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「遊馬君って、なんでそんな彼女作るの?」
遊馬のナイフとフォークを使っている手が止まった。やっぱ、聞いちゃだめなやつだった。失敗。
「っあ、気にしないで。変なこと聞いてごめん」
「…さんは」
「うぇ?」
「加藤さんは俺が付き合ってる彼女のことが好きじゃなさそうに見える?」
「…よく分からない。でもうーん、好きだったらもっと一緒にいてあげるべきなのかなとも思うし、いや遊馬君の恋愛に口出しする気はないけど!…私の超主観的で言うと、遊馬君は彼女さんのこと、そんなに好きではなさそうに見える」
「好きって何なのか、分かんないんだよね」
「え?」
「だから付き合ってみたら分かるかなって。九条も付き合ったら好きになることもあるかもって言ってるし。…でも、まだない。それで結局冷めて別れちゃう。ずっとこんなことの繰り返しだよ」
一気にそう告げた彼は、すこし寂しそうだった。
「九条は葛城のことが好きでしょ?毎日すごく幸せそうなんだよね。葛城にあんな風にあしらわれてるけどさ。だから好きどんななのかなって。幸せになれるのかなって。そんなことを思ってた」
「誰かを好きになるって…すごく幸せだよ」
するりと言葉が柚葉の口から滑り出た。
その瞬間、啓之との思い出が次々と思い出される。
片思いで苦しかった時期、想いが繋がった奇跡、始めて手を繋いで、キスをしたドキドキ。
幸せなんて言葉では言い表せないほどに、誰かを好きになるのは素晴らしいことなのだ。それを柚葉は身をもって知っていた。彼がいなくなったとしても。
その思い出は深く深く柚葉の心に刻みつけられている。
「…加藤さんは、誰かを本気で好きになったこと、あるの?」
「…………あるよ」
長い沈黙の末に、彼女はそう答えた。
その瞳を見て、遊馬ははっとした。滅多に見ない柔らかい表情の中で瞳には微かに涙が浮かんでいた。本当によくよく見なければ分からないほどではあるが。彼女はとても、綺麗だった。どこか儚げで消えてしまいそうな雰囲気を纏って。
まだ、その彼のことが、好きなんだろうな。遊馬はそう思った。そしてその見たこともない彼を羨ましく思った。彼女から、こんな綺麗な愛をもらってる彼はどんな人間なのだろう。「加藤柚葉という一個人から」愛をもらった彼が羨ましかったのか、単純に愛をもらっている彼が羨ましいのか。
それはまだ遊馬には分からなかった。
「でも、いつかできると思うよ、遊馬君にも」
「…俺にも?」
うん、と彼女はゆっくり笑った。心が、癒されていくような笑顔だ。
「それまで、待てばいいと思う。それに、遊馬君にその気持ちがなくても告白してきた彼女さんの中には遊馬君に本気だった人がいるかもしれないよ?」
今まで遊馬に告白してきた女子たちと言えば遊馬博之というブランドを持つ人間を彼氏にしたがってるような奴ばかりだと思っていたが、確かに全員そうだったかと問われれば答えられない。
彼女の言う通りいたかもしれないのだから。
本気で告白して、それでも好きになれないという理由で別れようと言われたら辛いだろう。
「別に無理して彼女を作る必要はないのかなって、私は思うよ」
ただ、そういう人が現れるまで待てばいい。
「…そっか」
目の前の彼女の意見を聞いて今まで彼女を作ってきた自分がとても馬鹿らしく感じられた。
「この子は本気そうだな、付き合ったら好きになれそうって思えたらいいのかな?」
そう問われた柚葉は頷いた。
「それで──いいと思う」
「…ありがとう」
ウェイターがパンケーキの皿を下げに来た。
ドリンクだけが残る。
「加藤は…その彼がまだ好きなの?」
柚葉は虚をつかれたように驚き、黙った。遊馬もこの質問はしてはいけなかったかと思いながらも待った。
「………………好き、だと、思う」
柚葉は絞り出したような自分の言葉にはっとした。
なぜ迷う?なぜ『思う』だなんて曖昧な表現をしたのだろう。いつだって啓之は私の一番なはずなのに。
俯きがちになってしまった柚葉を遊馬は言葉もなしに見つめるばかりだった。
あれー、なんか短い。すごく短い。ごめんなさい…
というわけで遊馬の恋愛について迫ってみました!
恋を知らない遊馬とそれを知る柚葉の会話ですね。
柚葉さん、どうやら啓之さんへの思いが揺らいでいるみたいです。そんな自分に戸惑ってますね。
次回、夏休み番外編を書こうか書くまいか悩んでます…。
とっとりあえず更新頑張ります!それでは、お読み下さりありがとうございました!(終わり方が雑)