表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あと一歩、踏み出したなら。  作者: 姫ちゃん
25/34

25

その後、柚葉と由理は様々な模擬店を回って過ごした。縁日で景品をもらったり、お化け屋敷で恐怖で涼しくしてもらったり、体育館の劇の上演を見たり。

初日も残り1時間となったところで2人は疲れたのでどこかで休もうとなった。自分のクラスも覗いてみたが、長い行列のためにやめることにした。



白シャツ&ジーンズ男子喫茶以外にもカフェはあったので、適当なところを見繕って2人は腰を下ろした。



「はー…疲れたけど楽しいねえ」

しみじみと柚葉が呟けば、由理はそれに頷く。


「そうね。高1の縁日は良かったわね。主に景品が」

と言いながらもらったお菓子を頬張った。


「由理がすごいハイスコア出したからじゃん…」

その勢いは恐ろしく、縁日を担当している生徒は彼女にチョコのバラエティパックを1袋差し出すを得なくなった程だった。怖い。勉強もできて縁日の才能もあるとか、どんなハイスペック。


はい、と言いながら由理が袋を差し出す。無意識にその姿が遊馬と重なって柚葉は目を伏せた。

あの時のお菓子は美味しかった。また勉強教えてもらったらお礼しよう。そう決めて、意識が夕暮れの図書室へと逸れる。たっちゃんが来たあの時…



そう、手を掴まれて…



“出て行くな”と合図された。



飲食が担任に露見する恐れよりも、手を繋いでる恥ずかしさの方が勝って…


それでも繋いでいたいとも感じたような…



「ちょっと、柚葉?お菓子取らないの?」


急に現実に引き戻されたような感覚がしてすぐには思考が回復しない。


「ぼーっとして。疲れた?」


「そ、そうかも…チョコもらうね」


チョコを一つもらって口に入れる。糖分が身体に回って疲れが癒される気がした。


文化祭のことをあれこれ話していると、


「あの、さ…後夜祭のことなんだけど」


と気まずそうに話題を変えてきた。


「うん。どしたの?」


「実は、花火を一緒に見ないかって九条から誘われてて…」


「そうなんだ!行くの?」


「や、でもそしたら柚葉が…」


「私のことは気にしないで。元々行く気なんでしょ、私が止められるわけないもん」


「ごめん、柚葉…」


「いいよお、全然。私はクラスの子と見るし。2人でいってらっしゃい」


「ん…ありがと」

申し訳なさそうにこちらを見つめる由理はしかし、目に嬉しさという煌めきを秘めていた。


「誘ってもらえて、嬉しかった?」


「…う、ん。花火のジンクス知ってるでしょ」


「うん」


花火のジンクスというのはこの高校でもよく知られているもので、2人きりで花火を見た男女は恋が上手くいくんだとか。付き合う前なら2人を結びつけ、既に恋人同士ならより幸せになれるという。

ありがちなジンクスだが実際に行動に移す生徒は多い。異性から後夜祭で花火を見ようと言われるのは半分告白しているのも同じだからだ。言われた相手もその意味を悟り事前によく考えることができる。



由理がOKしたということは、そういうことなのだろう。


「そっかそっか。やっと認めたか」


「あいつと一緒にいると思い知らされる。好きだなって」


九条が自分を包み込むように笑えば、自分も心の奥が暖かくなる。彼ともっと一緒にいたいと願ってしまう。自分が人を好きになれるとは考えていなかったから、実際そうなると戸惑ってしまうけれど、彼は待っててくれた。自分がこの手に関して不慣れなのをきっと彼は知っていた。それすらも包んで、彼は接してくれるから。



「そっか。良かったね」

柚葉は由理の中に昔の自分を見つけた気がして、切なくなった。昔は私もこんな風にきらきらしてた?

幸せそうに、見えたのかな。


最近になって亡き彼のことは、自分から意識して思い出さないようにしていた。確かに彼のことは忘れられない。今でも思い出そうとすれば記憶というアルバムがばらばら、と一気にめくられて柚葉に鮮明なカラー写真を見せる。

柚葉は分かっていた。それらはあくまで写真なのだと。再び動き出すことはない。過去なのだ。写真たちばかりを眺めることは逃げることに他ならないと。逃げては何もならない。受け入れなければいけないから。


さらに遊馬に心が惹かれているのを認めないことも柚葉には難しかった。

絶対に好きにならないと固く決心したはずなのにこれほど気持ちが持っていかれるとは思っていなかった。すらりとしたスタイルからくすりという笑い方、不思議と惹きつけられる視線、将来に対して真面目に向き合い、誰よりも努力しているその姿。


さらにその努力や源はほぼ彼女しか知らないことだ。

木曜日、放課後に共に残るのが彼でどうやって意識せずにいろというのだろう。考えが投げやりになる。



彼女は不器用だから、亡き寛之との過去をきれいに処理しながら遊馬を好きでいることはできない。

しかも彼を好きになったとしても確実に自分は選ばれないだろう。柚葉は自分の相反する感情を持て余していた。

今ならまだ引き返せる。友達だと思っていられる。

そう思い込めば込むほど彼への想いが深まることをまだ彼女は知らない。









なんだかシリアス展開になりました。

難しいですね。ここらへんの柚葉の感情を表現するのは。自分の語彙力不足を実感させられます…辛い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ