしい。
「なんというかねー、朝から」
苦笑まじりで話しかけてきたのは由理だ。
「珍しいよね、転校生なんて」
「まったく、たっちゃんの言い方ときたら」
「うん、まあでもたっちゃんが人気な理由、分かる気がする」
担任のたっちゃんはこの学年の英語を教えている二十代から三十路へと切り替えている最中の男性教師である。生徒に対して堅苦しくない口調と分かりやすい授業が人気の先生だ。
「学校でも人気のある教師が、学年特進クラスを担任するなんて、仕組まれてる気がしないでもないけど」
由理の言葉に対して、柚葉も笑いながら頷く。
「それは分かる。でも私はあの先生嫌いじゃないなあ」
「それも同感。」
由理は声を低くして柚葉に囁いた。
「転校生、かっこよすぎて心奪われないようにね?」
「な、由理ったら!!んなわけないじゃん、いくらかっこよくたって!」
「分かんないじゃん、ラブストーリーは突然にって言うでしょ?」
「言わないし、ありえないし。ひろ以外に考えられないし」
「またその一点張り?」
「そうよっっ」
柚葉がムキになって由理に噛みつけば、彼女はハイハイと軽くいなした。
まあ、あんま考えて根詰めないようにね。
そう由理は言い残し、自分の席へ戻った。チャイムが鳴ったからだ。
授業を聞きながら、ふとひろのことを考える。
今のままでは、到底、将来恋愛できそうにない。
自分の未来は彼なしでは成立しないと考えていたし、それを亡くした今、新たな恋愛をしたいとも思わない。
彼との終わりが突然なら、新しい恋も由理の言うとおり突然なのかも、しれない。
たとえそうなっても、ひろのことを忘れられるかはまた別だ。いや、多分自分は新しい恋を彼への想いと秤に掛けなければならなくなるから、今の時点で恋愛を放棄しているのだ。それが怖いことだから、自分から避けている。あれだけ彼に愛情を注いでおいてすぐに別の人を好きになるのはおかしい。
あまりに彼に薄情すぎる。
そこまで考えて視線をふと降ろすと、まだ何も手の着けられていない真っ白のノートが目に入る。
黒板の板書はそろそろ端に辿り着き最初の分は消されてしまいそうだ。柚葉は思考を停止し、あわててノートを取りはじめた。
そして。
「んじゃ、転校生を紹介するぞー」
たっちゃんはそう言って、教室のドアを開けた。
入ってきた瞬間、教室の雰囲気が変わるのが分かった。
緊張した風もなく、教室の中へ入り、前で一礼する。顔を上げた瞬間、柚葉の心臓が一瞬だけ、とくりと震えた。
こんなにもブレザーが似合う男子も珍しい。
足はすらっと長く、身長は高い。
顔はこれ以上ないほど整っていて、その視線に絡め取られれば一瞬にして動けなくなってしまいそう。
静かな教室に驚きの空気がピン、と張り詰めた。
それを打ち破ったのは担任の声。
「今日からうちのクラスに入ってくる、遊馬博之だ。仲良くしてやってくれ」
柚葉の目が見開かれる。
その声に応えるように、彼が挨拶をした。
「遊馬博之です。よろしくお願いします」
とうとうヒーロー登場です。