第2話 可能性の検証
夜中に目が覚めた。
昨日の感覚がまだ身体に残っていた。
あの「満ちる」感じが、夢の中でも繰り返されていた。
(偶然だったら……)
そんな考えが何度も頭に浮かんでは消えていく。
起き上がって、
頭の中を整理した。
穴を掘った。
角兎が躓いた。
目が覚めたとき、
何かが流れ込んできた
「偶々だ。そんなことあるわけない。」
何度も言い聞かせる。
そんな都合のいいことが起こるわけない。
あり得ない。
それなのに、
朝が来るまで待てなかった。
◇◇◇
夜明け前に裏庭に出た。
父の書庫で読んだ内容を思い出す。
角兎は夜明けと夕暮れに活発になる。
草むらの端を好んで移動する。
障害物があっても迂回せず、
勢いで突っ切ろうとする習性がある。
(ここだ)
草むらが始まるあたり、
昨日と同じ場所に立った。
角兎が走り抜けるとしたら……
「ここしかない。」
手が震える。
天命を使用する。
ぽつ。ぽつ。ぽつ。
五個掘ったところで足に力が入らなくなった。
昨日みたいに倒れる前に止める。
膝に手をついて、息を整えた。
穴は残っている。
掘ってしまえば、
あとは待つだけだ。
そう思い、
俺は少し離れた切り株に腰を下ろして、
草むらをじっと見つめた。
◇◇◇
気づいた時には外が段々と明るくなりかけていた。
穴を掘ってから、
かなりの時間が経っていることに気づく。
しょぼしょぼする瞼をゴシゴシ擦り、
目に力をいれる。
「やっぱり、偶然だったのかな……」
落ち込みかけたその時、
最初の感覚が訪れた。
小さな「満ち」。
昨日より明らかに弱いその感覚に、
足が止まった。
(気のせいかもしれない)
そう思うと、
怖くて足が動かせなかった。
切り株にもう一度腰を下ろし、
次の機会をじっと待った。
……
(来た!)
思わず立ち上がりそうになって、こらえた。
まだだ。もっと確かめる。
二度目が来た。
三度目が来たとき、俺は駆けだしていた。
「はっはっはっ」
息を切らしながら草むらをかき分ける。
穴のひとつに、小さな生き物が前脚を取られていた。
角兎よりも小さな、
鼠に似た魔物だ。
頭を地面にぶつけて動かなくなっている。
「よっしゃ!!!」
拳を高く振り上げた
手が震えていた。
意図して仕掛けた。
魔物が引っかかった。
偶然じゃない。
魔力は朝になれば戻る。
戻ったらまた掘ればいい。
毎日五個。
仕掛け続ければ、
毎日積み上がっていく。
貯金みたいなものだ、とふと思った。
少しずつ、確実に、
誰にも見えないところで。
父の顔が浮かんだ。
この喜びを真っ先に共有したい。
そう思った。
しかし、思い浮かんだ父の顔はここ最近のものだった。
式の日から、目つきが変わっていた。
そこから、俺の中でひとつわかっていたことがある。
いつかこの家を出ることになる。
貴族の家とはそういうものだと、
父とはそういう人だとうっすらとわかっていた。
いつかは知らない。ただ、そう遠くない未来に訪れる。
「それまでに、どこまで行けるだろう。」
その言葉には寂しさと期待が混じっていた。
朝焼けがとても眩しかった。
ーーー
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