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こんにちは!久しぶりに投稿いたします。
今回は少し甘め…かも?
キーンコーンカーンコーン…
チャイムの音を合図に生徒たちが一斉に紙を裏返し、シャーペンを走らせ始める。
そう。今日から四日間一学期の期末テストだ。教科数が中間と比べて圧倒的に増えるので、対策にはものすごく時間がかかった。柚葉も文系は自分で、理系は周囲の力を借りて勉強をした。
今回はなかなかいけるはずだ、と珍しく柚葉にしては自信を持っていた。由理にも大丈夫だとお墨付きをもらった。私はやれる。私はやれる。
そして最終日。鐘の鳴り響く音が四日間の地獄のようなテストの終わりを告げた。
「終わったあーーー!!」
クラス中が両手を挙げて喜んでいる。このテストが終われば後は夏休みを残すのみ。学校も特別日課が多くなり、授業数がまるきり減る。まるでお祭り騒ぎのようだ。
もちろん、柚葉も例外ではない。由理とハイタッチして「やったね!終わったね!」と笑いあった。
「────で?テストできたの?」
テスト最終日は木曜日だった。ということは図書委員としての仕事があるわけで。必然的に彼にも会わなくてはいけないわけで。
「んー?まあまあ…かな?」
この天才相手にできましたなんて答えを返せるわけもなく。
「顔にできたって書いてあるよ?俺の前だからって遠慮しなくていいんだからね?」
「はーい」
彼との会話も慣れてきたもので、姿の見えない彼に投げやりに返事を返すと、
「加藤さん、慣れって怖いよね」
とそう返ってきた。
彼の過去を聞いて以来、少しずつだけれど、遊馬への見方が変わっていると思う。依然、遊び人なところは理解できないけど、きちんと目標のために努力するような人だってことは分かった。
遊馬の近くの書棚へ本を返しに行ったついでに、と柚葉は遊馬へ話しかけた。しかし遊馬は参考書を開いてはおらず、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
てっきりテストが終わってもすぐに勉強しだすだろうと思っていた柚葉は驚いた。
「天才さんは息抜きですか?」
「ちょっとその呼び方やめてよ」
遊馬はくすぐったそうに笑った。だって天才じゃない。
「その天才さんに、私からお礼でーす」
そう言って取り出したのは赤い袋が特徴的なキャラメル味のお菓子。
実は今回のテスト勉強は由理だけに監督してもらっていたわけではなかった。木曜日限定だが、放課後の分からない問題は遊馬に聞いて解決していた。彼の教え方は分かりやすく簡潔で柚葉でもするすると理解することができた。これもテストの自信繋がった一因である。
「え、それ俺の好きなやつ」
「前好きだって言ってたでしょ、だから」
はい、と両手で差し出す。しかし彼は、
「加藤さんのテストの結果がよくないと受け取れないよ」
とそう言うのだ。
「別にテストの良し悪しは関係なくて、ただ教えてもらったお礼!」
と言うと彼は困ったように笑いながらも受け取った。こういうところが、なんというか、律儀っていうかな…と柚葉は思う。普段との差がありすぎて何だか戸惑ってしまう。
ありがとう、と言った遊馬は、
「食べていい?」
と聞いた。
柚葉はにっこり笑った。
「図書室は飲食禁止です」
「………」
「…と思ったけど、どうせ誰も来ないし特別に許可します」
と少しもったいつけて言うと、
「図書委員の貫禄だね」
と笑われてしまった。袋を破ると辺りにキャラメルの甘い香りがふんわりと漂う。遊馬が一つを手にとって口に入れる。さくり、と軽い音がした。
「うん、甘い」
その時見せた笑顔は大人らしいそれではなくてお菓子をもらって単純に喜んでいる少年らしいものだった。男子もやっぱ甘いもの好きなんだなあ、と柚葉は思った。
「加藤さんも食べる?」
「いいの?」
「加藤さんがくれたんだから当然だよ」
じゃあ、と差し出された袋に手を突っ込み、取り出して食べる。甘いキャラメルの風味が口に広がり、思わず笑顔になる。
「おいしい」
「だよね。しかも底にピーナッツが入ってるのがまたいいよね」
「分かる。甘いのを食べてからのピーナッツ」
男子とまさかお菓子について語るとは思っていなかったので、新鮮だ。
そのまま、お菓子談義に花を咲かせていると。
ガラリと扉が開く音。二人とも咄嗟にそちらを向く。いち早く反応したのは遊馬で柚葉の手を引き図書室の最奥の書棚へ隠れる。
「加藤ー?いないのかー?」
声の主は生徒ではなく、担任のたっちゃんだった。
とりあえず生徒でないことに安心して出て行こうとした。しかし握られた手に力を込められて離せない。抗議するように遊馬を見ると唇に人差し指を当てながら首を振る。出て行くな、ということだろう。
そのまま放置してあるお菓子を指す。
「見つかったら、ちょっとまずいんじゃない?」
耳にそう囁かれて柚葉は体をびくりとさせてしまった。突然のことで心臓がばくばくした。
確かに言われればそうだ。先生のいる所から見えなくもない微妙な場所に袋は置かれていた。しかもお菓子を食べた後なので甘い香りが仄かにする。
ルールを守るべき図書委員が自らそれを破ったとあってはまずい。
「加藤ー?いないのかー?」
たっちゃんが歩き回る音がする。そしてしばらくして。
「荷物はあるのにな…便所か?」
そう言いながら出て行った。
「はあ~…」
柚葉と遊馬は安堵のため息を漏らした。
とりあえず、見つからずに済んだ、のか?
遊馬を見ると未だ緊張が解けきっていない表情で笑った。
「緊張したね」
いや、ってかむしろ耳に囁かれたことの方が心臓に悪い。今でも通常より早いリズムで拍動しているのが分かる。しかも。
「あの…手」
「っあ、ごめん」
そう言われた遊馬はぱっ、と手を離した。
手に伝わっていた温もりが消えた。ずっと繋ぎっぱなしだったのに気づき、柚葉の頬が紅潮する。遊馬はそんな彼女に気づき、思わずまじまじと見つめてしまった。
(………可愛い)
柚葉は遊馬がそんなことを思っていることも露知らず、そこから逃げ出すようにお菓子を回収して袋の端を丸めて手首につけていたゴムで縛った。遊馬に手渡す。
「はい」
「…あ、ありがとう」
「…?どしたの?」
「いや、何でもないよ」
可愛いなんて思ったらすぐ口に出すのにな、と遊馬は思う。この時だけは何故か自分の中にだけしまっておきたかった。
「あ!日誌!」
荷物を漁っていた柚葉が叫んだ。
たっちゃんはだから来たのか。危ない、提出し忘れたら翌日も確実に日直になってしまう。残りをさらさらと書いていると遊馬がやってきた。
「このゴム、今度返すよ」
「うん、分かった」
それでさ、と柚葉は続ける。
「さっき別に隠れなくても良かったんじゃない?私だけ出て行ってもお菓子から目を逸らすことができたんじゃないかなあって」
「分からない?」
くすりと遊馬が笑いを零す。あ、この笑顔の後って必ず彼は、
「二人で隠れてたかったから」
こんな女子を期待させるような言葉を吐く。
話の途中で出てきたお菓子、皆さんお分かりになったでしょうか…。やっぱピーナッツって甘いものとかと合いますよね。柿ピーとかも私は好きです。