表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

陰キャとひめちゃん

作者: ほしくず
掲載日:2025/11/17

前に書いた「わたしちょっとけっこう年上なんですけど」というお話の、主人公の魂がいなくなった後に、残された主人公の身体に入ってくれた方の話です。

よかったら読んでみてください。

向かいの席の星空ちゃんは、今年で入社三年目の 女の子でとってもかわいい。

星空と書いてせいらだって。

名前からしてかわいい。

姫っぽいから心の中でこっそりひめちゃんて呼んでる。


ひめちゃんは黒髪、清楚。

服も派手すぎないけどかわいい。好き。


物静で、いつも集中して仕事をしているけど、いったん話し出すと意外とよくしゃべるし、博識だし、下品なこと言わないし、笑うところころと周りが明るくなるようなとてもいい笑い方をするんだ。

それに、気が利いてとっても優しい。

俺みたいな陰キャにも優しく挨拶してくれる。

おはようございますって言ってくれる声もかわいい。

それでいて仕事は真面目で、いつも一生懸命で、勉強熱心で頑張り屋さんで。

会社の誰からも好かれるとっても良い子なんだ。


でも最近ちょっと様子が変。


風邪をひいたとかで何日か会社を休んだ後なんだけど、急に様子が変わってしまったんだ。


今まではハキハキして明るく元気だったのが、なんというか急にオドオドして自信なさげな様子の女性に変わってしまったような気がする。


それから仕事のことも、なんだか急にわからなくなってしまったようで、ミスが多くなってしまったんだ。

周りの人も心配しているし俺も心配。


だからずっと見ている。

もちろんこっそり、気づかれないように見守っている。

心配してなかった時も見てたけど、最近はもっとも見てる。


今も見てる。

ああ、ひめちゃんかわいい。


おっと、いけないいけない、あんまりひめちゃんばっかり見てると自分の仕事が進まないや。

ああっ、でもひめちゃんかわいいな。


肌も綺麗だし声もかわいいしーと思ったら ひめちゃんと同じプロジェクトやってるお局ちゃんがやってきた。

なんか明らかにひめちゃんの後頭部を注視しながら険しい顔で向かってきてる。


あの人、まじでヒス&ヒスだからな。

こわそう。と思ってたら、あー・・・はじまった。


ひめちゃんが攻撃されてる。なんか怒られてる。


ああああああ、ひめちゃん、資料が間違ってたのか。

ひめちゃんが休む前にうけてたっぽいお仕事だけど、ああっ、休んでたから忘れて間違えちゃったのかな、まずいよひめちゃん、いけないよひめちゃんそれはいけない。あの人、他人のミスを責める界隈では日本代表クラスの実力あるし、本人の戦意も高そうだし、ひめちゃんみたいな若くてかわいい子はだいたい皆殺しだし。


どうして間違っちゃったんだろう。

前のひめちゃんだったら簡単にできる資料なのに。

あの資料は過去3年間の資料を見比べてデータを出せばひょいっとできちゃう資料なのにな。

前は失敗して怒られたりしなかったのに。

やっぱりちょっと変だ。

ああっ、お局ちゃんに超怒られてる、かわいそうに。

どうしよう。

声かけようかな、でも俺なんかが声をかけていいわけじゃないしな。

どうしようどうしよう。

あの資料は共有データを見てちょっと写すだけで済む話なのに。

あーお局ちゃんが激高していらっしゃる、どうしようどうしよう。


そうだなあ。

ひとまず、お局さまを他の用事で呼び出させてしまおうか。

いったん引き離すのが得策だ。

お局ちゃんを呼び出すにはどうしたらいいかな。

うーん。

そうだなあ。

お局さまの大好物・吉田君に頼むのはどうだろうか。

吉田君は二つ下の後輩で、イケメン。

お局ちゃんから常時、スキスキ☆ビームを受けているのに平然している剛の者だ。

しかも要領もよくて、何か難しい仕事があると、すぐ、『おねーさまおねがいです(はーと)』とか言って、お局ちゃんにぶん投げるのが得意技ときてる。すごいよな。


緊急登板だ、彼を使おう。

ちょっと廊下に出てこそこそ小声で電話する。


「もしもし、吉田君ですか」

「もしもし吉田です。ってなんすか原田さん。久々にもしもしって単語を聞きましたよ」

「いつ以来?」

「あの夏の祖母の家以来です」

「それはなつかしいなあ」

「なつかしいですね。思い出させてくれてありがとうございました。では失礼いたします」

「あーっ、まってまって。マジまって」

「なんですか、忙しいんですよ」

「とっても忙しい吉田君にお願い。月岡さんがピンチなの。お局ちゃん誘導行ける?」

「まじっすか。どれどれ、あっほんとだ。やってますねー、任せてください。どうでもいい急ぎじゃない資料作りがあるんですよ、そいつをぶつけます」

「すまん、恩に着る」

「いいんですよ、お礼はアイテムで返してください」


陽キャイケメンの彼とはオンゲ友達だ。

オンラインの友情は、現世の友情に勝る。・・・こともある。

ゲームでも会社でも頼りになるやつだぜ。


電話を切って、コーヒーを作ってから席に戻ると、すでにお局ちゃんは去っていた。

よかった、ひめちゃん。


お局ちゃんにぎゃんぎゃん言われてた資料は、部の共有データにあるやつだけどわかるかな。

直すなら早いほうがいいんだけど、大丈夫かな、と、思ってたらすぐにパソコンに向かって作業を始めている様子、この分なら大丈夫だろうな。

よし、ひめちゃん見守りに戻るか。

気づかれないようにこそこそチラチラ。

やっぱりかわいいな、ひめちゃん。


~~~


たいへんだ、たいへんだ!

へんたいだ、へんたいだ!

たいへんへんたいだ!


塚本部長がやってきて、ひめちゃんにからんでやがるぜ。

塚本といえば、昔は鬼といわれた凄腕の営業だったらしい。

取引相手も身内も踏みつぶしていく、壮絶なスタイルで何人もの同僚を退職させたとかさせなかったとか。

しかし、会社から何度も何度も強制受講させられたハラスメント研修の成果で、今は面倒見がよくて優しい紳士として評判の男になっている。


だけども僕達は知っているんだ。


塚本は鬼をやめておにーちゃんになったということを。


どうやら、妹キャラに「おにーちゃん」と呼ばれて甘えられたいという性癖があるらしい。これは親友の吉田君情報だから間違いない。


おにーちゃん。

おにーちゃんは妹を常時募集している。

鬼時代は血を欲し、おにーちゃん時代は妹を欲す。

やべえなまじで。何かを求めずにはいられないのかよ。


なんでも、同じ部の部下の中でも、いもうと味のある女子を選んで、悩みを相談するような流れで食事とかに連れ出し、妹役の女子にいつの間にか逆に悩みを相談し始め、いつしかおにーちゃんの立場で甘えはじめるという・・・

甘えるなら、姉に弟がするもんじゃないのかと思うけど、自分がおにーちゃんで、妹に甘えるというのが譲れない設定らしい。


へんたいだな。


そんな塚本部長が僕の大事なひめちゃんと話してる。

いつもは優しい紳士だからな。

ひめちゃんもなにやら楽しそうにお話してる。

大丈夫かな、ひめちゃん。

塚本部長に食事とか誘われてないだろうか。


と、おもったら少し大きな声。


「あっ、大丈夫です!今のところ自分で解決できない悩みはないです!でも、お気遣いありがとうございます!」

「あっそうなのね、よかった。でも何かあったら遠慮せず相談してね」

「はい、ありがとうございます!その時はよろしくお願いします!」


ひめちゃんすげー。

「悩みがない」は強い、これはクリティカルだろう。

悩みがない奴なんていないからな。

部長の微笑を浮かべたお顔が少しひきつっているように見えなくもない。


敗走していく部長を笑顔で見送るひめちゃんは、まるで敵を打倒した女戦士のようにも見える。

凛々しい。かわいい。

と思ったら、振り返ったひめちゃんと目が合ってしまった。

やべ、見てたのがばれちゃう、不快にさせちゃう。

そう思って急いで視線を下に向けようとしたら、ひめちゃんはこちらに向かってにっこりスマイルをくれた。

かわいい。

なんでスマイルをくれたのかわかんないけど、かわいいよひめちゃん、大好きだあ。


でもさ、もしも水着か下着だったらもっとかわいいな。

笑顔のひめちゃんの服を透視して中を見たい。

ブラの色は何がいいかな。

ピンク?白?いやいや、黒だよ黒。いもうと味あふれるひめちゃんが、まさかの大人下着だったら俺はビビる。ビビって童貞と人生をささげちゃうかもしれない。なんなら童貞は今すぐにでもささげたい。


そう、へんたいは部長だけじゃないんですよ。ふふふ。


なにやら邪悪な気配を察知したのか、ひめちゃんの笑顔はすぐに消えて仕事に戻ってしまった。

カンがいい女だぜ。


~~~


今日は大事なミーティングの日。

ひめちゃんのチームのプロジェクトの発表日だ。

お局ちゃんも緊張気味。

ひめちゃんも緊張気味。

なんと、エースの松原主任が、奥さんのご出産立ち合いで不在ときたもんだ。

なので、発表者はひめちゃん。

がんばれ!ひめちゃん!


数か月前に長めのお休みを取った後、少し様子がおかしかったひめちゃんだったけど、今では以前のように明るくハキハキしているからまあ大丈夫なんだろうけど。大丈夫だよね。

心配は無用かな、と思っていたらひめちゃんの発表は順調に進み無事終盤へ。


あとは、恒例の役員さんからの意地悪質問タイムだ。


このプロジェクト自体は、会社が推している方針に近いし、なんといっても専務系列の意向で進めてるやつだからまあ、大丈夫ではなかろうかと思っていたら、常務が手を上げた。


「ちょっと知りたいことがあるんだけど、いいかな」


この常務は副社長派で、専務とは犬猿の仲として有名。

これ、あれかな、ちょっといじめられちゃうのかな、ひめちゃんがんばれ!


「うんたらかんたらなんたらかんたらほんばっぱあっあっ・・・」


常務は東大卒。

無駄に頭はいい。

人の心は読めず、嫌われ者で、仕事を進めるのはさっぱりだけど、仕事を遅らせたり止めたりする技術は本当に素晴らしいものを持っているんだ。


いまも何言ってるかわかんないけど、おそらく、嫌がらせを言っている。


「・・・だっふんだだっぷんだうえうえうえうえあばばばばば」


常務の鋭い質問に、ひめちゃんは沈黙してしまった。

こんな時に、助けに入るのは主任の役目なんだけど、今日はいない。

お局ちゃんは、助けに入るどころかちょっと敵サイドみたいに悠然と構えているし。


ひどいね~、ひめちゃん、困っちゃうよね。

ひめちゃんはわかるかな。

このおじさんはあれですよ、内容ではなく立場にむかって文句を言っているんですよ。

専務系列のプロジェクトだから、あれやこれやと意味のない質問をしているんですよ。


そんな派閥の存在感を示したいだけの、どうでもいい質問には、こっちもどうでも言い返しをすればいいんだよ。


例えば、お前なんかに負けるはずないんだぞと、余裕を見せるために『ご質問ありがとうございました』とか、にっこり、ゆっくりお礼を言う。それから余裕たっぷりに、『そのご質問にお答えする前にー』とかあたりを見回しながら、ゆっくりと話す。『今一度、このプロジェクトの意義について説明いたします』とかいって、最初から、導入を話し始めんだ。

これは何も答えになってないけど、とりあえず、おかしなことは言ってないから時間が経過していくし、相手も疲労するし、その間に何か言うこと考えられるしだ。まぁ、こんな悪い政治家のおっさんみたいなムーブはひめちゃんはやらんだろうけどね・・・


おもむろにひめちゃんが、うつむいていた顔を上げ、元気な声で返事をしだした。


「八木常務、ご質問ありがとうございました。貴重なご意見、しっかりとお答えいたします。ですが、お答えする前に、今一度、本プロジェクトの意義について。説明させていただきます」


そういうと、ひめちゃんはプロジェクトの冒頭の説明をはじめから語り始めた。


あちゃー。

ひめちゃん、だめだよ、そんなおじさんみたいなかわし方をしては。

イメージが悪くなっちゃうよ・・・

まさか、清純で可憐なひめちゃんが、悪い意味での鈍感おじさんムーブで、常務の質問をかわしはじめてしまった。

これはいけない。

そうやったら面白いだろうとは思ってたけど、ほんとにやっちゃだめだよなあ。

どうすんるんだろ。

かわいいひめちゃんなんだから、むしろ、いじめられているように振舞ったほうが、今日はきついけど、あとあと、みなにかわいがられるというのに・・・交渉上手はひめちゃんのキャラじゃないと思うな。


「つまり、利益はもちろんですが、社会貢献についても・・・えっ?!・・・」


えっ?

なに、どうしたの?大丈夫?

ひめちゃんが、突然話を止めてしまった。


「・・・・・・」


なにやら、少し怒ったような困ったような顔で俺たちのほうを見ている。

というか、俺のこと見てないか?なんか怒ってる?あれ?

どうしたの?話すこと忘れちゃったのかな。


まあ、今やり始めようといていたつまらない説明は、ほどほどでおしまいにしちゃったほうがいいな。


それよりも、王道ともいえる必殺技を使ったほうがいいさ。

かわいい新人女子社員であれば皆が会得している、必殺技『丸投げ』だ。

伝説の柔術家のように、全部、先輩に放り出しちゃえばいいんだよ。


この土壇場での投げ先はもちろん、同じチームのお局ちゃんさ。

主任がいないんだから当然だとも。ワンチーム、ワンチーム。


意外かもしれないけど、お局ちゃんは実際、超頭がいいから今回の質問の答えを知っているのは間違いない。

でも、超意地悪だから、助けを求めてくるまで助けないんだ。

だから、ちゃんと正しい言葉で呪文を唱えれば、彼女が助けに入ってくれるはず。

重役の前でアピールできるしね。


「・・・・・・」


その呪文は、『この意義あるプロジェクトチームの柱である、尊敬すべき先輩、水上さんからお答えさせていただきます』とかなんとかでいいんじゃないだろうか。


適当にリスペクト溢れ出すような感じでマイクを渡しちゃえばいいのさ。

あー、そうそう、ちょっと困ったような感じで、お隣のおつぼねちゃんをちらっと見て、目線を合わせてからお願いしちゃいなって。大丈夫だよ、今ここで断られたりしないから。まーでも、日ごろのツンケン具合から考えると難しいよね。

この辺の機微、わからんだろうなあ。無理かな。どうしよう。ひめちゃんかわいそう。


「・・・こほん。失礼いたしました。八木常務からのご質問には、同じチームの尊敬する先輩である、八木さんから回答させていただきます。本プロジェクトでも、陰に日向に力を尽くしてくださいました。八木さん、よろしくお願いいたします」


そういって、ニッコリ笑顔でひまちゃんが、お局ちゃんにマイクを渡すと、これまでの不仲ムーブが噓のようなシャインスマイルのお局ちゃんがマイクを握り、颯爽と登壇。

なんだよ、おねーさん、思った以上に意欲的だな。


しかし、ひめちゃん、よくわかったなあ。

あの場面でお局ちゃんにぶん投げるなんてなかなか思いつかないと思うけどな。

しっかりしてるというか、度胸があるというか。

ひめちゃんは、姫なのにすごい。


マイクを握ったお局ちゃんは想定以上の働きで、意地悪な常務の攻撃をさらりとかわして、ミーティングは終了。

おそおらく、無事承認を受けてプロジェクトは進むだろうな。


結局、なんやかんやひめちゃんより、お局ちゃんが目立っちゃったけどいいよね。

簡単なところはひめちゃんに任せて、難しいところは私がやります、みたいな感じでお局ちゃんは大満足。


まあ、これでいいんだよ。


ミーティング終了後、はけていく皆の衆の中にまぎれる僕を、ひめちゃんがものすごい険悪な目つきでにらんでいらっしゃるように見える。ジト目というのはこういう感じの目つきのことだろうか。

と思ったのは一瞬で、ひめちゃんは急に良い先輩的な雰囲気をまとっているお局ちゃんと部長に拿捕されていずこかへ消えていった。


まあ、上手くいったから何か美味しい物でもおごってもらえるんじゃないだろうか。

お疲れ様、ひめちゃん。


~~~


今日も今日とて、いつやっても大丈夫な求められていない仕事を再来月分まで進めていると、ミーティングから帰ってきたひめちゃんが視界に入った。


ひめちゃんはやっぱりかわいい。

清楚なんだよな。

身体の均整がとれてるんだよな。

あとお胸もなかなか・・・

ああ。

あぶない、また危うくエッチな想像しそうだった。

いかんいかん。

違うことを考えよう、違うこと違うこと。


そうだな、先週行った居酒屋のことを考えよう。

美味かったから今日また行っちゃうかな。

頼んだのはレモンサワーと焼き鳥、もつ煮、それから焼き魚だったな。

焼き鳥はやつぱり皮だな。一回蒸して脂を落としたのを炭火でしっかり焼いてあって、外がわカリッとしてて中はやわらか、ちょうどよい濃すぎない甘辛のたれ。塩はゴミ。たれですよたれ。これがまたレモンサワーと相性が良すぎたし、もつ煮は赤みそでコクがあって美味かったなあ。焼き魚はカマスだった。珍しいね。脂がよく乗ったカマスにレモンかけてさ。焼き加減最高だったし。カマスは毎回メニューにあるわけじゃないらしいけどもう一回食べたいなあ。

よし、いいぞ。

この、今日行く居酒屋の妄想で、えちえちコスひめちゃんに勝つ。

ひめちゃんの裸エプロン姿なんて想像している場合じゃない。

居酒屋のがひめちゃんより強いんだ。


おっとメール着信。

なんだよ、俺は忙しいんだ。今日行く居酒屋にカマスがなかった時に何を頼むか考えなきゃいけないんだ。


むっ。

むむっ。

ひめちゃんからだ。『今日』だって。


なんだよ今日って。

『仕事のことで相談があるので、今日、夕食一緒にいかがですか』


え、なにこのメール。

相談?え、なにこれ、僕、セクハラかなんかしたっけ?

いや、セクハラなら加害者本人に相談なんかしないか。

チラリと正面に座るひめちゃんを見ると、僕のことなんか無視するかのようにパチパチとキーボードを打っている。


どうするもなにも、どうしよう。

ひめちゃんと一緒に・・・

怖い。嫌われたくない。どうしよう。

食事ってどこ行けばいいのさ。お、おしゃれなイタリアンとか?

お寿司か?まさかフ、フレンチか。どうしよう、どうしよう。

行きたい、けど怖い。行きたくない。どうしようどうしよう。


と、焦る僕にまたメール、なんだよ、忙しいんだけど。


『居酒屋』

え、またひめちゃんからだ。なにこれ。

『今日の相談は居酒屋でお願いしたいです。できれば、焼き鳥とかもつ煮がおいしいところで。お酒も少し飲みたいです』


な、なんだとーーー!

そ、そりゃそうだよね。

普通の会社員だし、同僚だし。いきなりフレンチはなかったわ。

ほっとした。

とりあえず、返事をしておこう・

えーと、「僕でよければ、何でも相談してください。おいしい居酒屋知ってます」でいいかな。

一応、模範解答をAIに聞いて修正してから返事しておこう。


~~~


結局、居酒屋でひめちゃんから仕事の相談はなかった。


普通に焼き鳥食べて、もつ煮食べて、レモンサワー飲んだ。

カマスもあったから焼いてもらって二人で食べた。

おいしかった。


でも、仕事の相談はなかった。

相談なかったけど、パインは聞かれた。

『色々相談したいから』って。


パインとはメッセージアプリだ。みんな知ってる、みんなやってるパイン。

吉田君とはいつもやってるパイン。

ひめちゃんとパインでつながるなんて。

・・・

通知音をオンにしちゃおうかな。


どうしよう。

どうもこうも、なんともならないのはわかっているけど、どうしよう。


家についたらパインでメッセージが来てた。

『今日は楽しかったです。また行きたいです』

だってさ。


その晩は、家についてから寝れなくってもっともっとお酒を飲んでから寝た。


翌朝、かすかに二日酔いで、少しだけだるいまま会社へ。


目の前にはいつもと変わらぬ笑顔のかわいいひめちゃんがいる。

ひめちゃんはピカピカな笑顔だ。

清楚で可憐で明るくってみんなの太陽、ひめちゃんは今日も元気だ。


そんなひめちゃんと、僕は昨日二人きりで居酒屋に行っちゃいました。


しかも、また行きたいです、だってさ。

こういう場合って、どうしたらいいんだろう。


僕は楽しかったのだろうか。

ひめちゃんから相談があるっているから行ったんだけど、結局、何の相談も受けなかったし。

普段何してるのかとか聞かれたり、おいしい居酒屋の話とか、映画とかゲームの話ばかりで、仕事の話は何もしなかったな。


多分楽しかったんだけど、ひめちゃんが可愛すぎて、上手くお話できていなかったように思うんだけど、ひめちゃんも楽しかったんだろうか。

楽しかったってメッセージはよくある社交辞令ではないだろうか。

調子に乗って「ぼくも楽しかったよ、また行こう」なんて送って、嫌に思われたりしないだろうか。

なんて返事したらいいんだろうか。

どうしよう。と思ったらパインがきた。


『ちょっと、返事くださいよ』


チラっと正面のひめちゃんをみると、仕事の時の真面目な顔でスマホを操作している。

すんごい仕事してそうに見える。


俺はあせっちゃって平静が保ててないよ・・・あわあわしながら急いで返事をしちゃう。


『僕も楽しかったです、ありがとう』


すると、すぐに返事が来る。びっくりするくらい即。

『今週の金曜日は空いてますか、また行きましょう』


えっっっ。

なにこれ!


~~~


暗い何もない場所だった。

そこで光はあの時のことを思い出していた。


男にも女にも、騙されて裏切られて、最後の最後まで騙されて、全て失って、もうどうしようもなくなってしまったので、光はついさっき自殺したばかりだった。


自殺したら地獄に行くとかなんとか聞いたことがある気がするけど、このまま生きてるほうが地獄だったのでしょうがなかったのだ。


死んだらどうなるのかなと思っていたら、何もない場所に立っていた。


目の前には女性がいた。

きれいな人だ。


その人はうっすら光っていて、セレネリアと名乗った。

彼女は、自分のことを異世界の神だと言った。


はあ。


なんだかわからないけど、もう、死んだ身なのですべて受け入れることにする。

だって死んでるんだから。

いまさら何があっても関係ないから。

この人が神様だってなんだって知ったこっちゃないわ。


きれいな女神様はおっしゃった。


『お願いがあるのです、ヒカリ』

「お願い?」

『そう、あなたにある女性になって欲しいのです』

「どういうこと?」

『ある女性の魂を、この世界から元の世界へ戻さねばならないのです』

「はあ」

『そうしますと、彼女の肉体から魂がなくなってしまうのです』

「はあ」

『その代わりとしてあなたの魂に体に入ってもらいたいのです』

「はあ」

『どうかお願いできませんか』

「はあ」

『気が進みませんか?』

「進みませんね、どうして私なんですか?」

『それは、あなたの魂が最も器となる体との相性が良いからです』

「私の魂がですか?こんな?死にたくて死にたくて苦しんだ私が?」

『そうです。あなたの魂はとても清らかだからです』

「はあ」

『清らかであるがゆえに、あなたのこれまでの人生はとてもつらいものでした。自ら命を絶ったあなたの魂は、これから次の人生を送るための準備に入るのですが、その前に、魂にこびりついてしまった穢れを取り払い、傷を癒すことになります。すでに傷ついているのに、あなたの魂にこびりついた穢れは相当なもので、それを祓い清めるためにもっともっと傷つくことになるでしょう。そうすると、あなたの魂はとても小さな小さな魂になってしまうのです』

「小さくなるとよくないんですか」

『考えることも動くこともできない、生まれてすぐに消える運命の生き物を器として何万年も過ごすことになるでしょう』

「でも、生きているのは苦しかったですよ。苦しまないで済むならば、そういうのもいいと思うんですけど」

『確かに、そう思えるほど、あなたの人生はつらいものでしたね』

「まあ、はい」

『そこでお願いなのです。ある女性となり、人生を過ごしてほしいのです。彼女が自らの魂を異界に渡らせる条件が、元の家族や友達を悲しませないということだったので、その約束を果たさねばならないのです』

「また生きろってことですか?もう、不幸になりたくないですよ。やりたくないです」

『あなたの人生がよくないものであったことは知っています。あなたの魂は清らかすぎたのです。そして生まれ落ちた場所が悪すぎました。あなたは騙され利用され、不当に踏みにじられてしまいました』


そのことを思い出すと、悔しくなり涙がこみあげてくる。

誰もが光から取れるだけむしり、取れるものが無くなると決まって外へ蹴り出すのだ。


『元の肉体の持ち主との約束で、その新たな主を幸せにする義務があります。そのために一つだけ能力を与えることができます』

「能力?」

『そうです。それは、他人の心を読む力です。強い力です』

「テレバシーってこと?」

『そうです。あなたが知りたいと思う人が今何を考えているかがわかる力です。悪用すれば際限なく災厄を振りまくことができる能力です』

「誰でも心を読めるの?」

『はい、だれでもです』

「それって、いいの?まずいんじゃないの?私が悪用したらどうするの?」

『どうもしません』

「悪用するかもよ?」

『そうは思いません。あなたの心は清いのです。地獄のような環境の中でも、常に他人の幸せを考え、何度、裏切られても人を信じ続けたのを知っています。あなたに、星空という名前の女性の体の新たな主になって欲しいのです』

「星空って名前なのね、その人」

『はい、彼女は異世界の国を救うために、魂を飛ばし旅立ちました。どうか、彼女の残した体をあなたに幸せにして欲しいのです。もし、無事に彼女とその周りの人たちを幸せにしてくれたのならば、あなたの魂の穢れは払われ、傷は癒えるでしょう』

「私でいいの?」

『あなたしかいないのです、どうかよろしくお願いします』


~~~


私がもらった体は星空と書いてせいらと読む、とてもかわいい名前の、顔も姿もかわいい女性だった。

新しい肉体がとても良い物だとわかって嬉しくなったが、その後は大変だった。


家族と友達の名前や思い出なんかは肉体に残っていた記憶がありなんとかったが、実際の行動が困った。

どうやるか、は知っているが、「星空のようにやる」というのが難しい。

大いに戸惑うことになった。


特に職場で困った。

星空は、会社員三年目だったが優秀だからか、すでにプロジェクトに入ってバリバリと仕事をこなしていたのだ。

東京のきれいなオフィスで、パソコンをパチパチたたきながらタブレットをすいすいといじる、ドラマの中の人のような人生を送ることに慣れるのに何か月もかかってしまった。


その慣れに大きく役立ってくれたのは向かいの席の原田という男だった。


同じ部の彼は、優しくて気持ち悪い人だった。


能力はあるのにコミュ症で、アピールができないようで、達成している仕事のわりに社内評価が低いのだが、そのことを本人は何とも思っていない人だった。

心が自由な人だった。

仕事はちゃんとこなしているのに、暇さえあればくだらないことを考えているようだった。


そして、あきらかに星空のことを好きだった。


いつも星空のことばかり考えている。

星空に色々なコスプレをさせてひどいポーズをとらせたりするので心を読むのがとても嫌で、読むときに勇気がいる人だ。


こんなにエッチなことばかり考えているのに仕事はちゃんとこなしているのがすごいと思っていた。


しばらくのあいだ、彼の心を読むことには抵抗があった。しかし意を決して何度か覗いてみるうちに、彼がいつも気持ち悪いことばかり考えているわけではないと気づいた。

くだらない妄想の合間に時折ユーモアがあり、いつしか私は彼の心を頻繁に覗くようになっていた。そしてある時気づいたのだ。彼は、人を傷つけるようなことをまったく考えない人なのだということに。


オタクでコミュ症なのに、彼には少ないながらも気の合う友人がおり、社内の事情にも詳しかった。そのため、会社の仕事で悩む星空に、的確な助言をくれることもあった。


そして星空の中身が変わったことに、誰よりも早く気づいたのも彼だった。

洞察力がとても高いのだ。彼の観察眼は星空だけでなく周囲の人にも及び、人間というものをよく理解しているように見えた。とはいえ、まさか星空の魂が入れ替わったとは思いもしなかったようで、ただずっと心配していた。


彼はいつも星空を注視しているので、最初はとても気味が悪く感じたし、「中身が違う」ことに気づかれるのではと恐怖もあった。

しかし、それが実は大きな利点であることに気づいたのは、いつ頃だっただろう。


たとえば、私が怖い女先輩に叱られていたとき、こっそり後輩に頼んで事態をうやむやにしてくれたり。

ちょっとかっこいい部長に優しくされたときには、「実は危ない変態だ」と教えてくれたりした。

——正確には、教えてくれたというより、私が勝手に心を読んだだけなのだけれど。


彼はいつも私のことを考えてくれていて、私が困ったときには、どうすれば良くなるかを真剣に考えてくれていた。


奥手で陰キャでコミュ症の先輩。

仕事はできるけど、控えめだから出世はしないかもしれないけど、私はいつからか彼を好きになっていた。


鈍い彼には、はっきり言わないと全然わからないので困ったけれど、ようやく、今度、彼の家に泊まりに行くことになった。


この前、一緒に映画を見に行ったあと、あまりにも言ってこないから自分から泊りに行きたいと伝えたのだ。


彼はこの一週間大混乱している。


部屋の掃除はともかく、寝る時に、星空をベットに寝かせて、自分はお風呂場で寝たほうがいいのだろうかとか真剣に悩んでいるのだ。仕事中もずっと悩んでる。


お願いだから、吉田さんに相談して。


あなたが悩むべきは、一緒に見る映画は何にしようかとか、夜にかけるロマンティック曲選びとかそういうことじゃないの?お風呂で寝るなんて、ほんとにもう。


そもそも、ちゃんとゴム持ってるのかしら。

あやしいわよね。

私が持っていったら傷つくかしら。


などと考えたところで、ふと女神さまのことを思い出した。

あの女神様は私のことを見ているかしら。


お陰様でなんとか幸せにやってますよ。

この人生をくれた元星空さんにお礼を言う機会があったらよろしく伝えてください。

テレパシーで心が読めるという設定は、6億年前からある素晴らしい設定ですがちゃんと面白く書くのは本当に難しいです。

修行を続けます。。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ