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こんばんは。長い間投稿できてなくて本当申し訳ないです。あまりお話は進んでいないような気もしますが、読んでいって頂ければ。
「もう少しテーブル右なー」
「厨房隠すクロスが足りない」
「もうそろそろ試食で生徒会来るー」
「ヤバいっ、ワッフル焦がした!」
時期は秋。秋といえば、そう、文化祭。
橘祭は体育祭と並ぶこの高校の名物行事だ。
昼は周りの高校と変わらず模擬店や発表をするくらいでそれはそれで賑わうのだが、なんといっても目玉は後夜祭で打ち上がる花火だ。約10分弱の間夜空を彩る花火はそれはとても美しく、文化祭でのやりきった気持ちを飾ってくれる。
この後夜祭目当てで入学してくる生徒もいるという噂だ。
そんな中、二年の特進クラスは何をするのか、というと。
「男子準備完了しましたーー」
「ふおおお、やっぱこの企画良かったんじゃない!?乙女の心鷲掴みじゃない!?」
「客寄せもいけそうだし」
女子がそわそわとする中で寄る辺なさそうに身を寄せ合っているのは白シャツにジーンズの男子たち。
元からクラスの女子たちの模擬店の構想はある程度固まっていたようで、多数決によってすんなりと決まってしまった。
名付けて『白シャツ&ジーンズ男子喫茶』である。
どうやらこのクラスは他のクラスよりも男子の顔面偏差値が高い、と噂されていたこともあってそれを前面に押し出そう、というのが当初の計画であったらしい。
そして男子が最もシンプルにイケメンになる瞬間。
といえば、
白シャツ、ジーンズ。
女子たちの圧倒的な支持を受けて、確定に至ったという。(ちなみにその途上での男子たちの必死の訴えはほぼ無視されている)
…というのを、柚葉は文化祭実行委員である由理から聞いた。もちろん、多数決には参加したが、そこでの裏事情は知らなかった。
女子のパワーに恐れ入るばかりである。
まあ、確かに、と柚葉は男子をちらりと見る。
「できない、自分たちが見せ物になるとか、絶対無理!」と弱気発言をしていたものの、男子はそれなりに決まって見えた。整えられた髪型や着崩しなど細部に至るまで女子の努力が認められる。
彼らの疲れきった顔を見て大変だったんだなあ、と柚葉は他人事の判断を下した。
そんな柚葉はテーブルクロスを張っている。
二十人近い男子の中で一際目を惹くのはやはり遊馬だ。完璧なルックスに白シャツとジーンズは恐ろしいほど彼によく似合い、女子からは歎息が漏れていた。
「なーに、柚葉、見とれてるの?」
背後からゆらりと現れた由理が柚葉の耳元へ囁く。
何に、なんて彼女に問えば分かってるくせに、と返された。違うよ、と苦笑いをしてから柚葉も由理へ聞いた。
「由理だって人のこと言えないんじゃないのー?」
「どういうことよ」
「私知ってるんだからね、最近由理が九条君のこと…もがっ」
「な、何言ってるの違うわよっ!」
少し大きめの声でからかうと、由理に手で口を塞がれた。由理の声も負けじと大きくなり、周りの視線が二人へ集まる。二人は愛想笑いをしてから通常よりも少し低めのトーンで話し出す。
「あれ?違った?目で追ってるなあと最近感じてたんだけど」
「そんなことないわよ。気のせいよ、気のせい」
「顔が赤いよ。好きなの?」
「ちょ、柚葉ってそんな直球だった?」
慄く由理に柚葉は繰り返した。
「好きなの?」
「…や、好きっていうか。なんというか」
「なんというか?」
「見ちゃうなーとは、思う…」
由理の顔が赤い。中学の頃からの付き合いでも、由理が恥ずかしさを表情に表したのは片手で数えられるくらいだった。
「由理が顔赤いのって、レアだなあ…」
「るさいわね。好きとかはまだよく分かんない。でもいい奴だな、とは感じる」
「同じ実行委員だもんねえ」
「うん…」
由理は九条にゆっくりではあるが好感度を上げてきている。それも、恋愛の、だ(と柚葉は願っている)。由理をどうやってここまで素直にさせたのかとても気になる。
実行委員を一緒にやらないかと誘ったのも九条である。面倒だからやらないの由理の主張も、九条の前では立て石に水らしく、押されて押されて敗北した。
由理って押しにこんなに弱かったっけ(元々弱かったのもあるだろうが、それを加速させたのが九条だろう)。
「葛城」
二人で話していると当の九条が近づいてきた。
「二人して何こそこそしてんのさ」
「んなっ、こそこそなんか…!」
「十分にそう見えたけどね。んで、葛城。ほい」
九条は一枚のメモを由理の目の前でちらつかせた。
「何?クロス、紙コップ、紙皿、ジュースの類、…ヘアワックス?買い出し?」
首を傾げる由理に九条は頷く。
「そう。行ってくれる?」
「は、まさか一人で行けと?」
「ついてってほしい?」
「べ、別にっ!これくらい一人で買えますー」
「ジュース重いねえ、女子一人にはキツいんじゃないの?」
「くっ…、」
言いよどんだ由理を九条は面白そうに眺めている。
由理、気づけ。九条君はからかってるだけだよ。
彼には荷物を好きな子だけに持たせるようなデリカシーのなさはないから。
「じゃあ、俺と行こっか?」
そう言って背後から姿を現したのはなんと遊馬だ。
「絶対無理」
「うわ、傷つく。でも九条本当に行かないの?俺じゃなくても葛城と行きたいって思う奴は多いんじゃないかなー。もし他の男子と行くことになってもいいのかなー」
「バカ、もともと他の奴と行かせる気はねーよ」
九条はそう言い放つと慌てる由理の腕を取り「買い出し行ってきまーす」と教室を出て行ってしまった。
取り残された形になった柚葉と遊馬は顔を見合わせた。
「なんか…見せつけられたね?」
「あー…そう、だね」
「花火大会も見に行ったんだっけ、あいつら」
「うん 」
「俺たちも行けば良かったね」
「えっ、やっ、」
そんなサラリと言われても反応に困るからやめてほしい。どうせからかっているだけなんだろうけど。
「そこは肯定してほしかったんだけどな」
そう言うと遊馬はくす、と笑った。
柚葉は時が経つにつれて、この笑い方が苦手ではなくなっていた。笑った時に雰囲気がふわりとなると何だかくすぐったくなるのだ。
「これ…どうかなあ。似合うかな」
自分の姿を見回しながら遊馬が尋ねる。
なんと、答えたものか。そう考えたが素直でいいと思い直して、
「似合ってる。かっこいいよ」
と笑いながら答えた。
少し恥ずかしかったけれどかっこいいと思っている自分がいるのだから、素直でいいんだ、素直で。
「そっかな。ありがとう」
「おーい遊馬ぁ!接客の確認するぞー」
と教室内の男子が呼びかけた。
「一人足りないけど、いいのかな」
遊馬はポツリと呟いた。九条のことだろう。じゃあ、と踵を返しかけてくるりと柚葉の方へ振り返る。
「加藤さんに似合うって言ってもらえたのが一番嬉しかったよ」
そうはにかみながら笑った彼の顔はほんの少しだけ赤くて。柚葉がまばたきを繰り返すうちに遊馬は行ってしまった。
彼の言葉を咀嚼し終えた彼女の顔もまた、ほんのりと上気して見えた。
なんというか…
意外と、九条の方が積極的なことに気づいてしまった…。いや、主人公二人はそわそわデレデレしてくれればいいのかな。うん。