『魔法少女だから』と婚約破棄されましたが、亡命先で最強冒険者兼アイドルとしてめちゃモテ愛され期が来た!~今更王子が泣きついてきても、あなたの国はもう滅亡しています~
「ただ飛んでるだけの見世物が!」
婚約者から多くの者たちの前で私は叱責を浴びていた。
「お前が遊んでいる間、聖女がどれだけ祈りで国を守っていたと思っている!」
婚約者の王太子の声に、皆が頷き、私を嘲笑していた。
今日も多くの悪魔たちを撃墜した。
空を舞うあいつらを倒せるのは私しかいなかった。
正面同士の撃ち合いでは、お互いに決め手がない。最後は後ろの取り合いのドッグファイト。
後ろを取られたら、防御の死角から撃ち抜かれたら死ぬ。光に迫る速さで駆け回り、重力や空気の壁に意識を何度も飛ばされそうになりながら、一撃必殺の魔法を放つ。
誰にも届かない高度、凍てつくような蒼い空。 私はたった一人、星の欠片を撒き散らして踊るように、悪魔を次々と墜としていく。
その戦いは、地上からはほぼ誰も見えない。
孤独で、誰からの声援も届かない。
空から落ちて行く悪魔の死骸に、王国の対空砲火の魔法が今更当たり、爆散させる。その死骸の一部が私の服を汚した。
そんなギリギリの戦いを繰り返し、王国に戻る。
戻る時はいつもぼろぼろ。服も精神も。
そして、いつものこの叱責である。
「アリサ。何度言えば分かる。そんな穢らわしい姿で広間に入るな!」
イリファー王国のアベル王太子が、煤だらけでぼろぼろに裂けて肌が露出した私のコスチュームに文句を言う。アベル王太子の横には胸を強調して王太子に当てている聖女という名の王宮にふさわしくない女がいた。
その女が私を見る視線には、蔑みと失望が混じっていた。まるで、私を『役目を終えた飾り』とでも言うようだった。
私はその視線を睨み返した。どうせ、私が空で死にかけていた時にお熱いお時間を楽しんでいたのでしょう、と。
ハルタ侯爵家の長女アリサとして私は異世界転生した。そこは剣と魔法の世界で、いつも魔物の侵攻があった。
この世界ではスキルというものがあった。火属性魔法、回復魔法や剣技というものだ。
後天的に覚えるものもあるが、貴族だと高確率で先天的に得られる強力なスキルがある。
私もその貴族に連なるものなので、その強力なスキルを得た。
魔法少女
ヒラヒラの白く桃色の混じった小学校の低学年までしか着ることが許されないような可愛いドレスコスチュームに変身し、高速で空を飛び回る力と、星型の無属性ビームを撃つことができる。
私、今年で16歳なんですけど……
こんなスキル、他の人で見たことない。
絶対、転生特典的な迷惑要素じゃないだろうか。
変身して魔物を倒しても、みんな場違い感のある私を見て嫌な顔するんですけど。
毎度、マスコットキャラみたいな謎生物が王太子の叱責の後にそっと現れて、世界を救って欲しい、と言ってくる。
せめて、私を労うとかできないのか。時々でいいから、私の現在の立場を守ってくれないのか、そういう話をすると、こいつは逃げた。
頭に来たので、ビームをぶち当てて消滅させた。
世界の前に、今の私の現状を救ってください。
私のこの能力を有益と考えた方々は私の運用を国王に進言した。そして、王国内で緊急事態があれば、即変身し、現場で戦闘。
そして、私はいつも所在がわかるように王宮にいることを命じられ、休みは無くなった。
私の戦いは結局、ほとんど誰にも見えていなく、最後のトドメを食らった魔物に、後撃ちをした者が手柄を全部かっさらっていった。
だから、民衆は私のことを、頭の痛い格好をして、ハズレスキルを使い、魔物が出た時に空を飛んで逃げてばかりいる貴族の少女となっていった。
別に名誉とか実績なんてどうでも良かった。
私は誇り高き侯爵の長女である。
わかっている人にわかってもらえたらいい。
せめて、婚約者には、と思っていた。
婚約者の王太子アベルは、気がついた時には、頭に行くべき栄養の全てが胸に行ったような聖女と、真実の愛を知った、とか言い始めていた。
それ、ただ性欲に負けただけだから、とは言えなかった。そこまで言うと人として終わりのような気がしたから言わなかった。
なお、聖女の仕事は魔物や悪魔の出現を減らす祈りをすることだった。
本来なら聖女の祈りで魔物は減るはずだった。
だが彼女が代替わりしてから、出動は三倍に増えた。そのせいで、私は空戦をすることになった。
疑問を呈すと、誰も向き合わず、王太子は私に敵意を向けた。
それでも耐えた。
侯爵家の娘として、未来の王妃として。
それが私の使命なんだと思っていた。
「アリサ、貴様のくだらない緊急出動の任はもう解く。そして、聖女の清らかな心に嫉妬し、幾度となく嫌がらせをした罰を言い渡す」
今、アベル王太子は、なんと言った?
……ということは、私の代わりに誰か飛べるものが出たのだろうか?
もっと不穏なことを言われそうで、私は息を飲んだ。
「貴様とは婚約破棄する。そして、聖女エリザベスを我が婚約者とする」
その言葉は私の胸の中をえぐった。涙が目に溜まるのを感じた。
でも、それは一瞬のことだった。
重たい鎖が、音を立てて外れる。
初めて変身して空を飛んだ時のような蒼い空に包まれたようなそんな感覚があった。
ああ、自由だ……。
でも、得られた自由とは違う。
どこに行けばいいかわからない不安だらけの自由だ。
「……そうですか。私の戦いはあなたにとってはくだらないものだったのですね。もう二度と、あなたの前で、この『穢らわしい格好』は見せません」
毅然とした言葉を告げるが、足下の重力が仕事をしてないような感じであった。
私はボロボロのコスチュームのスカートの端を摘んで、膝を折り曲げる。
「もう、目の前に現れるな。侯爵にも伝えてある。お前を追い出せとな。侯爵も喜んで伝えると言っていたぞ」
私はその声に返事をせず、王宮を出た。
あの王太子の言葉通りならハルタ侯爵家の両親も助けてくれないだろう。家に戻り、私の部屋から宝石や貴金属をポケットにしまい、荷造りをしていると、
「お前のような変なスキル持ちの娘は、我が家の泥だ」
「その変な格好、これから見なくていいと思うとスッキリするわ」
両親がそう冷たく言い退ける。前世の両親と比べて目も鼻もくっきりして美しい容姿なだけに、余計に背筋が冷たくなる。
私の親も、私を守ってくれないか……それなら、私はここで頑張る理由もなかったんだ。
自領から出た私は、空を飛び、とりあえず近い隣国を目指した。
私は振り向かなかった。
ーーー
隣国クローディア帝国。
その辺境の街で、私は貴族の名前を捨て、ただのアリサとして冒険者となった。
冒険者として魔物の討伐をする際、見た目からひ弱そうに見える私と組んでくれる方々がいた。魔法使いかもしれないと考える打算もあったのだろう。
最初は突如変身して戦う私のフリフリふわふわの魔法少女姿を見た同業者は戸惑い、酷い時は任務中に笑われることはあった。
でも、任務が終わった後に背中を預けあった仲間たちは、助かったよ、また一緒に依頼を受けよう、と盃を交わした。
空を飛び、魔物を討ち、結果を積み上げると、私のことをよく知らない冒険者さえも私を侮らなくなった。
実績の他にも見た目も目立っていたので、すぐにギルドの上役にも覚えられた。
そして、ドラゴンの討伐をこなした。
ドラゴンを討伐する時、不運にも帝都の近くまでドラゴンが侵攻していた。
私は帝都を背に、星ビームを放ち、駆除に成功した。
帝都で休もうと思って、帝都の中に入ると帝国の子供たちが、私の星ビームのキラキラを見て『あの光、きれいだった!』『お姉さんの服、可愛いね!』と目を輝かせた。
その時、初めてこのスキルを持って生まれて良かったと思った。
ドラゴンスレーヤーとなると、私のブロマイドが冒険者ギルドで販売されるようになり、道を歩けばサインをねだられるようになった。
単独のドラゴンスレーヤーとして名を上げて、辺境の貴族を通り越して帝国の皇帝から面会をしたいと言われた。
その後、皇帝から亡国から飛来する悪魔の迎撃を依頼された。
その悪魔は何度も何度も私をイリファー王国で撃墜した悪魔たちだった。
私が飛び立つとき、帝国の貴族、兵士たちは私に敬礼した。
空に舞いながら、ドッグファイトをする時、何故か応援する声が聞こえた。
だから、負ける気がしなかった。
悪魔の襲来が続き、軽いアルコールを飲みたい日があった。行きつけの帝都のバーで、女性のバーテンダーに甘いカクテルを作ってもらった。
そのバーテンダーは、私がチビチビと飲むのを見ながら、
「お客様、空で戦うのは……怖くないですか?」
と聞いてきた。
そのバーには私のブロマイドが飾られていた。余程のファンなのだろう。
本来は、全然余裕、みたいなことを言って怖がらせないようにするべきなんだろう、そう思ったけれど私の口は、全く逆のことを喋り出した。
「怖いに決まっているじゃないですか。
同時に何匹からも狙われて、空の上だと息はほとんどできないし、寒さで感覚がおかしくなって……ただ、死にたくないって気持ちだけで体を動かして、なんとか倒して降りてくる。
でも、私以外に戦える人がいないから、空に飛ぶしかないじゃない……本当は、イヤだよ」
自白剤でも入っているんじゃないだろうかと思うくらい、声が、気持ちがズルズルと引き出される。
バーテンダーはそんなふうに私が露骨に弱音を吐くと思っていなかったみたいで、目を見開いて息を止めていた。
「……いつか、お客様が出撃しなくていい日が来ると……いいですよね」
バーテンダーは苦し紛れに、少し目を泳がせてそう言った。
「ごめん、ちょっとどうかしてた。ありがとう。お代、置いて……」
その瞬間、帝国魔術師からの念話が届いた。
『悪魔の襲来あり』
それと同時に避難警報の鐘を叩く音が鳴る。
「……お客さ……アリサさん。あなたが無事に帰って来ることを祈ってます」
バーテンダーが私に手を差し出した。
「……当たり前じゃない! 必ず悪魔たちは倒してくるわ!」
バーテンダーの手を握り返し、私は外へ出て変身をする。街の人たちは私の現れた姿に驚き、そして声援を上げた。
そうだ、この人たちのために頑張らなきゃ、と思って、空に舞った。
悪魔の襲来は1年程度続いたが、それっきり無くなった。新しい聖女が仕事に励んでいるおかげだと聞いた。感謝しに行ったら、やはりあの聖女じゃなかった。
あのバーテンダーの子だった。
「自分にも出来ることないかな、と思っていたら、聖女の素質があったそうで……お酒以外に役に立て嬉しいです」
もう、私に空を飛んでドッグファイトをしなくてもいい、そう有言実行したのだ。
私の不自由な空を奪ったのだ。
感謝しきれない。
私はこのスキルのせいか、年は取らなくなってしまった。全盛期を知る人は、私に敬意を示し、知らない人はアイドルのように崇めた。
平和になり、仕事はめっきり減り、暇ができた。新聖女から
「私のいた店、暇なら手伝ってみませんか? 意外と、楽しいんですよ」
と言われた。お金には困っていないが、暇つぶしと、新聖女のお願いとあらば、とお店で働いた。
お酒を運ぶ私の姿に、皆は驚き、私のお金の心配をしたが、説明すると納得していった。
お酒を運び、少しの空き時間が目に留まったのは、少し調律の狂ったピアノ。そう、ピアノはこちらの世界にもあったのだ。元の世界で6年くらいピアノはやっていた。貴族の生活で、さらに10年くらいやらされた。
私は少しだけ、ほんの出来心でピアノを弾いた。
本当に軽い気持ちだった。
私も少し悪かった。ちょっとだけ弾けるこの世界の人たちが知らない音楽、歌を奏でたのだ。
歌い終わると、拍手が起きた。
でもそれは、歓声じゃなかった。
静かで、あたたかい拍手だった。
「……また、聴かせてもらえませんか」
そう言ったのは、常連の女性だった。
涙を拭いていた。
その夜から、私は弾き語りをするようになった。
誰かに義務を与えられたわけでも、命じられたからでもない。
そして、ある夜に転機が訪れる。
いつものように弾き語りを終えたあと、誰かが言った。
「……変身、して歌ってくれませんか?」
一瞬、空気が止まった。
私の顔が固まるのがわかる。
私は笑って誤魔化そうとしたけれど、
「お願い」
「見たい」
声はひとつじゃなかった。
たまには、いいだろう。
ただの余興だ。
私は席から立ち上がり、息を吸って、変身する。
光が弾け、星屑のように舞う。
白と桃色のフリルがふわりと広がり、私の身体を包む。
魔法少女の姿になった瞬間、酒場は悲鳴のような歓声に包まれた。
そして、先ほどまでの、静かな拍手が、大きく、どんどん大きくなり、熱狂的な声援が聞こえてきた。
「本物だ!」
「可愛い!」
「ア・リ・サ! ア・リ・サ! ア・リ・サ!」
皆は徐々に熱狂するようになり、その夜、酒場は壊れた。
正確には、壊れたほど人が押し寄せた。
次からキャパシティオーバーが無いようにと、酒場からちょっとしたホールで演奏会が開かれたが、押し寄せる人は日に日に多くなり、気がつけば大きな広場にコンサート会場が設営され、私のピアノだけではなく、パーカッションや弦楽器の演奏家、私が踊れる時間があるようにと別のピアニストまで準備されてしまった。
その上、私のためにと新しい曲を私のために作り演奏してくれた。
今日もコンサート会場で、変身した瞬間、滝のような声援と拍手が響き渡った。
そして、
「みんな、今日も集まってくれてありがとう!」
と声を張り上げ、かつては殺すためだけに放っていた光を、今は祝砲として空に撃ち上げると私のファンが一斉に湧き上がる。
「ア・リ・サ! ア・リ・サ! ア・リ・サ!」
体から震えるような声援。
「ア・リ・サ! ア・リ・サ! ア・リ・サ!」
地響きすら感じる震え。
「ア・リ・サ! ア・リ・サ! ア・リ・サ!」
飛び跳ねながら、私が星ビームを飛ばす指先の動きを真似る聴衆たちが目の前にいた。
こんな風になるなんて思ってもいなかった。
平和な時間が訪れて、私の歌、そして変身した姿でこんなに喜んでもらえるなんて……。
ファン一人一人の笑顔を見つめる。
私が命をかけて守ってきた人たちの笑顔。
そして、私の熱狂的なファンたちでもある。
すると、ファンたちを押し除けて怒りに満ちた顔つきの白髪の中年男性が壇上に近づいてくる。
「なんで戻ってこなかったんだ! お前のせいで国がなくなったんだぞ!」
そう叫びながらとうとう壇上に上がってきた。
王太子の顔に似ているな、と思った。
でも、そんな人はこんなところに、そんなボロボロな服を着て現れるわけがない。
「あの聖女が……エリザベスが、祈りなんて一秒もしていなかったんだ!
あいつはただの詐欺師だったんだ!」
その男の叫び声が、私のファンたちの声でかき消された。
「黙れ!」
「帰れ!!」
怒号が男を包み、そして、公演のスタッフたちが白髪の中年男性を摘み出した。
私は気を取り直して声を張り上げた。
「ちょっとアクシデントがありましたが、このまま始めますね! スタッフの皆さん、ファンの皆さんありがとう!」
その一言で、また歓声が爆発した。
そうだ、私は、もう一人じゃない。
「それじゃあー 気を取り直して この曲行くよ!
『魔法少女だから』という理由で、すべてを失った私」
音が鳴る。
光が舞う。
声が重なる。
私はもう、
空で独りきりじゃない。
それに今の空は、自分で選んだ空だ。
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