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本当にお久しぶりです。こんな状況で更新を待ってくださる方は皆無でしょうが、少し前に書いたのをあげることにしました。短めですが、何卒。
高校の最寄り駅近くのファミレスで遊馬と九条は注文した軽食をつつき合っていた。放課後、遊馬がこうして誰かと一緒にいるのは珍しい。たとえ相手が九条だとしてもだ。
提案したのは九条であり、文化祭の後くらいは、ということで今に至る。
遊馬もさることながら、九条も顔は悪くない。彼はどちらかと言えば俗に言う塩顔、であり遊馬の顔立ちとは異なるが、女子の視線を集めるに苦労しないものであることは確かだ。本人は気づいていないようだが。
そんな男子高校生2人は周りからの好奇心丸出しの視線にさらされていたが、無視してるのか否か、気にせず話を進めた。
「はや、過ぎたかな」
「何が?」
「花火大会誘うの」
「いや、九条は今がベストタイミングだと思うけど」
遊馬はそう言いながらストローでジュースをかき回した。
「てか、誘うなら今年しかないじゃん。来年は俺ら花火見物どころじゃないんじゃないの?」
この高校は3年生まで皆文化祭に参加することが決められてはいるが、花火見物、つまり後夜祭は必ずしも出る必要はない。
もちろん参加は可能だが、大半の生徒は予備校にすっ飛んで受験勉強をするのが3年生の習わしともなっていた。
「そうだよな。・・・俺、頑張ってくるわ」
何を、とは言わなかったが遊馬はそれを察した。
「頑張れ」
九条は頷き、ところでさ、と話を変えた。というよりも同じ話のネタを遊馬に振ったとするのが正しい。
「博之はだれか誘ったの?」
ストローをかき回す手が止まる。
「・・・加藤さん誘ったけど、断られた」
「え、なんで加藤さん?」
九条が怪訝な顔をする。何を言うかと言いたげだ。
「あれ、もしかして博之って後夜祭の花火のジンクス知らない?」
「え、知ってるけど」
前に教えてもらったじゃん。そう返せば九条が一瞬固まる。
「加藤さんのこと好きなの?」
「いや・・・花火を見ようって誘ったのは衝動的なものでさ、こう、今日言おうって決めてたわけじゃない。彼女とすれ違った時、自分でも自覚できてないまま言った」
「お前のその曖昧なとこ、彼女と長続きしない原因だろ?」
九条にそう指摘されて遊馬は視線を落とす。確かに、彼の言う通りだ。告白されて付き合ったものの、自分が放課後は一緒にいられないとか抜かして結局終わらせるのはいつも彼女の方だった。
事情も何も説明しなかった。ただ彼女の好きの気持ちを受けて、自分もそうだと思おうとして、でもなぜかできなくて、曖昧なままそれを相手に返して。別れたとしても他に自分と付き合いたいと言ってきた女子はたくさんいた。知らず知らずのうちに彼女達に甘えてしまったのだ。
「そういうのはちゃんと気持ち固めてから言うもんじゃないの?加藤さんがもしOKして、それでお前がやっぱり好きになれなかったとか思ったら」
「でも、・・・加藤さんならいいと思った。そういう関係に・・・付き合ってもいいなって思ってる」
はあ、と九条はため息をつく。前からこいつ不器用だなとは思っていたが、自分のことばかり優先して相手のことを考えられないいわゆる自己中なのではと疑いを深めた。
「加藤さんの気持ち考えたことあんの?そりゃお前は誘えば何とかなると思ったかもしれないけど、相手はそうは思わないだろ。ジンクスも知ってるし戸惑うに決まってる」
「・・・・・・・・・」
「今まではほぼ俺の知らない女子だったし他人の恋愛には干渉しないって思ってあんまり口出ししなかったけど、加藤さんは別。素直でいい人だし、何より葛城の親友だぜ?俺にまで焼きが回ってきそう」
「心配してるの自分かよ」
九条の半説教をしゅんとしながら聞いていた遊馬はそこで笑った。
「お前に言われたくないね、自己中君?」
しれっと返されて遊馬は言葉に詰まった。
「まあ、今回はきちんと加藤さんが断ってくれたから良かったけど、受け入れてたらって思うと」
「俺と誰かが付き合うの悪いみたいに言うなよ」
「博之の付き合い方が下手なんだよ」
「休日たまに出かけるくらいじゃダメなの?」
「いや、それはダメじゃないけど・・・下校くらいは一緒にしてやれば、ってこと」
「俺は放課後は―――――」
「分かってる。勉強してるんだろ?それなら元々彼女なんて最初から作るべきじゃなかったって俺は思うよ」
「・・・・・・・・・」
「まあ、好きを知りたいと思ったのは悪くないし、お前を理解してくれる女子ならいいかと思うけど。お前、一緒にいられない理由すら説明しなかったんだろ?」
先ほど自分が考えていたことを言い当てられて遊馬は目を逸らす。
「加藤さんは他の女子に比べるとそこんとこ、分かってくれてるんだもんな」
九条の言葉に、遊馬は頷く。初めは邪魔されない勉強場所の確保という目的で利用していた週一の図書室通いに、いつから加藤柚葉という一個人に会うためという目的が加わったのだろう。毎週木曜日、人気の少ない廊下を進み図書室に入れば、開ける扉の音に驚いた彼女が「いつまで経っても慣れないなあ」とはにかみながら笑うその顔をもっと見ていたいと思ったのはいつからか。
「もし博之が本当に加藤さんを好きになりそうなら、もっと慎重になるべきだと思うよ」
「・・・・・・そう、だね」
遊馬は目を伏せながら答えた。彼の心には夏に遊馬が柚葉に「本気で好きだった人のことをまだ想っているのか」と聞いた時に見せた戸惑いを含みながらも悲しげに笑った表情が映し出されていた。